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エディット編
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「オーッホッホ。私はこの服が着たいから着ているの。流行なんて関係ないわ。あなたにはご自分の好みという物がないのかしら?」
私のお気に入りのドレスに、流行遅れだと、こちらに聞こえる声で話している令嬢たちを見て、高笑いをする。
このドレスは姉が着ていたもので、とても趣味が良くて、私はいつか自分が大きくなって着るのを楽しみにしていたものだ。
3年前の流行り? もう誰も着ていない? そんなことどうでもいいの。私はこのドレスが着たいのよ!
と、悪役令嬢エリザベスなら言うと思う。きっと。
--だけどオーッホッホは、さすがに言い過ぎたかしら。
「と……とんでもございません。まさかエディット様のことでは……」
「あら、では誰のことかしら? 私の他に、誰が3年前のドレスを着ていると言うの?」
「それは……あ、違います! 勘違いです! 私そんなこと言っておりません。エディット様の聞き間違いですわ」
「私が聞き間違えたというの?」
「は、はい」
「私のほうが、間違えていると、言いたいのね? それでいいのね」
「そ、それは……」
「私にも聞こえましたわ。『3年前の流行遅れのドレスなんて着て、みっともない』って。私も聞き間違えたのかしら」
すかさずベアトリスが追撃してくれる。
嫌味を言ってきた相手は子爵家の令嬢だ。
本来なら侯爵令嬢と伯爵令嬢が聞き間違えただなんて、口が裂けても言えない立場のはず。
というよりも、今まで何で、こんな子にまで好き勝手言われて我慢してきたのかしら。本当に、訳が分からない。
「も……申し訳ございませんでした!!」
子爵令嬢はそう言うと、走って逃げて行ってしまった。
「……ベアトリス。なんだか私、本当に悪役令嬢になった気分だわ。ただ言い返しているだけなのに」
「ふふふ。だとしたら私は、『取り巻き』ですね」
なんだかベアトリスは、ちょっと楽しそうだった。
「少し言い返されたら青くなって逃げるくらいなら、最初から嫌味なんて言わなければいいのに」
「本当ですね。考えてみれば、不思議ですね」
いじめっ子たちは、すぐに正面から私に嫌味を言ってこなくなった。
だけど裏では、私のことを「悪役令嬢のいじめっ子」、ベアトリスのことを「取り巻き」と呼んで、バカにしていることを知っている。
だけどそれがなんだというのだろう。
「でも……ねえ、エディット。裏で悪役令嬢だなんて言われて、本当に良いの? 無理していない?」
ベアトリスに聞かれて、自分の胸に問いかけてみる。
以前の何も言えずに俯いていた私と、言いたいことを言って批判される私、どっちがいい?
「裏でなんて言われても良い。どうせ私が言い返さなくても、以前から悪い噂は流されていたわ。それよりも、自分が言いたいことをハッキリと言えるようになったのだもの。私、気に入っているのよ、悪役令嬢である自分のことを」
「……そうね。実は私も、そんなエディットのことが結構好き。私も取り巻きで結構よ!」
「ありがとう、ベアトリス」
*****
そんなこんなで、5年の月日が経っていた。
相変わらず私は悪役令嬢と呼ばれていたけれど、家族やユリウス王子やそのご友人たち。そして親友のベアトリスなんかは、全く気にすることなく付き合ってくれた。
あの運命の日に出会った少年、シャルルもだ。
シャルルの絵は素晴らしくて、まだ15歳なのに天才画家と呼ばれていた。
正式に彼に絵を依頼する貴族も、後を絶たないほどだ。
そんな彼の作品が、なぜか私の部屋に溢れている。
ほとんどが、私を描いてくれたもの。
彼の描いてくれた私は、いつも幸せそうに笑って、輝いている。
ベアトリスと一緒に笑い合っているものもあれば、悪役令嬢エリザベスみたいに、自信ありげに微笑んでいるもの、そして時折、以前のように気弱そうな表情をしているものもあった。
彼の描いてくれた私は、自分で言うのもなんだけど、とても美しく見えた。
――こういう絵って、実物よりもちょっとだけ、綺麗に描くと聞くから、そのせいね、きっと。
