47 / 54
崩れ落ちる音
剣豪と黒い化物
しおりを挟む
前衛職なら即座に判断できる筈の間合いが、奴を目の前にした時、まったくそれが出来ずにいた。あの尻尾は伸縮するのかしないのか。その爪はその牙は。不明瞭な怪物に抱く恐れは、当たり前のように警戒を厳にさせた。
息をのむのと同時に顎からは汗が滴り落ちる。切迫した緊張感はテメリオイが微かに感じていた胸の痛みを忘れさせた。
「ぎゅげょががががか?」
黒くモヤのかかったようなソレは、全てを曖昧不確かにしてしまう程の歪みを漂わせている。
果たして物理攻撃が効くのか。不安抱くテメリオイが、魔法士による遠距離攻撃を指示するのは必然だった。
「魔法士部隊!遠慮なくぶっぱなせ!!」
命中率を下げた全力の攻撃。人族とエルフによる高威力の魔法が乱雑に着弾し、黒い影諸共、周りに爆煙をのぼらせる。
視界が徐々に晴れ、敵を目視に至るその時──テメリオイは起こった現象を瞬時に理解し、そして身震いを一つした。
「コイツ……魔獣達を盾に使いやがった」
肉片と化した魔獣を払い、心痛む様子なく屍を踏みつける。
「大将!!どうすんだ!!」
周りは魔獣や亜種に囲まれてる。元より承知していた場面だが、今の出来事は三種族連合の士気を低下させるに足るものだった。
擦り傷一つでも出来ていれば、まだ勝機はあると鼓舞しただろうが、魔獣さえも盾にする知能と非情さを兼ね備えた化物に抱くのは勝機ではなく恐怖。
とは言え、元より黒い化物と戦うのは自分しかいないと覚悟は決めていた。故の命を力強く吠える。
「あいつの相手は俺が務める!!おめぇらは、周りの魔獣達を撃破しろ!!回復アイテムや武器を惜しむな。全力で奴らをぶっとばせ」
「よ、よし!やってやる!まずは隊長が切り込む道をつくるぞ!!」
──それでいい。
テメリオイは固有スキル【剣豪】を保持している。【剣聖】にはかなり劣るが、剣聖をなしにすれば世界で五本の指には入る強力なレアスキル。
【剣豪】
・短剣・長剣、種類問わずの武技を取得可能。
・同時に二つの武技を使用する事が出来る。
アヴァロンにおいて剣術で勝るものはいない。即ち、テメリオイが万が一、負ける事があるならば──それは、アヴァロンの壊滅を意味しているのだ。
「頼むぜ。俺も最初から出し惜しみは無しだ」
両手で柄を握り大剣に闘気を込め、言葉を紡ぐ。
「英剣・テンペスト。我が声に応え真価を見せろ」
体に流れる精気が吸われるような脱力感が襲った直後、大剣は青白く発光する。
「……これが英剣・テンペストの真なる姿……」
「俺も初めて見るが、まさか二刀流だったなんて」
「しかも、あれはなんだ?風……?が、剣を纏ってるのか?」
「違う。あれは闘気だ」
「すげぇ……これなら、勝てるぞ」
仲間の士気が上がるのを熱気にで感じたテメリオイは、呼吸を整える。
荒れ狂った風の如く剣を纏う闘気は、物理的な意味をテンペストの力で持つ。
英剣・テンペスト。
精気を代償に真価を発揮する。効果により闘気は鋭い風のような斬れ味を持つ。これはテメリオイがもつスキル・剣豪ととても相性がいい。
「じゃあ、行くぜ。武技・瞬速」
陥没音を置き去りに、テメリオイは加速し駆ける。続くように魔法士が眼前迫る魔獣達に魔法を着弾させ、道を作る。
黒い影が多分ではあるが、剣の届く距離。
「武技・三日月」
振り上げた剣を音速で振り下ろす武技。
「武技・孤月」
剣を音速で切り上げる武技。
テメリオイは左右で別の武技を発動。
──そして、固有スキル【剣豪】の真価は初めて発揮される。
「合技・偃月」
切り上げ切り下ろし。勢いを殺さずに、左右からの横一閃。合技とは武技が至る先の剣技。適当な武技を組み合わせてなるものでは無い。
そもそも、武技とは一つ一つの動作を極めた物にちかい。振り上げれば振り下ろす。剣術を理解し、流れを理解したからこそ、合技は初めて生まれる。
四方からほぼ同時の斬撃が容赦なく迷いなく黒い化物を襲った。
「ぐぎゃぁぁあぎゃ!?」
肉を断つ確かな手応え。両手は地面に落ち、刃先からは黒く粘り気のある血がボタリと滴り落ちる。
──これなら勝てる。そう確信した矢先に起きた現象を目の前に、揺るぎない勝ちを確信した数秒前の自分をテメリオイは恨む。
回復速度が尋常ではない。
腕は一秒足らずで新しく生え、血はすぐ様に止まる。
「なら、回復速度が追いつかなくなるまで切り刻むまで!!」
