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「いや……俺もちょっとムッときたからつい口に出してしまった。悪い」
雪成がそう口にすれば、和泉はホッとしたように笑みを浮かべる。
雪成も吊られて笑顔を浮かべてみるが、盛大に作り笑顔になってしまった。
(ほんと……調子狂うわ)
「それじゃ俺らはそろそろ帰るわ」
「あぁ、またいつでも来い」
谷原邸を出ると、雪成は和泉へと「じゃあな」と手を上げる。
「待てよ」
「なんだ? って、ちょ……」
突然和泉は雪成の手首を掴み、少し先に止めていた車の助手席まで連れて行く。
「乗れよ」
「なに、送ってくれんの?」
送って貰えるなら楽だと雪成は素直に助手席へと乗る。和泉は直ぐに運転席に乗ると、エンジンをかける。しかし直ぐに車を出さない和泉に雪成は眉を寄せた。
「おい?」
「なぁ、俺らがこのまま朝まで一緒にいても大丈夫なのか、確かめないか」
雪成は暫く考えるように黙り込む。出来ればマンションに帰りたいが、和泉のことを少しでも知るきっかけになるかもしれないと思うと、断るのは勿体ない。
「いいけど、どこ行くんだ」
「ラブホ」
「……」
今日は戻らない旨を相手にメールを送った雪成の手が止まる。
何処かで一晩過ごすならホテルかとは雪成も思ったが、まさかラブホテルとは想像すらしなかった。
「行ったことがないんだよ、ラブホテル」
(確かにラブホに行ってるイメージねぇな)
「却下……って言いたいところだが、ラブホの方が都合はいいか」
受付や、運が悪くなければ他の客に見られることもない。お互いにとって最適な場所なのかもしれない。
「じゃあ、ラブホで」
和泉が車を出す。雪成はサイドミラーに視線を移して、暫く睨むように眺める。五分経った頃にようやく雪成の視線はフロントへと移る。
「心配しなくても、誰かにつけられるようなヘマはしない」
和泉がバックミラーを見るような素振りでそう言う。
「ふぅん。ただのバーテンダーが尾行を気にしたり、撒いたりするのか。この際だから言っておくが、俺はアンタを全面的に信用などしてないからな。それは覚えておけ」
「そうだな。それが賢明だ」
先程までの柔らかい口調とは異なり、少し硬さが残る和泉の声音。雪成は和泉の横顔をそっと窺った。
車内の暗さではっきりとは分からないが、和泉の真剣な横顔の裏に、僅かな寂寥感のようなものを感じた。どうしてそう感じるのかは分からない。直感だとしか言いようがなかった。
和泉に宣告したように、雪成は彼を完全に信用はしていない。だが、昔から備わっていると言えばいいのか、雪成には第六感が優れている。
対人となると、特に初対面では自分に悪意を持っているのか、害を成す人間なのかどうか、肌で感じ取る事が出来る。
それは絶対に外れた事がないのだ。そしてこの和泉に対しては、自分にとって害となるのかと言う意味では〝無い〟だ。
ただ初めて会った時から、一般人ではない闇という独特の陰の影を感じる。
雪成がそう口にすれば、和泉はホッとしたように笑みを浮かべる。
雪成も吊られて笑顔を浮かべてみるが、盛大に作り笑顔になってしまった。
(ほんと……調子狂うわ)
「それじゃ俺らはそろそろ帰るわ」
「あぁ、またいつでも来い」
谷原邸を出ると、雪成は和泉へと「じゃあな」と手を上げる。
「待てよ」
「なんだ? って、ちょ……」
突然和泉は雪成の手首を掴み、少し先に止めていた車の助手席まで連れて行く。
「乗れよ」
「なに、送ってくれんの?」
送って貰えるなら楽だと雪成は素直に助手席へと乗る。和泉は直ぐに運転席に乗ると、エンジンをかける。しかし直ぐに車を出さない和泉に雪成は眉を寄せた。
「おい?」
「なぁ、俺らがこのまま朝まで一緒にいても大丈夫なのか、確かめないか」
雪成は暫く考えるように黙り込む。出来ればマンションに帰りたいが、和泉のことを少しでも知るきっかけになるかもしれないと思うと、断るのは勿体ない。
「いいけど、どこ行くんだ」
「ラブホ」
「……」
今日は戻らない旨を相手にメールを送った雪成の手が止まる。
何処かで一晩過ごすならホテルかとは雪成も思ったが、まさかラブホテルとは想像すらしなかった。
「行ったことがないんだよ、ラブホテル」
(確かにラブホに行ってるイメージねぇな)
「却下……って言いたいところだが、ラブホの方が都合はいいか」
受付や、運が悪くなければ他の客に見られることもない。お互いにとって最適な場所なのかもしれない。
「じゃあ、ラブホで」
和泉が車を出す。雪成はサイドミラーに視線を移して、暫く睨むように眺める。五分経った頃にようやく雪成の視線はフロントへと移る。
「心配しなくても、誰かにつけられるようなヘマはしない」
和泉がバックミラーを見るような素振りでそう言う。
「ふぅん。ただのバーテンダーが尾行を気にしたり、撒いたりするのか。この際だから言っておくが、俺はアンタを全面的に信用などしてないからな。それは覚えておけ」
「そうだな。それが賢明だ」
先程までの柔らかい口調とは異なり、少し硬さが残る和泉の声音。雪成は和泉の横顔をそっと窺った。
車内の暗さではっきりとは分からないが、和泉の真剣な横顔の裏に、僅かな寂寥感のようなものを感じた。どうしてそう感じるのかは分からない。直感だとしか言いようがなかった。
和泉に宣告したように、雪成は彼を完全に信用はしていない。だが、昔から備わっていると言えばいいのか、雪成には第六感が優れている。
対人となると、特に初対面では自分に悪意を持っているのか、害を成す人間なのかどうか、肌で感じ取る事が出来る。
それは絶対に外れた事がないのだ。そしてこの和泉に対しては、自分にとって害となるのかと言う意味では〝無い〟だ。
ただ初めて会った時から、一般人ではない闇という独特の陰の影を感じる。
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