上 下
16 / 18
父親が横領の罪で捕まらなかったIFバージョン

第13話 黄金のくじ

しおりを挟む
新人対抗の御前試合が終わると、イルゼとユージーンは早速任務に就くことが許可された。
御前試合を見た貴族達からの希望で、あっちからもこっちからも警護を頼まれ大忙しだ。

団長のカミュには少し申し訳なさそうに、『これも第1騎士団の任務の一つなんだ。落ち着くまでしばらく大変だろうが頼む』と、頭を下げられてしまう。

これまで護衛任務はカミュやアマンダが大人気で大忙しだったらしく、アマンダには『楽になったわ』と感謝されてしまった。


他団からの救援依頼はめったにない。救援依頼があるということは、その団の手に負えないほどの緊急事態ということだからだ。
隣国からの侵入行為や、災害など。国家の危機と言っても良い。



しかし、護衛ばかりしていても経験が積めないので、演習として、他団の盗賊の取り締まりなどに混ざらせてもらうこともあった。


ユージーンとの約束の3か月の期限は、目前に迫っていた。




*****




その時はある日突然きた。
めったにないという、他団からの救援依頼。

救援依頼があると、まだ任務に混ざる許可を得ていない新人、外せない護衛任務に就いている者、完全休養日で連絡が付かない者以外は、全て、瞬時に現場へ向かう手はずになっている。

その日は、イルゼもユージーンも、訓練日だった。


何頭もの早馬を乗り継ぎ、その知らせは第1騎士団に届けられた。
イルゼは震えそうになる腕を、力で無理やり抑え込み、何度も訓練したとおりに、素早く準備を整える。



――――初の救援依頼は、地方で任務にあたっている、第4騎士団、ローガン団長からのものだった。



「行くぞ。」
「「「はい!!!」」」


既定の準備時間が過ぎた事を確認し、カミュが号令をかける。
準備が間に合わない者がいないかなど、確認しない。
そんな者がいても、出発を遅らせるわけもない。置いていくだけだ。







*****






時間は少し戻って、第4騎士団は、予め立てていた計画を変更し、ある貴族の領地に来ていた。


第4騎士団はいつも、治安の悪くなった地域へ赴いて、現地の治安維持をして回っている。

順番に長期休暇を取る以外は、常に地方にいると言って良い。
団長に就任したばかりのローガンは、団を完全に把握しきるまではと、この3か月間休みを取らず、常に地方を巡っていた。

・・・前任の団長は、団を副長に任せて、悠々と長期休暇を取っていたらしいが。



今回の領地は、特に治安が悪いという訳でもない。
しかし、国を跨いで活動している、大盗賊団の一味が潜伏していると言う情報が騎士団に寄せられたため、急遽近くにいた第4騎士団が駆け付けたのだ。



「団長。特に変わった様子はみられませんね。領民たちも、怯えた様子もなく和やかです。」
前団長に代わって指揮を執る事が多かったと言う副長は、子爵家の5男だか6男だからしいが、平民出身の新しい団長を歓迎してくれた。
言動は平民出身の騎士と見分けがつかないが、妙に可愛らしい顔をしているのだけが貴族らしいと言えば貴族らしかった。



本人曰く貧乏くじを引くタイプとのことで、『ああ、ついにまともな団長が来た』と、歓迎会では涙を流して喜んでいた。



長年第4騎士団に所属しているらしく、一目見ればその領地の荒れ具合、廃れ具合などをピタリと言い当てる。
ほぼ団長の仕事を請け負っていたのは、伊達ではない。
この人物がそのまま団長になっても良かったようなものだが、腕っぷしが・・・・大分、イマイチらしい。


「ああ、俺にもそう見える。でもな~んか引っかかるんだよな。」
目撃証言のあった山近くの村も、通ってきた街も、皆平和そのもの。
よく治められていると言っていい。


「違和感があるのは・・・・むしろタレコミの方・・・ですかね。」

副長の言う通り。

騎士団への情報提供に、慣れている者はそうそういない。
決まった形式などなく、いつも様々な形で、情報は入ってくる。
本人が直接駆け込んでくることもあれば、領主が代表して話にくることもある。身元がバレたくないのか、無記名の手紙でくるというのも珍しくはなく、今回のケースはこれにあたる。

この手紙というのも、いたずらなのか、大げさなのか、第4騎士団の慣れた者には、緊急度もなんとなく分かるのだそうだ。
今回の手紙に、副長は緊急性を感じた。

「『緊急性のある手紙』の、お手本のようでした。」
「・・・・・罠かもな。」


「おーい、リアムとマルコとナットこーい!!」
「はい!」

ローガンの意図をくみ取った副長オーランドが、何人かの騎士を呼びつける。

隊の中で、そこそこ実力があり、そこそこ経験があり、判断力もある3人。

「今回のタレコミ、罠の可能性がある。お前らは隊から離れて、ばらけとけ。合図をしたら即、第1を呼べ。合図がなくても、状況がまずそうだったら呼べ。」
「「「はい!」」」


3人は特に質問をすることもなく、愛馬に乗ってあっという間に姿を消した。
まあもしこれが罠で、既に見張りがついていても、3人いれば誰かはなんとか連絡してくれるだろう。
オーランドと騎士たちの、長年の信頼関係を、ローガンは感じた。


「しっかし、第4なんておびき出して、何の得があるんすかねー。」
「おいおい。まだ罠だと決まったわけじゃないぞ。」

オーランドの発言を否定しつつも、ローガンもほぼ確信を持っていた。

罠じゃなくて、本当に盗賊団の本体だったとしても、危険なことには変わりないが。
まあわざわざ騎士団と正面衝突する盗賊団はいないだろう。



「なあ。『緊急性のある手紙』のお手本が書けるやつって、どんな奴だと思う?」
「・・・・・俺は書けますね。」
オーランドがハッっと気がついたような顔をする。

「あれ、意外と少ないかも。何年か第4に勤めてて、しかも直接手紙を見る立場。え、数えられるかも。ジョーイと、パウエルと、去年退団したラルフの旦那と。・・・・・俺が入団する前のOBはさすがに分からないすけど。前団長のハリー・ヘッツェンも書けるっちゃ書けるかな。」
「第4の関係者・・・・・か。」
「なんかヤバそうっすね。引き返しますか。」
「危なそうだからって騎士団が逃げてどうすんだ。」
「・・・・っすよねー。」






改めて地図を広げる。
今第4騎士団が展開している場所は、盗賊が出ると情報のあった山から結構距離がある。
襲撃を警戒して、村は避け、見通しの良い平野で食事を摂っているところだ。

「まずこれが罠だとして。情報のあった山に敵が律儀にいるなんてこと、ねーよな。」
「まあ、それじゃあ罠になりませんからね。」

タレコミのあった山にそのまま敵がいたら、それは罠ではなくただの正面衝突である。

「もし罠と気が付いていなかったら、いつもの第4ならどうやって行動する?」


「・・・・・・。」

オーランドは、しばらく地図を見つめて、考えている様だった。
ローガンは急かすでもなく、ゆったりと話し出すのを待つ。

「俺なら、盗賊に見つからないように、まず斥候を出します。この辺とこの辺に見張りがいそうだ・・・と思うだろうから・・・。」
説明しながら、地図に書き込んでいく。


「この3方向から行くように、指示しますね。」
「・・・・この道通れるか?」
「通れるかどうか、探らせます。」
「おう、続けてくれ。」


「盗賊を発見したら、その人数にもよりますけど、いくつか小隊を出して、敵に気づかれないように先行させて、背後を取る。」
「定石だな。」
「先遣隊が配置についたら、本隊が、最高速度でガーっと街道を走り抜けて・・・・。」

地図の道のどまんなかに、ガーっと勢いよく矢印を書き込んでいくオーランド。

「先遣隊が足止めしているうちに、一気に襲います。」

「それが山に盗賊がいた場合の、オーランドの行動か。」
「はい。」
「ハリー前団長ならどうする?」
「俺に作戦立てさせますね。」
まあ、自分で作戦立てたことにするだろうけど、というオーランドのつぶやきは、聞かなかったことにしておこう。



「・・・・・なるほど、この前提でいこう。じゃあ次に、この計画でやってくる第4騎士団を罠に嵌めるには、どうするか考えると・・・・・・・。」













様子を探る斥候は見逃されるだろう。盗賊がいたという情報を、本隊に持ち帰ってもらわないと困るからだ。しかし先遣隊は、配置について合図をするまでは見逃されるかもしれないが、その後囲まれて潰されるだろう。
と、いうのがローガンとオーランドの意見だった。

本隊が襲撃される場所は大体予想できる。相手が何者か分からないが、王国騎士団が1団まるごと来ているのだ。予想できていれば、遅れはとらない。


「かといって、勝っても騎士何人も死んでちゃあ、困るからな。相手の規模を見て、ある程度以上ならすぐ第1騎士団へ連絡。オーランド、本隊を任せた。」

育成に何年もの歳月と莫大な資金が掛かる騎士は、国の財産だ。壊滅寸前で勝っても負けのようなものだ。

「はい。・・・・・え?ローガン団長はどうするんですか?」

――――まさか高みの見物か・・・・?

前任のハリーに散々な目に合わされたオーランドは、少々疑心暗鬼気味だった。

「あん?先遣隊で、潰されねーように踏ん張るに決まってんだろ。」
「・・・・・。」


オーランドは、しばらく言葉が出なかった。


「・・・・先遣隊は、危険です。」
一応合図をすると同時に逃げ出す手はずになっているが、犠牲は覚悟する必要がある。
そんな役割を、団長にやらせるわけにはいけない。


「危険だから俺が行く。俺がなんで平民出身で、今こんな地位にいるか、知らねーわけねーよな?」

貴族出身者も多くいる騎士団の中で、頭が悪いわけではないが、特別に切れるわけでもないローガンが団長になった理由。

圧倒的な、武力。

「『猛獣のローガン』。」
「そういうこった。・・・・・・ああ、そうだオーランド。お前いっつも貧乏くじ貧乏くじ言ってるけど、とんでもねーぞ。」


「・・・・??」

なぜここでいきなり貧乏くじの話が出てくるのだろう。
そりゃあ子爵家の6男なんかに生まれて、いつも貧乏くじを引かされて生きてきたが。





「お前誰も持ってない、黄金のくじ握り締めて生まれてきてるぜ。親御さん達に感謝するんだな。」








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女として召喚されましたが、無力なようなのでそろそろお暇したいと思います

藍生蕗
恋愛
聖女として異世界へ召喚された柚子。 けれどその役割を果たせないままに、三年の月日が経った。そして痺れを切らした神殿は、もう一人、新たな聖女を召喚したのだった。 柚子とは違う異世界から来たセレナは聖女としての価値を示し、また美しく皆から慕われる存在となっていく。 ここから出たい。 召喚された神殿で過ごすうちに柚子はそう思うようになった。 全てを諦めたままこのまま過ごすのは辛い。 一時、希望を見出した暮らしから離れるのは寂しかったが、それ以上に存在を忘れられる度、疎まれる度、身を削られるような気になって辛かった。 そこにあった密かに抱えていた恋心。 手放せるうちに去るべきだ。 そう考える柚子に差し伸べてくれた者たちの手を掴み、柚子は神殿から一歩踏み出すのだけど…… 中編くらいの長さです。 ※ 暴力的な表現がありますので、苦手な方はご注意下さい。 他のサイトでも公開しています

ゲームのシナリオライターは悪役令嬢になりましたので、シナリオを書き換えようと思います

暖夢 由
恋愛
『婚約式、本編では語られないけどここから第1王子と公爵令嬢の話しが始まるのよね』 頭の中にそんな声が響いた。 そして、色とりどりの絵が頭の中を駆け巡っていった。 次に気が付いたのはベットの上だった。 私は日本でゲームのシナリオライターをしていた。 気付いたここは自分で書いたゲームの中で私は悪役令嬢!?? それならシナリオを書き換えさせていただきます

1番近くて、1番遠い……僕は義姉に恋をする

桜乃
恋愛
僕、ミカエル・アルフォントは恋に落ちた。 義姉クラリス・アルフォントに。 義姉さまは、僕の気持ちはもちろん、同じく義姉さまに恋している、この国の王子アルベルトと友人のジェスターの気持ちにも、まったく、これっぽっちも気がつかない。 邪魔して、邪魔され、そんな日々。 ある日、義姉さまと僕達3人のバランスが崩れる。 魔道士になった義姉さまは、王子であるアルベルトと婚約する事になってしまったのだ。 それでも、僕は想い続ける。 そして、絶対に諦めないから。 1番近くて、1番遠い……そんな義姉に恋をした、一途な義弟の物語。 ※不定期更新になりますが、ストーリーはできておりますので、きちんと完結いたします。 ※「鈍感令嬢に恋した時から俺の苦労は始まった」に出てくる、ミカエル・アルフォントルートです。 同じシチュエーションでリンクしているところもございますが、途中からストーリーがまったく変わります。 別の物語ですので「鈍感令嬢に〜」を読んでない方も、単独でお読みいただけると思います。 ※ 同じく「鈍感令嬢に〜」にでてくる、最後の1人。 ジェスタールート「グリム・リーパーは恋をする ~最初で最後の死神の恋~」連載中です。 ご縁がございましたらよろしくお願いいたします。 ※連載中に題名、あらすじの変更、本文の加筆修正等する事もございます。ストーリー展開に大きく影響はいたしませんが、何卒、ご了承くださいませ。

【 完 】転移魔法を強要させられた上に婚約破棄されました。だけど私の元に宮廷魔術師が現れたんです

菊池 快晴
恋愛
公爵令嬢レムリは、魔法が使えないことを理由に婚約破棄を言い渡される。 自分を虐げてきた義妹、エリアスの思惑によりレムリは、国民からは残虐な令嬢だと誤解され軽蔑されていた。 生きている価値を見失ったレムリは、人生を終わらせようと展望台から身を投げようとする。 しかし、そんなレムリの命を救ったのは他国の宮廷魔術師アズライトだった。 そんな彼から街の案内を頼まれ、病に困っている国民を助けるアズライトの姿を見ていくうちに真実の愛を知る――。 この話は、行き場を失った公爵令嬢が強欲な宮廷魔術師と出会い、ざまあして幸せになるお話です。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

【完結】大好きな幼馴染には愛している人がいるようです。だからわたしは頑張って仕事に生きようと思います。

たろ
恋愛
幼馴染のロード。 学校を卒業してロードは村から街へ。 街の警備隊の騎士になり、気がつけば人気者に。 ダリアは大好きなロードの近くにいたくて街に出て子爵家のメイドとして働き出した。 なかなか会うことはなくても同じ街にいるだけでも幸せだと思っていた。いつかは終わらせないといけない片思い。 ロードが恋人を作るまで、夢を見ていようと思っていたのに……何故か自分がロードの恋人になってしまった。 それも女避けのための(仮)の恋人に。 そしてとうとうロードには愛する女性が現れた。 ダリアは、静かに身を引く決意をして……… ★ 短編から長編に変更させていただきます。 すみません。いつものように話が長くなってしまいました。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

私、異世界で獣人になりました!

星宮歌
恋愛
 昔から、人とは違うことを自覚していた。  人としておかしいと思えるほどの身体能力。  視力も聴力も嗅覚も、人間とは思えないほどのもの。  早く、早くといつだって体を動かしたくて仕方のない日々。  ただ、だからこそ、私は異端として、家族からも、他の人達からも嫌われていた。  『化け物』という言葉だけが、私を指す呼び名。本当の名前なんて、一度だって呼ばれた記憶はない。  妹が居て、弟が居て……しかし、彼らと私が、まともに話したことは一度もない。  父親や母親という存在は、衣食住さえ与えておけば、後は何もしないで無視すれば良いとでも思ったのか、昔、罵られた記憶以外で話した記憶はない。  どこに行っても、異端を見る目、目、目。孤独で、安らぎなどどこにもないその世界で、私は、ある日、原因不明の病に陥った。 『動きたい、走りたい』  それなのに、皆、安静にするようにとしか言わない。それが、私を拘束する口実でもあったから。 『外に、出たい……』  病院という名の牢獄。どんなにもがいても、そこから抜け出すことは許されない。  私が苦しんでいても、誰も手を差し伸べてはくれない。 『助、けて……』  救いを求めながら、病に侵された体は衰弱して、そのまま……………。 「ほぎゃあ、おぎゃあっ」  目が覚めると、私は、赤子になっていた。しかも……。 「まぁ、可愛らしい豹の獣人ですわねぇ」  聞いたことのないはずの言葉で告げられた内容。  どうやら私は、異世界に転生したらしかった。 以前、片翼シリーズとして書いていたその設定を、ある程度取り入れながら、ちょっと違う世界を書いております。 言うなれば、『新片翼シリーズ』です。 それでは、どうぞ!

処理中です...