武技・合技はかなりの闘気を消耗する。故に、確かな隙を見て使う必要がある。
「るぁぁぁ!!」
「ぎゃぎぁぁぁあ!!」
黒い化物、こいつは戦いの素人だ。剣を交えて、テメリオイはそう判断した。
回復速度はとてつもないが、それを除けば亜種にも及ばない。連撃を絶え間なく繰り返し、その度に黒い化物の肉は削がれていく。
このまま攻め続ければ、勝て──
「なっ……んだ?」
一瞬の出来事だった。油断の隙間を縫った、取るに足らない物の一撃。だが、その一撃は距離を取るに足る一撃だった。
息をのむのと同時に顎からは汗が滴り落ちる。切迫した緊張感はテメリオイが微かに感じていた胸の痛みを忘れさせた。
「ぎゅげょががががか?」
黒くモヤのかかったようなソレは、全てを曖昧不確かにしてしまう程の歪みを漂わせている。
果たして物理攻撃が効くのか。不安抱くテメリオイが、魔法士による遠距離攻撃を指示するのは必然だった。
「魔法士部隊!遠慮なくぶっぱなせ!!」
命中率を下げた全力の攻撃。人族とエルフによる高威力の魔法が乱雑に着弾し、黒い影諸共、周りに爆煙をのぼらせる。
視界が徐々に晴れ、敵を目視に至るその時──テメリオイは起こった現象を瞬時に理解し、そして身震いを一つした。
「コイツ……魔獣達を盾に使いやがった」
肉片と化した魔獣を払い、心痛む様子なく屍を踏みつける。
「大将!!どうすんだ!!」
周りは魔獣や亜種に囲まれてる。元より承知していた場面だが、今の出来事は三種族連合の士気を低下させるに足るものだった。
擦り傷一つでも出来ていれば、まだ勝機はあると鼓舞しただろうが、魔獣さえも盾にする知能と非情さを兼ね備えた化物に抱くのは勝機ではなく恐怖。
とは言え、元より黒い化物と戦うのは自分しかいないと覚悟は決めていた。故の命を力強く吠える。
「あいつの相手は俺が務める!!おめぇらは、周りの魔獣達を撃破しろ!!回復アイテムや武器を惜しむな。全力で奴らをぶっとばせ」
「よ、よし!やってやる!まずは隊長が切り込む道をつくるぞ!!」
──それでいい。
テメリオイは固有スキル【剣豪】を保持している。【剣聖】にはかなり劣るが、剣聖をなしにすれば世界で五本の指には入る強力なレアスキル。
【剣豪】
・短剣・長剣、種類問わずの武技を取得可能。
・同時に二つの武技を使用する事が出来る。
アヴァロンにおいて剣術で勝るものはいない。即ち、テメリオイが万が一、負ける事があるならば──それは、アヴァロンの壊滅を意味しているのだ。
「頼むぜ。俺も最初から出し惜しみは無しだ」
両手で柄を握り大剣に闘気を込め、言葉を紡ぐ。
「英剣・テンペスト。我が声に応え真価を見せろ」
体に流れる精気が吸われるような脱力感が襲った直後、大剣は青白く発光する。
「……これが英剣・テンペストの真なる姿……」
「俺も初めて見るが、まさか二刀流だったなんて」
「しかも、あれはなんだ?風……?が、剣を纏ってるのか?」
「違う。あれは闘気だ」
「すげぇ……これなら、勝てるぞ」
仲間の士気が上がるのを熱気にで感じたテメリオイは、呼吸を整える。
荒れ狂った風の如く剣を纏う闘気は、物理的な意味をテンペストの力で持つ。
英剣・テンペスト。
精気を代償に真価を発揮する。効果により闘気は鋭い風のような斬れ味を持つ。これはテメリオイがもつスキル・剣豪ととても相性がいい。
「じゃあ、行くぜ。武技・瞬速」
陥没音を置き去りに、テメリオイは加速し駆ける。続くように魔法士が眼前迫る魔獣達に魔法を着弾させ、道を作る。
黒い影が多分ではあるが、剣の届く距離。
「武技・三日月」
振り上げた剣を音速で振り下ろす武技。
「武技・孤月」
剣を音速で切り上げる武技。
テメリオイは左右で別の武技を発動。
──そして、固有スキル【剣豪】の真価は初めて発揮される。
「合技・偃月」
切り上げ切り下ろし。勢いを殺さずに、左右からの横一閃。合技とは武技が至る先の剣技。適当な武技を組み合わせてなるものでは無い。
そもそも、武技とは一つ一つの動作を極めた物にちかい。振り上げれば振り下ろす。剣術を理解し、流れを理解したからこそ、合技は初めて生まれる。
四方からほぼ同時の斬撃が容赦なく迷いなく黒い化物を襲った。
「ぐぎゃぁぁあぎゃ!?」
肉を断つ確かな手応え。両手は地面に落ち、刃先からは黒く粘り気のある血がボタリと滴り落ちる。
──これなら勝てる。そう確信した矢先に起きた現象を目の前に、揺るぎない勝ちを確信した数秒前の自分をテメリオイは恨む。