私は、私の絵だけじゃなくて、シャルルの絵も欲しいななんて、いつの間にか考えるようになっていた。
*****
そんなある日のこと。
「あ、そうだ。エディット、君を婚約者候補から外すことにするよ。今まで長い間ご苦労様。ありがとう」
本当に突然、ユリウス様にそう言われた。何の前触れもなく。
隣にいるベアトリスを見る。
彼女も何も知らないみたいで、ビックリしている。
長年一緒にいれば、嫌でも分かる。ベアトリスはユリウス王子が好きだ。
だけど私が結婚相手の本命だと思っていて、いつも何歩かひいている。
――そうか。ついに動かれるのですね。ユリウス様。
ベアトリスが婚約者となってもガルトナー伯爵家を守れるだけの手回しが、もう済んだのだろう。
「もったいないお言葉です」
「え! 急になにを言っているのですか、ユリウス王子! 一体どうして」
突然のことに、ベアトリスが珍しく目を白黒させている。
「なぜですかユリウス王子。なぜエディットが……そんな。なにか悪いところでもありましたか」
「まさか。エディットに悪いところなんてあるわけがない。これまでとてもお世話になったと感謝している。……他に俺の婚約者になって欲しい女性がいるんだ。だからエディットをこれ以上、婚約者候補として縛り付けておくことはできない」
――これで私の役目はお終い。
楽しかった。この5年間、ベアトリスという無二の親友と一緒にいて、気弱な自分がどんどん変わって。
今では悪役令嬢エリザベスの真似をしているのか、これが本当の私なのか、自分でも分からないくらいになっている。
以前の私よりも、今の私のほうが、好き。
――でもこれから、どうしよう。
急に自由になった私は、充実感でいっぱいだったけれど、ほんの少しだけ、心に小さな穴が空いたのだった。
*****
「悪役令嬢の奴、ついにユリウス王子の婚約者候補を外されたんだってな」
「無理もない。あんなに評判の悪い女、ユリウス王子に相応しくないからな。必死に周囲の女をイジメてユリウス王子の婚約者候補にしがみついていたっていうのに、無様だな」
「言えてる」
この感じ、久しぶりだ。
ここ何年かは、私に対して聞こえるように嫌味を言ってくる人はいなくなっていたから。
声の方向を見てみると、そこにいたのは予想通り、パスカル・ギレム侯爵令息を中心とした、いじめっ子軍団だった。
――もう15歳になるというのに。この人たちは変わらないのね。
きっと私がユリウス様の婚約者候補を外れたことを知って、気持ち的にも立場的にも落ち込んでいると思ったのだろう。
実際には私が結婚相手の本命でないことは5年以上前――婚約者候補として王宮に通う前から分かっていたことだし、うちの家は私が婚約者候補とから外れて弱るどころか、手厚い庇護が約束されている。
「ユリウス王子が優しいからって調子に乗ってさ。俺の妹なんて、どれだけあの女にイジメられたことか」
「パスカル! いくらなんでも酷すぎます! 大体エディットが悪役令嬢と言われているのだって、あなたが言い始めたことでしょう!?」
「うるせーな! 取り巻きは黙ってろ」
ベアトリスが私のことを庇ってくれているのを、バカにするパスカル。
――あなたが「取り巻き」と言っているその女性、将来の王妃さまなんですけど。
どうやら、久しぶりに悪役令嬢エリザベスの出番みたいだ。
実は最近、言い返す機会がほとんどなくって、寂しく思っていたくらいだから、少しワクワクする。
「お前に決闘を申し込む」
さあ、言い返すぞと思ったその時、意外な人物が横入りしてきた。
「シャルル……?」
侯爵家同士の言い争いに、普通は誰も入ってなんてこようとしない。
とばっちりが恐いから。
例え私に味方して、私が勝ったとしても、パスカルに恨まれたくはないだろう。
それが普通だ。
さすがにパスカルも、いつもユリウス様がいない時を狙って絡んでくる。
だから他に助けてくれる人なんて、ベアトリスがたまに宥める以外誰もいないはずで……だけど悪役令嬢エリザベスは強いから、誰も助けてくれなくても全然平気だった。
一人で言い返せるから。
そのはずだったのに。
「はあ!? お前、シャルル? 今時決闘ってなんだよ。大体決闘って、何するんだ。お前、剣なんて持ったこともないだろう」
「剣でいい」
――強い。すごい。格好いい!
子どもの時に感じたときめきの、何十倍ものドキドキで、胸が痛い。
自分の心臓の音がうるさいくらいだ。
成長して背が伸びたシャルルは、顔は相変わらず妖精のように美しかったけれど、体格は逞しく成長していた。
もう誰も、少女と間違うこともないだろう。
「いいだろうシャルル。決闘を許可する。ただし、昔行われていたような生死を賭けた決闘は禁止だ。刃を潰した剣を使用して、胸当てを付けること。急所への攻撃はナシ。胸当てに攻撃を当てるか、相手が剣を取り落とすか、降参をした場合に勝ちとする」
「ユリウス様!?」
突然のユリウス様の登場に、パスカルも動揺している。
きっとユリウス様がいない時を見計らって絡んできたはずなので、驚いているのだろう。
「はっ。何考えてんのか分かんないけど、こんなヒョロヒョロの女男に負けるわけないだろう。決闘を受けてやるよ。その代わり、俺が勝ったらお前は俺の子分だ。うちで小姓として働いてもらう!」
「いいだろう。ただし僕が勝ったら、お前にはエディット嬢に、正式に謝罪をしてもらう!」
ドキドキして、胸が高鳴って、夢見心地だったけれど、パスカルのそのセリフに、急に我に返る。
シャルルが私のことを庇ってくれるのは嬉しい。心の底から本当に嬉しいけれど、剣を持ったことすらないようなシャルルは、それほど剣技が得意そうでないパスカルにだって勝てないだろう。
「お控えなさいシャルル。ワタクシは守られるほど弱くなくてよ。あのような発言、相手にするまでもな……」
「エディット。大丈夫だから」
慌てて決闘なんて止めようとする私を、シャルルが制する。
「エディット。あなたに初めて会った日のことは忘れない。あなたは自分が震えながらも、気高く、美しく、僕を助けてくれた。……今度は僕に、あなたを守らせて欲しい」
そう言うシャルルから、私は目を離すことができなかった。
私のお気に入りのドレスに、流行遅れだと、こちらに聞こえる声で話している令嬢たちを見て、高笑いをする。
このドレスは姉が着ていたもので、とても趣味が良くて、私はいつか自分が大きくなって着るのを楽しみにしていたものだ。
3年前の流行り? もう誰も着ていない? そんなことどうでもいいの。私はこのドレスが着たいのよ!
と、悪役令嬢エリザベスなら言うと思う。きっと。
--だけどオーッホッホは、さすがに言い過ぎたかしら。
「と……とんでもございません。まさかエディット様のことでは……」
「あら、では誰のことかしら? 私の他に、誰が3年前のドレスを着ていると言うの?」
「それは……あ、違います! 勘違いです! 私そんなこと言っておりません。エディット様の聞き間違いですわ」
「私が聞き間違えたというの?」
「は、はい」
「私のほうが、間違えていると、言いたいのね? それでいいのね」
「そ、それは……」
「私にも聞こえましたわ。『3年前の流行遅れのドレスなんて着て、みっともない』って。私も聞き間違えたのかしら」
すかさずベアトリスが追撃してくれる。
嫌味を言ってきた相手は子爵家の令嬢だ。
本来なら侯爵令嬢と伯爵令嬢が聞き間違えただなんて、口が裂けても言えない立場のはず。
というよりも、今まで何で、こんな子にまで好き勝手言われて我慢してきたのかしら。本当に、訳が分からない。
「も……申し訳ございませんでした!!」
子爵令嬢はそう言うと、走って逃げて行ってしまった。
「……ベアトリス。なんだか私、本当に悪役令嬢になった気分だわ。ただ言い返しているだけなのに」
「ふふふ。だとしたら私は、『取り巻き』ですね」
なんだかベアトリスは、ちょっと楽しそうだった。
「少し言い返されたら青くなって逃げるくらいなら、最初から嫌味なんて言わなければいいのに」
「本当ですね。考えてみれば、不思議ですね」
いじめっ子たちは、すぐに正面から私に嫌味を言ってこなくなった。
だけど裏では、私のことを「悪役令嬢のいじめっ子」、ベアトリスのことを「取り巻き」と呼んで、バカにしていることを知っている。
だけどそれがなんだというのだろう。
「でも……ねえ、エディット。裏で悪役令嬢だなんて言われて、本当に良いの? 無理していない?」
ベアトリスに聞かれて、自分の胸に問いかけてみる。
以前の何も言えずに俯いていた私と、言いたいことを言って批判される私、どっちがいい?
「裏でなんて言われても良い。どうせ私が言い返さなくても、以前から悪い噂は流されていたわ。それよりも、自分が言いたいことをハッキリと言えるようになったのだもの。私、気に入っているのよ、悪役令嬢である自分のことを」
「……そうね。実は私も、そんなエディットのことが結構好き。私も取り巻きで結構よ!」
「ありがとう、ベアトリス」
*****
そんなこんなで、5年の月日が経っていた。
相変わらず私は悪役令嬢と呼ばれていたけれど、家族やユリウス王子やそのご友人たち。そして親友のベアトリスなんかは、全く気にすることなく付き合ってくれた。
あの運命の日に出会った少年、シャルルもだ。
シャルルの絵は素晴らしくて、まだ15歳なのに天才画家と呼ばれていた。
正式に彼に絵を依頼する貴族も、後を絶たないほどだ。
そんな彼の作品が、なぜか私の部屋に溢れている。
ほとんどが、私を描いてくれたもの。
彼の描いてくれた私は、いつも幸せそうに笑って、輝いている。
ベアトリスと一緒に笑い合っているものもあれば、悪役令嬢エリザベスみたいに、自信ありげに微笑んでいるもの、そして時折、以前のように気弱そうな表情をしているものもあった。
彼の描いてくれた私は、自分で言うのもなんだけど、とても美しく見えた。
――こういう絵って、実物よりもちょっとだけ、綺麗に描くと聞くから、そのせいね、きっと。
私は、私の絵だけじゃなくて、シャルルの絵も欲しいななんて、いつの間にか考えるようになっていた。
*****
そんなある日のこと。
「あ、そうだ。エディット、君を婚約者候補から外すことにするよ。今まで長い間ご苦労様。ありがとう」
本当に突然、ユリウス様にそう言われた。何の前触れもなく。
隣にいるベアトリスを見る。
彼女も何も知らないみたいで、ビックリしている。
長年一緒にいれば、嫌でも分かる。ベアトリスはユリウス王子が好きだ。
だけど私が結婚相手の本命だと思っていて、いつも何歩かひいている。
――そうか。ついに動かれるのですね。ユリウス様。
ベアトリスが婚約者となってもガルトナー伯爵家を守れるだけの手回しが、もう済んだのだろう。
「もったいないお言葉です」
「え! 急になにを言っているのですか、ユリウス王子! 一体どうして」
突然のことに、ベアトリスが珍しく目を白黒させている。
「なぜですかユリウス王子。なぜエディットが……そんな。なにか悪いところでもありましたか」
「まさか。エディットに悪いところなんてあるわけがない。これまでとてもお世話になったと感謝している。……他に俺の婚約者になって欲しい女性がいるんだ。だからエディットをこれ以上、婚約者候補として縛り付けておくことはできない」
――これで私の役目はお終い。
楽しかった。この5年間、ベアトリスという無二の親友と一緒にいて、気弱な自分がどんどん変わって。
今では悪役令嬢エリザベスの真似をしているのか、これが本当の私なのか、自分でも分からないくらいになっている。
以前の私よりも、今の私のほうが、好き。
――でもこれから、どうしよう。
急に自由になった私は、充実感でいっぱいだったけれど、ほんの少しだけ、心に小さな穴が空いたのだった。
*****
「悪役令嬢の奴、ついにユリウス王子の婚約者候補を外されたんだってな」
「無理もない。あんなに評判の悪い女、ユリウス王子に相応しくないからな。必死に周囲の女をイジメてユリウス王子の婚約者候補にしがみついていたっていうのに、無様だな」
「言えてる」
この感じ、久しぶりだ。
ここ何年かは、私に対して聞こえるように嫌味を言ってくる人はいなくなっていたから。
声の方向を見てみると、そこにいたのは予想通り、パスカル・ギレム侯爵令息を中心とした、いじめっ子軍団だった。
――もう15歳になるというのに。この人たちは変わらないのね。
きっと私がユリウス様の婚約者候補を外れたことを知って、気持ち的にも立場的にも落ち込んでいると思ったのだろう。
実際には私が結婚相手の本命でないことは5年以上前――婚約者候補として王宮に通う前から分かっていたことだし、うちの家は私が婚約者候補とから外れて弱るどころか、手厚い庇護が約束されている。
「ユリウス王子が優しいからって調子に乗ってさ。俺の妹なんて、どれだけあの女にイジメられたことか」
「パスカル! いくらなんでも酷すぎます! 大体エディットが悪役令嬢と言われているのだって、あなたが言い始めたことでしょう!?」
「うるせーな! 取り巻きは黙ってろ」
ベアトリスが私のことを庇ってくれているのを、バカにするパスカル。
――あなたが「取り巻き」と言っているその女性、将来の王妃さまなんですけど。
どうやら、久しぶりに悪役令嬢エリザベスの出番みたいだ。
実は最近、言い返す機会がほとんどなくって、寂しく思っていたくらいだから、少しワクワクする。
「お前に決闘を申し込む」
さあ、言い返すぞと思ったその時、意外な人物が横入りしてきた。
「シャルル……?」
侯爵家同士の言い争いに、普通は誰も入ってなんてこようとしない。
とばっちりが恐いから。
例え私に味方して、私が勝ったとしても、パスカルに恨まれたくはないだろう。
それが普通だ。
さすがにパスカルも、いつもユリウス様がいない時を狙って絡んでくる。
だから他に助けてくれる人なんて、ベアトリスがたまに宥める以外誰もいないはずで……だけど悪役令嬢エリザベスは強いから、誰も助けてくれなくても全然平気だった。
一人で言い返せるから。
そのはずだったのに。
「はあ!? お前、シャルル? 今時決闘ってなんだよ。大体決闘って、何するんだ。お前、剣なんて持ったこともないだろう」
「剣でいい」
――強い。すごい。格好いい!
子どもの時に感じたときめきの、何十倍ものドキドキで、胸が痛い。
自分の心臓の音がうるさいくらいだ。
成長して背が伸びたシャルルは、顔は相変わらず妖精のように美しかったけれど、体格は逞しく成長していた。
もう誰も、少女と間違うこともないだろう。
「いいだろうシャルル。決闘を許可する。ただし、昔行われていたような生死を賭けた決闘は禁止だ。刃を潰した剣を使用して、胸当てを付けること。急所への攻撃はナシ。胸当てに攻撃を当てるか、相手が剣を取り落とすか、降参をした場合に勝ちとする」
「ユリウス様!?」
突然のユリウス様の登場に、パスカルも動揺している。
きっとユリウス様がいない時を見計らって絡んできたはずなので、驚いているのだろう。
「はっ。何考えてんのか分かんないけど、こんなヒョロヒョロの女男に負けるわけないだろう。決闘を受けてやるよ。その代わり、俺が勝ったらお前は俺の子分だ。うちで小姓として働いてもらう!」
「いいだろう。ただし僕が勝ったら、お前にはエディット嬢に、正式に謝罪をしてもらう!」
ドキドキして、胸が高鳴って、夢見心地だったけれど、パスカルのそのセリフに、急に我に返る。
シャルルが私のことを庇ってくれるのは嬉しい。心の底から本当に嬉しいけれど、剣を持ったことすらないようなシャルルは、それほど剣技が得意そうでないパスカルにだって勝てないだろう。
「お控えなさいシャルル。ワタクシは守られるほど弱くなくてよ。あのような発言、相手にするまでもな……」
「エディット。大丈夫だから」
慌てて決闘なんて止めようとする私を、シャルルが制する。
「エディット。あなたに初めて会った日のことは忘れない。あなたは自分が震えながらも、気高く、美しく、僕を助けてくれた。……今度は僕に、あなたを守らせて欲しい」
そう言うシャルルから、私は目を離すことができなかった。
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