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3.教えて依田さん!
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ここまで語ってしまえば隠しようもない、というか、隠す気があるのかという感じだけれど、私は転生者だ。
前世の記憶はあるけれど、何一つ変えられていない、世界の強制力に流されまくりの転生者。この世界での名前はリシカ・アーモンド。運命を変えようとして、戦わず、争わず、目立たずやってきた結果、ゲーム版よりも更に村娘ぽくなってしまった弱々キャラである。
ド庶民の私と、悪の帝国の皇子様である依田さん。雑魚敵に色がついたような序盤小ボスの私と、終盤戦指揮官格の依田さん。もちろん、ろくに関わりがあるはずもなく……
「あの……依田さん、じゃなかったグレシエル様は、どうしてここに?」
緊張にくぐもった、小さな掠れ声が出た。
皇子様相手に、どう喋ればいいのか。まともに話したことなんてないので、相応しい言葉なんて知らないし分からない。
依田さんの目が僅かに細められた。私は「ひゃっ」となったのだけれど、予期していた叱責の声が降ってくることはなく、
「声が掠れているな? 全回復用のポーションを飲ませたはずだが、まだ足りなかったのか」
「え? いえ、とんでもない、大丈夫です……!」
「ざっと99本ばかり持ってきたが。必要ならまた言いなさい」
「えっ」
私の心臓が跳ねた。
(どういうことなの)
依田さんが妙に過保護だ。もともと面倒見のいい人ではあるけれど(だからこその悲劇だ)、本当にいつもこの調子なの? ゲーム画面に表れない部分で、部下たちが倒れるたびにこうやってフォローしたりしてたんだろうか?
だとしたら、やっぱり彼に掛かる負担が大きすぎるのでは。
「あの……」
もぞ、もぞり。
恐る恐る問い掛けようとした私の背後で、何かがごそごそと動いた。生き物の熱が擦れ合う感覚に、私は驚いて飛び上がった。
「ふんす」
柔らかくて温かいものが、妙な呼吸音を立てた。
鼻をすぴすぴ言わせながら空気を吸い込むと、長い満足げな寝息として吐き出して静かになる。これは私を包み込んでいた毛布……ではなくて、ふかふかした純白の毛。丸みを帯びた背中、豊かな腹肉。これは……この生き物は……
「シ、シロクマ?!」
とても立派で大きい。私の身体をすっぽり覆い込んでもなお余裕がある、寝台のような大きさのシロクマだ。実際、寝心地は凄く良かったし。
(……丸い)
福々しく肥えた巨体だ。そして、頭と耳が妙に大きい。なんというか、戯画的にデフォルメされているというか、ぬいぐるみぽいというか……
「あの、依田さん、これは、このクマは」
動揺しすぎて、本人相手に通用しない通称で呼び掛けてしまった。
だって、流石に理解が追い付かない。なぜこんなところにシロクマが? なんで私は、その背中と、半ば見えている腹毛にすっぽり埋もれて「あったかい……」とかやっていたのか。どういう状況なの? 教えて依田さん!!
前世の記憶はあるけれど、何一つ変えられていない、世界の強制力に流されまくりの転生者。この世界での名前はリシカ・アーモンド。運命を変えようとして、戦わず、争わず、目立たずやってきた結果、ゲーム版よりも更に村娘ぽくなってしまった弱々キャラである。
ド庶民の私と、悪の帝国の皇子様である依田さん。雑魚敵に色がついたような序盤小ボスの私と、終盤戦指揮官格の依田さん。もちろん、ろくに関わりがあるはずもなく……
「あの……依田さん、じゃなかったグレシエル様は、どうしてここに?」
緊張にくぐもった、小さな掠れ声が出た。
皇子様相手に、どう喋ればいいのか。まともに話したことなんてないので、相応しい言葉なんて知らないし分からない。
依田さんの目が僅かに細められた。私は「ひゃっ」となったのだけれど、予期していた叱責の声が降ってくることはなく、
「声が掠れているな? 全回復用のポーションを飲ませたはずだが、まだ足りなかったのか」
「え? いえ、とんでもない、大丈夫です……!」
「ざっと99本ばかり持ってきたが。必要ならまた言いなさい」
「えっ」
私の心臓が跳ねた。
(どういうことなの)
依田さんが妙に過保護だ。もともと面倒見のいい人ではあるけれど(だからこその悲劇だ)、本当にいつもこの調子なの? ゲーム画面に表れない部分で、部下たちが倒れるたびにこうやってフォローしたりしてたんだろうか?
だとしたら、やっぱり彼に掛かる負担が大きすぎるのでは。
「あの……」
もぞ、もぞり。
恐る恐る問い掛けようとした私の背後で、何かがごそごそと動いた。生き物の熱が擦れ合う感覚に、私は驚いて飛び上がった。
「ふんす」
柔らかくて温かいものが、妙な呼吸音を立てた。
鼻をすぴすぴ言わせながら空気を吸い込むと、長い満足げな寝息として吐き出して静かになる。これは私を包み込んでいた毛布……ではなくて、ふかふかした純白の毛。丸みを帯びた背中、豊かな腹肉。これは……この生き物は……
「シ、シロクマ?!」
とても立派で大きい。私の身体をすっぽり覆い込んでもなお余裕がある、寝台のような大きさのシロクマだ。実際、寝心地は凄く良かったし。
(……丸い)
福々しく肥えた巨体だ。そして、頭と耳が妙に大きい。なんというか、戯画的にデフォルメされているというか、ぬいぐるみぽいというか……
「あの、依田さん、これは、このクマは」
動揺しすぎて、本人相手に通用しない通称で呼び掛けてしまった。
だって、流石に理解が追い付かない。なぜこんなところにシロクマが? なんで私は、その背中と、半ば見えている腹毛にすっぽり埋もれて「あったかい……」とかやっていたのか。どういう状況なの? 教えて依田さん!!
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