回復速度が尋常ではない。
腕は一秒足らずで新しく生え、血はすぐ様に止まる。
「なら、回復速度が追いつかなくなるまで切り刻むまで!!」
武技・合技はかなりの闘気を消耗する。故に、確かな隙を見て使う必要がある。
「るぁぁぁ!!」
「ぎゃぎぁぁぁあ!!」
黒い化物、こいつは戦いの素人だ。剣を交えて、テメリオイはそう判断した。
回復速度はとてつもないが、それを除けば亜種にも及ばない。連撃を絶え間なく繰り返し、その度に黒い化物の肉は削がれていく。
このまま攻め続ければ、勝て──
「なっ……んだ?」
一瞬の出来事だった。油断の隙間を縫った、取るに足らない物の一撃。だが、その一撃は距離を取るに足る一撃だった。
0
お気に入りに追加
105
あなたにおすすめの小説
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し
ファンタジー
パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。
【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!
つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。
冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。
全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。
巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。
異世界に転生した俺は農業指導員だった知識と魔法を使い弱小貴族から気が付けば大陸1の農業王国を興していた。
黒ハット
ファンタジー
前世では日本で農業指導員として暮らしていたが国際協力員として後進国で農業の指導をしている時に、反政府の武装組織に拳銃で撃たれて35歳で殺されたが、魔法のある異世界に転生し、15歳の時に記憶がよみがえり、前世の農業指導員の知識と魔法を使い弱小貴族から成りあがり、乱世の世を戦い抜き大陸1の農業王国を興す。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされ、生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれてしまった、ベテランオッサン冒険者のお話。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
不憫な推しキャラを救おうとしただけなのに【魔法学園編 突入☆】
はぴねこ
BL
魔法学園編突入! 学園モノは読みたいけど、そこに辿り着くまでの長い話を読むのは大変という方は、魔法学園編の000話をお読みください。これまでのあらすじをまとめてあります。
美幼児&美幼児(ブロマンス期)からの美青年×美青年(BL期)への成長を辿る長編BLです。
金髪碧眼美幼児のリヒトの前世は、隠れゲイでBL好きのおじさんだった。
享年52歳までプレイしていた乙女ゲーム『星鏡のレイラ』の攻略対象であるリヒトに転生したため、彼は推しだった不憫な攻略対象:カルロを不運な運命から救い、幸せにすることに全振りする。
見た目は美しい王子のリヒトだが、中身は52歳で、両親も乳母も護衛騎士もみんな年下。
気軽に話せるのは年上の帝国の皇帝や魔塔主だけ。
幼い推しへの高まる父性でカルロを溺愛しつつ、頑張る若者たち(両親etc)を温かく見守りながら、リヒトはヒロインとカルロが結ばれるように奮闘する!
リヒト… エトワール王国の第一王子。カルロへの父性が暴走気味。
カルロ… リヒトの従者。リヒトは神様で唯一の居場所。リヒトへの想いが暴走気味。
魔塔主… 一人で国を滅ぼせるほどの魔法が使える自由人。ある意味厄災。リヒトを研究対象としている。
オーロ皇帝… 大帝国の皇帝。エトワールの悍ましい慣習を嫌っていたが、リヒトの利発さに興味を持つ。
ナタリア… 乙女ゲーム『星鏡のレイラ』のヒロイン。オーロ皇帝の孫娘。カルロとは恋のライバル。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる