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【悲報その6】義弟の手癖が悪い件

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 改めて言うことでもないのですが。

 悪に堕ちた、悪に堕ちたと散々義弟になじられ、実際にいたぶられている私ですが(冷静に考えてみると、どさくさ紛れに、もうお嫁に行けなくなるような所業をされているような気もします。本当に義弟=正義、と思っていいんですか?)、私は悪に手を染めたつもりはなくて、いつだって「可愛い服が着たい」と思っているだけなのです。

 つまり、可愛い服=悪……?

 そんな馬鹿な、と言いたいのに言い切れないのは、今、私の置かれている状況があまりにおかしいからです。

「アスクィード流、最終奥義」

 とやらで斬られた私。

 悪の根源を断つ、強力な技。幼少期から鍛え抜かれた義弟の冴え渡る剣技。容赦なく、真っ向から斬撃を受けた私は、本来なら真っ二つに切断されているはずなのですが……

 なぜ。

 なぜ、黒タイツだけ破れたんです??

 いや、黒タイツ以外にも、黒のタイトスカートがところどころ破れて、裾なんかボロボロになっていたりもするのですが……

(……本当に、どういうことなの)

 私が状況に流されがちなのは、この場合、仕方がないことだと思います。だって、現実が意味不明すぎるのですから。

「……」

 私は首を横にねじるようにして顔を背け、目の前の光景から目を背けました。

 目の前の光景。それこそ、本当に見たくない現実です。

 まず、私は再び監禁されています。義弟が「監禁する」と言っていたわけではないのですが、状況から考えて、そういうことだと思います。見事なロープさばき、再び。破れたタイツの上、スカート、胸元、ねじ上げられた腕。幾重にも巻かれたロープは……これ、もう駄目ではないですか? こんな光景が人の目に触れたら、本当に嫁に行けない……というだけではなく、こんな経験をしてしまった時点で、私は一生まともに恋愛が出来ない気がします。

 義弟が私を運び込んだこの場所がどこなのか、私には分かりませんが……埃っぽい空気に、窓の隙間から差し込む陽光。板張りの床の上に転がされて、私は動かない人形のように横たわっています。

 その私の身体の上に乗り上げるように、義弟が私を見下ろしているのですが、

(み、見たくない)

 歯を食いしばり、義弟から必死に目を逸らす私。

 それが、抵抗としては全然役に立っていないのは、義弟の手が私の腿に触れているからです。単に触れているだけではなくて、あちこち破れたタイツの穴の一つに指を突っ込み、穴を広げるようにぐいぐいと捩じ込んでくるのです。

 その手のひらが熱くて、熱くて……

 これ、もう駄目アウトではないですか?(二度目)

「わ、私、一生嫁には行けないわ……」

 さめざめと泣きたい気分ですが、状況的に泣くわけにはいかないので、私は震える声で呟きました。

「嫁」

 ルクセルドの手が止まりました。

 見ないようにしているので、彼がどんな顔をしているのかは分かりませんが(そもそも、位置的にルクセルドの顔は逆光になっているのです)、声は無表情です。それがいかにも不穏です。

「まだ、嫁に行けるつもりでいたんですか、義姉上は」
「え」
「無理でしょう。以前の、いかにもおとなしくて良妻風の義姉上ならば、誤魔化しきれたかもしれませんが、こうして本性が剥き出しになってしまった以上」
「私の本性って何?!」

 だから、私は可愛い服が着たかっただけなのですが?

 また「毒婦」とか言われるのかと思って身構えていると、ルクセルドはうっそりと笑いました。

 何か含みがあるような、ほの暗い笑い方です。少なくとも、正義の武人の浮かべるような笑いではない、そのことは私にも分かります。

「……どうぞ、無駄なことはお考えにならないよう」

 わざとらしく丁寧な口調で、ルクセルドは言いました。

「義姉上はこのまま、私がここに隠しておきます。二度と義姉上の犠牲になる男が現れないよう……世の為、人の為に受け入れて下さいね」
「……」

 それを世の中では「監禁」と呼ぶのだ、という指摘は……しませんでした。

 ルクセルドは割と話が通じない義弟です。優秀極まる義弟に対して、どこか劣等感を抱いていた時には分かりませんでしたが……この次期当主兼義弟、実は相当問題児ではないですか?

 
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