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第Ⅰ章 出会い
数奇な巡り合わせ
しおりを挟む他愛のない会話をしながら四人とロボットは道を進んだ。
ふと前方に小さな人だかりがあるのを、一番の長身であるポールが見つけた。
どうやら四、五人の子どもたちが中心の何かを取り囲んでいるようだ。
「猫でもいじめているのか?」
あっけらかんとダグラスが言うのが早いか、エリオは子どもたちの集まる場所へ走って向かった。
「こらあ!! お前たち何やってんだ!!」
怒鳴りつけながら中心へズカズカ踏み入った。
だんだんと砂埃が収まって、視界がクリアになっていくのを見守った。
「動物をいじめたらいけない」
エリオはそう言おうとして、開けた場所を見やり絶句した。
誰かが一言「ヒト?」と呟き、ロゼとエリオ、続けてポールが、うずくまる青年と思わしき人物を介抱しようとしゃがみこんだ。
ロゼは「大丈夫?」と声を掛けながら泥や砂を払ってあげた。
ワイシャツの第二ボタンまでがどこかへ失くしてしまっているようだが、これは先程の子どもたちの仕業だろうか。
ズボンも所々破け、靴も履いていないようだが、黒光りするチョーカーだけが傷一つないので、いやに目立って見えた。
「可哀想になぁ」
というポールの言葉に、エリオは頷いて同意した。
ダグラスは離れたところで立ったまま、溜息を吐いた。
「はぁ。あんたも、やり返せばよかったろ。いい歳して」
周りを見回してももう犯人たちはおらず、それを遠巻きに見ていた彼だったが、
顔を上げた青年の容姿を見ると、一瞬のうちに釘付けにされた。
埃を被っているが人間離れした銀色の髪、
よれよれの服に似つかわしくない美麗で東国を思わせる中性的な顔立ちと、
その透き通る瞳に何もかも見透かされるような、逆に思考停止しているような目つきに寒さを感じ、
話題を探るようにもう一度辺りを見回した。
「あいつらどっかに行ったみたいだ。お前がよっぽど怖かったんだろうな」
手頃なエリオを指した。
「お前も手貸せよ、ダグ」
と言い返されても、指先すらまともに動かせないくらい眉目秀麗な彼に夢中だ。
結局エリオはポールと二人で、銀髪の青年が立ち上がるのを手伝った。
「怪我はないの?」
ロゼの心配とは裏腹に白髪の青年には外傷は全く見当たらなかった。
「君は一体……?」
ポールは独り言のように呟いた。
それまで一言も話さなかった青年は眉をひそめ、その問いに答えようと薄い唇を震わせた。
「あ……あ……アス……カ」
と、まるで息を吹き返したように答えた。
「アスカ? っていう名前かな?」
「んんっ、ちがっ……!」
大きな目を更に開いて、小さく首を振った。
「どうやらこの方はロボットのようですね」
皆の背後から、背の高いマキナが覗き込んだ。
彼女の言葉に一同は目を丸くした。
「ロボットの躯体はとても丈夫です。どんな環境にも負けない体をアマレティア様は設計してくださりました」
マキナは説明し終わると、今度は青年に向き直った。
「こんにちは、私はマキナ。あなたは、躯体に異常はありますか?」
と機械的なセリフを言った。
「いいえ。正常の範囲内です」
と、先程とは打って変わり、青年はつらつらと答えた。
四人は彼が正真正銘のロボットであると確信した。
ポールが
「名前はあるの?」と再度尋ねた。
「あ……イ……イ、オ……です」
途端歯切れが悪くなった。やはり故障だろうか。
「イオ?」
エリオが聞き返した。
イオはゆっくりと頷いた。今度ははっきりと
「……本当の名前、久しく使ってなかったので」と言った。
イオは頭を下げ、感謝の意志を伝えた。
そして一行が去るのを見送った。
まるで置物のようにじっと動かず、彼らが遠くに消えても、遙か遠くを見つめていた。
「『マキナ』……そうか」
道の片隅に突っ立ったまま独り呟いた。
「――なら、彼らが、お母さんが話していた――……あは。やっと、会えたんだね」
力なく作った笑みは儚く、小さなため息と共に消え失せた。
「これでもう、心残りはない、だろう……」
ボロボロの衣装の中に風が入り込んでも寒さを感じない躯体を引きずりながら、
イオはロゼたちの向かった方向に背を向けて、
目的もあらず歩みだした。
道中の話題はやはり先程のロボットのことだった。
「あのままでよかったのかな」
と、ロゼが切り出した。震え声で自分の意見を述べた。
「ひどいよね。無抵抗だからって、あんなにいじめて……」
「ロボットは基本的に人に攻撃しないからね」
ダグラスは涼しげな表情をしていた。
「頑丈だって言うけど、ねえ」
ポールは若干心残りがあるようだ。
「まあ、持ち主の所へ帰るだろ」
エリオは少しだけ首をひねった。
後ろを振り返ろうとしたのだが、やっぱりやめた。
「これ以上、何をしてやれる?」と頭の中で言い訳して、
勇気が持てない自分に嫌気がさした。
挿絵タイトル『それは数奇な巡り合わせ』
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