35 / 110
第35話
しおりを挟む
アリソンは美風に視線を一度向けるも、直ぐに冷たい双眸が翔馬を射抜く。
「何でもこいつには話してるってか」
不機嫌極まりない声で翔馬は美風に言う。せっかく仲直りしたというのに、また険悪になるのかと美風の気は重くなった。
「そういう言い方がミカを悲しませる事になると何故分からない。昨日、ミカは悲しいことがあって泣いていたのだ。その辛い思いを払拭してやりたい。そう俺が思ったから訊ねたまでだ。全ては語ってはくれなかったがな」
アリソンの叱責に翔馬は少しバツの悪さを感じたのか、美風から視線を外した。
本当のところ、アリソンの前では泣いていない。でも昨夜生気を与えた時に、やはり美風が泣いていた場面が流れ込んでいたようだ。それでも昨夜アリソンは事実を知っても尚、黙っていてくれたという事だ。アリソンの心遣いが沁みた。
「そ、そもそもアンタが現れた事が原因なんだよ。当然って顔で美風と一緒に住んだりして、普通直ぐに出ていくだろ……」
アリソンに臆しながらも翔馬は不満をぶつけるように言う。
「翔馬っ」
それは言いすぎだと美風が声を上げると、アリソンが美風の腕を引いて下がらせた。アリソンの表情は無でありつつも、静かに怒りのオーラが揺らめく。
「俺が原因だとしても、ミカを傷つけていい理由にはならない。いいか、今後再びミカを傷つけるような事があれば許さないぞ。覚えておけ」
押し殺した声。美風と関わっていなければ、恐らくアリソンは躊躇いなく何らかの行動を起こしていただろう。想像もしたくない何かを。それを堪えている。
美風はアリソンに感謝し、翔馬にはこれ以上アリソンを刺激しないでくれと願う。
美風はそっと翔馬を窺った。すると翔馬は酷く怯えたように口を噤んでいる。どうしたのかと心配になって口を開きかけた時、右肩にアリソンの手が乗った。
「帰ろう、ミカ」
「あ、あぁ、うん」
アリソンに肩を抱かれ、無理やり歩かされる。肩越しに振り返ると翔馬はまだ呆然と突っ立っていた。声をかけるべきか迷ったが、かけるのは止めて前を向いた。きっと今は声をかけても、反応が無いだろうと思ったからだ。
「なぁ、翔馬に何かしたのか?」
「いや? 何かをしたつもりはないが、俺の気に当てられたのだろう。人間はあの程度でも恐怖で動けなくなる。普通はな」
そう言ってチラリと美風に含み笑いを見せる。
「言っとくけど、オレも初めて会った時はビビってたし。知ってるだろ」
オレだって普通だ。という意味で言ったが、よくよく考えると何だかビビり認定のようで恥ずかしい。
「まぁそうだが、それならば普通は関わりを避けるがな。だからミカは面白い」
アリソンの愉快そうな笑みに、美風は苦笑いをする。人の気も知らないでと。でもアリソンを見捨てないで良かったと、あの時の自分を誉めた。
「何でもこいつには話してるってか」
不機嫌極まりない声で翔馬は美風に言う。せっかく仲直りしたというのに、また険悪になるのかと美風の気は重くなった。
「そういう言い方がミカを悲しませる事になると何故分からない。昨日、ミカは悲しいことがあって泣いていたのだ。その辛い思いを払拭してやりたい。そう俺が思ったから訊ねたまでだ。全ては語ってはくれなかったがな」
アリソンの叱責に翔馬は少しバツの悪さを感じたのか、美風から視線を外した。
本当のところ、アリソンの前では泣いていない。でも昨夜生気を与えた時に、やはり美風が泣いていた場面が流れ込んでいたようだ。それでも昨夜アリソンは事実を知っても尚、黙っていてくれたという事だ。アリソンの心遣いが沁みた。
「そ、そもそもアンタが現れた事が原因なんだよ。当然って顔で美風と一緒に住んだりして、普通直ぐに出ていくだろ……」
アリソンに臆しながらも翔馬は不満をぶつけるように言う。
「翔馬っ」
それは言いすぎだと美風が声を上げると、アリソンが美風の腕を引いて下がらせた。アリソンの表情は無でありつつも、静かに怒りのオーラが揺らめく。
「俺が原因だとしても、ミカを傷つけていい理由にはならない。いいか、今後再びミカを傷つけるような事があれば許さないぞ。覚えておけ」
押し殺した声。美風と関わっていなければ、恐らくアリソンは躊躇いなく何らかの行動を起こしていただろう。想像もしたくない何かを。それを堪えている。
美風はアリソンに感謝し、翔馬にはこれ以上アリソンを刺激しないでくれと願う。
美風はそっと翔馬を窺った。すると翔馬は酷く怯えたように口を噤んでいる。どうしたのかと心配になって口を開きかけた時、右肩にアリソンの手が乗った。
「帰ろう、ミカ」
「あ、あぁ、うん」
アリソンに肩を抱かれ、無理やり歩かされる。肩越しに振り返ると翔馬はまだ呆然と突っ立っていた。声をかけるべきか迷ったが、かけるのは止めて前を向いた。きっと今は声をかけても、反応が無いだろうと思ったからだ。
「なぁ、翔馬に何かしたのか?」
「いや? 何かをしたつもりはないが、俺の気に当てられたのだろう。人間はあの程度でも恐怖で動けなくなる。普通はな」
そう言ってチラリと美風に含み笑いを見せる。
「言っとくけど、オレも初めて会った時はビビってたし。知ってるだろ」
オレだって普通だ。という意味で言ったが、よくよく考えると何だかビビり認定のようで恥ずかしい。
「まぁそうだが、それならば普通は関わりを避けるがな。だからミカは面白い」
アリソンの愉快そうな笑みに、美風は苦笑いをする。人の気も知らないでと。でもアリソンを見捨てないで良かったと、あの時の自分を誉めた。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
俺と親父とお仕置きと
ぶんぶんごま
BL
親父×息子のアホエロコメディ
天然な父親と苦労性の息子(特殊な趣味あり)
悪いことをすると高校生になってまで親父に尻を叩かれお仕置きされる
そして尻を叩かれお仕置きされてる俺は情けないことにそれで感じてしまうのだ…
親父に尻を叩かれて俺がドMだって知るなんて…そんなの知りたくなかった…!!
親父のバカーーーー!!!!
他サイトにも掲載しています
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
勇者の股間触ったらエライことになった
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。
町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。
オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる