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9.部下たちが姉妹ごっこをしている間、シェランは……

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「アンガス、ドク。今日、わざわざお前たちを呼びつけたのは他でもない」

 自室に二人の部下を呼びつけて、シェランは重々しく口を開いた。

「実は、シンデレラのことで……」
「今日はご飯を残さず食べた、ですわ!」

 シェランの声に被せるように、アンガスが意気揚々と告げてきた。

「体重も2キロ増えたんですわ」

 ドクが調子を合わせる。

「今にもポキッと折れそうだったのにな、ですわ。この分なら、パンが丸々3枚食べられる日も遠くないだろうな? ですわ!」
「良かったですわ、ボス!」
「……」

 シェランは額を押さえた。

「何なんだ、お前らは……善人か? 何のためにこの家にやって来たと思ってるんだ……。あと、なんだ、お前らは女の子の体重を計ってるのか?」
「だって、ボス」

 ドクが、毒々しい色の口紅が塗られた唇をきゅっとすぼめる。
 注:シェランは部下たちにナチュラルメイクを推奨しているのだが、ドクの顔色が悪すぎて、何色を塗っても毒々しい仕上がりになるのである。

「継妹の健康が気になるのは仕方ないと思いませんか? それに、姉妹同士なら体重を計り合っても何の問題も無いのですわ!」
「問題は、だ。お前らが姉妹でも何でもないことだが……まあいい」

 シェランはこの際、強引に話を進めることにした。日に日に部下たちが女性として、或いは姉妹としての生活に染まりつつある点については考えたくない。

「とにかく、これを見ろ」
「こ、これは……?!」

 部屋の隅に積み上げられた謎の物品類。数時間前にシェランが通販番組で購入し、ブラックフェアリー便で届いたばかりの荷物の数々だ。どれもこれも、最新式の掃除魔道具ばかりである。

 全自動で洗濯し、乾燥、糊付け、アイロン掛けまでやってくれる夢の魔道式洗濯機。

 勝手にあちこちをはたいて回る魔法のハタキ。

 床を疾駆して、家中のゴミを吸って回る掃除用魔法生命体。

「ほら、こいつの上部が平べったくなっているのが分かるか? なんと、この上に猫が乗せられるんだ! 凄いだろう?」

 常々通販番組にどっぷりと耽溺している者らしく、シェランはこの説明を誰かの前で再現する機会を窺っていたのだ。機会を逃さず、彼は喜々として解説した。

 これが実際の通販番組なら、「凄いですねえ!!!」と合いの手が入るのだが、部下たちの反応は思わしくなかった。

「う、うーん? でもボス、猫飼ってないじゃないですか」
「そうだ、飼ってない。でも、特別に一億ルリラを支払うことで、この掃除魔道具の上に乗せる猫のぬいぐるみがついてくるんだ! ほら、見ろ」

 隣の荷物箱の蓋を開け、取り出した猫のぬいぐるみを魔法生命体の上に置く。緑色の点滅と共に、魔法生命体が静かに動き出した。部屋の床の上を流れるように、右に、左に……

 猫のぬいぐるみの尻尾もゆらゆらと揺れる。

「???」

 だから何なんだ?

 それは本当にお得なのか?

 なんで猫を乗せるんですか?

 部下たちの目が疑問符で埋め尽くされている。

「…………ん?」

(……何かがおかしいな?)

 シェランもちょっとだけ我に返った。

 だが、ここで無駄に一億ルリラをドブに捨てたことに気付けるなら、シェランは通販番組漬けになっていない。とっくの昔に目を覚ましているはずである。

「……とにかくだ。この掃除魔道具の素晴らしさは置いておいてだな。お前らに、この道具類の説明書を読んで、実際に使ってもらいたい」
「俺たちが?」
「なるほど、俺たちがこの魔道具を使えば、シンデレラの負担も少なくなるな、ですわ! 流石はボスですわ」
「ああ、そうだな」

 シェランはニヤリと唇を歪めた。

「いいか、あの娘の前でこれを使って、『ろくに使い方も知らないのか』と嘲ってやれ。『この魔道具に比べたらお前など役立たずだ』と思い知らせてやるんだ。あの娘にとっては、働くことだけが心の支えのようだからな」
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