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【悲報その7】修正不可能な性癖を義弟が持っていた場合、どうしたらいいですか?
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「……ルクセルド」
「何です」
「貴方、出掛けなくていいの?」
監禁生活、三日目。
正直に言いましょう。
早くも、私は飽きました。
だって、ほとんど動くことが出来ないのです。腕や脚に巻かれていたガチガチの縛めは解いて貰えましたが、足には頑丈な鉄の鎖が付けられています。鎖の届く範囲は寝室とその続き部屋まで、窓から外を眺めることも出来ません。
外部と隔絶された世界で、私の目に映るものと言えば、ルクセルド、ルクセルド、ルクセルド……
(……おかしいわよね?)
なんで四六時中、義弟が視界に入っているのでしょうか?
同居、同棲、共同生活などと言ったって、ここまで密接に、見せ付けるように傍にいることなど、まず無いのでは? そもそも義弟は私とは違って、ものすごく忙しいはずなのです。次期当主としての教育、社交、訓練、部下を率いての出陣など、常にやることが山積みです。だからこそ、同じ館で暮らしていても、私と顔を合わせることが殆ど無かったわけですし。
「アスクィード家に、つまり屋敷に戻って、お父様に報告したりしなくていいの?」
私が尋ねると、ルクセルドは書物に落としていた目を上げて、私を見ました。
猛禽のような目だ、と思いました。実際の猛禽はくりくりした丸い目が可愛かったりするのですが、獲物を射抜くような鋭さ、肉食の獰猛さを感じさせる点では同じです。いつ襲い掛かってくるか分からない、という点でも同じでしょう。いつ襲い掛かってくるか分からない義弟……義弟の形容としては最悪です。
(いつまで貞操を守っていられるかしら……)
ちなみに昨夜は、とうとう同衾してしまいました。
私はいい加減、感覚が麻痺しかけていたので、義弟が毛布を捲り上げて、ごそごそと侵入してきたときに特に反応もしなかったのですが、身体が近付き、抱き寄せられたときは流石にぎょっとして、喉の奥から悲鳴を放ちそうになりました。全身が鍛え上げられ、緻密な筋肉で覆われているせいか、ルクセルドの体温はとても高いのです。
その熱っぽい身体が近付き、細身なのにがっしりした腕に抱え込まれて、私が思ったのは──硬い、でした。
しっかり鍛え抜かれているせいか、脂肪など皆無、胸板も腕も引き締まってカチカチです。
「か、硬い……痛いわ、ルクセルド」
「……」
それを聞いたルクセルドが、がくっと崩れるように敷き布に顔を埋めたので、私は押し潰されて「ぎゃっ」と上げかけた声を呑み込みました。
それきり、ルクセルドはぷるぷるしていて……硬い筋肉がぷるぷるしていたところで、何一つ可愛くないし癒やしにもなりません。逆に、私はぷにぷにした脂肪が沢山あって、ルクセルドにとっては都合のいい抱き枕なのかもしれないと思うと、割と腹立たしくなります。
(これでは眠れないわ)
なんて酷い義弟でしょう。あからさまに性的……いえ、危険な方向に踏み込んできていることも含めて、その暴走っぷりに頭が痛いです。
(…………)
そう思ったのに、いつしか熟睡していました。我ながら、意外と図太かったようです。
目が覚めると、寝台にルクセルドの姿はなく、枕元の敷き布には点々と、小さな血痕が。
血……なぜ、血?! 私は一瞬うろたえましたが、
(私の流血じゃないし……まさか、鼻血)
ルクセルドの鼻血?
義理の姉の寝台に侵入して、ぷるぷるしながら抱き締めた挙句、鼻血の痕跡を残して去っていった?
「………………」
私の、ルクセルドに対する感情は短期間でめまぐるしく変化しているのですが、今、私の頭にあったものは、
(ルクセルドの性癖、大丈夫かしら)
とうとう、義弟の性癖と将来を案じる方向に変わってしまいました。
私が心配するようなことではない気もしますが……私はむしろ、哀れな犠牲者というか、今にも食われそうな羊というか、そういう役どころです。
(でも、私は一応、あの子の義姉なんだし……)
一応、と付いている時点で、何とも心もとない状況ではありますが。
自分の貞操とルクセルドの性癖、どっちを心配しているのか? 両方です!
「ルクセルド、貴方はいつまでもこんなことをしていないで、アスクィード家に帰るべきだと思うの」
結局。
昨夜は何事も無かったかのような静謐さで、書物を読み込んでいたルクセルドに向かって、私が言えたのはそれだけでした。
順当、そして穏当な言葉だったと思うのですが。ルクセルドはひどく苛ついたらしく、丹念に手入れされた刃の表層に踊る光のような、つまりは剣呑きわまる眼差しで私を睨み付けました。
「何です」
「貴方、出掛けなくていいの?」
監禁生活、三日目。
正直に言いましょう。
早くも、私は飽きました。
だって、ほとんど動くことが出来ないのです。腕や脚に巻かれていたガチガチの縛めは解いて貰えましたが、足には頑丈な鉄の鎖が付けられています。鎖の届く範囲は寝室とその続き部屋まで、窓から外を眺めることも出来ません。
外部と隔絶された世界で、私の目に映るものと言えば、ルクセルド、ルクセルド、ルクセルド……
(……おかしいわよね?)
なんで四六時中、義弟が視界に入っているのでしょうか?
同居、同棲、共同生活などと言ったって、ここまで密接に、見せ付けるように傍にいることなど、まず無いのでは? そもそも義弟は私とは違って、ものすごく忙しいはずなのです。次期当主としての教育、社交、訓練、部下を率いての出陣など、常にやることが山積みです。だからこそ、同じ館で暮らしていても、私と顔を合わせることが殆ど無かったわけですし。
「アスクィード家に、つまり屋敷に戻って、お父様に報告したりしなくていいの?」
私が尋ねると、ルクセルドは書物に落としていた目を上げて、私を見ました。
猛禽のような目だ、と思いました。実際の猛禽はくりくりした丸い目が可愛かったりするのですが、獲物を射抜くような鋭さ、肉食の獰猛さを感じさせる点では同じです。いつ襲い掛かってくるか分からない、という点でも同じでしょう。いつ襲い掛かってくるか分からない義弟……義弟の形容としては最悪です。
(いつまで貞操を守っていられるかしら……)
ちなみに昨夜は、とうとう同衾してしまいました。
私はいい加減、感覚が麻痺しかけていたので、義弟が毛布を捲り上げて、ごそごそと侵入してきたときに特に反応もしなかったのですが、身体が近付き、抱き寄せられたときは流石にぎょっとして、喉の奥から悲鳴を放ちそうになりました。全身が鍛え上げられ、緻密な筋肉で覆われているせいか、ルクセルドの体温はとても高いのです。
その熱っぽい身体が近付き、細身なのにがっしりした腕に抱え込まれて、私が思ったのは──硬い、でした。
しっかり鍛え抜かれているせいか、脂肪など皆無、胸板も腕も引き締まってカチカチです。
「か、硬い……痛いわ、ルクセルド」
「……」
それを聞いたルクセルドが、がくっと崩れるように敷き布に顔を埋めたので、私は押し潰されて「ぎゃっ」と上げかけた声を呑み込みました。
それきり、ルクセルドはぷるぷるしていて……硬い筋肉がぷるぷるしていたところで、何一つ可愛くないし癒やしにもなりません。逆に、私はぷにぷにした脂肪が沢山あって、ルクセルドにとっては都合のいい抱き枕なのかもしれないと思うと、割と腹立たしくなります。
(これでは眠れないわ)
なんて酷い義弟でしょう。あからさまに性的……いえ、危険な方向に踏み込んできていることも含めて、その暴走っぷりに頭が痛いです。
(…………)
そう思ったのに、いつしか熟睡していました。我ながら、意外と図太かったようです。
目が覚めると、寝台にルクセルドの姿はなく、枕元の敷き布には点々と、小さな血痕が。
血……なぜ、血?! 私は一瞬うろたえましたが、
(私の流血じゃないし……まさか、鼻血)
ルクセルドの鼻血?
義理の姉の寝台に侵入して、ぷるぷるしながら抱き締めた挙句、鼻血の痕跡を残して去っていった?
「………………」
私の、ルクセルドに対する感情は短期間でめまぐるしく変化しているのですが、今、私の頭にあったものは、
(ルクセルドの性癖、大丈夫かしら)
とうとう、義弟の性癖と将来を案じる方向に変わってしまいました。
私が心配するようなことではない気もしますが……私はむしろ、哀れな犠牲者というか、今にも食われそうな羊というか、そういう役どころです。
(でも、私は一応、あの子の義姉なんだし……)
一応、と付いている時点で、何とも心もとない状況ではありますが。
自分の貞操とルクセルドの性癖、どっちを心配しているのか? 両方です!
「ルクセルド、貴方はいつまでもこんなことをしていないで、アスクィード家に帰るべきだと思うの」
結局。
昨夜は何事も無かったかのような静謐さで、書物を読み込んでいたルクセルドに向かって、私が言えたのはそれだけでした。
順当、そして穏当な言葉だったと思うのですが。ルクセルドはひどく苛ついたらしく、丹念に手入れされた刃の表層に踊る光のような、つまりは剣呑きわまる眼差しで私を睨み付けました。
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