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第23話
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「おい美風、急にどうしたんだよ」
隣に並んだ翔真がしきりに問いかけてくるが、今の美風には答える余裕がなかった。門を目掛けてひた走る。
目当ての人物が視界に入ると、向こうも美風に気付いた。無だった表情が途端に綻んでいく。美風は走りながら少し可愛いと感じてしまい、慌てて頭を振る。
人だかりの数人が、勢い良く駆けてくる美風に気付くと、急いで美風のためにと道を開けていく。それは連鎖していき、まるでモーゼの海割りのように、すっかり通りが開けた。
「ミカ」
異国─異世界だが─の美丈夫が微笑むと周囲からため息が漏れる。アリソンは昨日美風が買った古着を着ている。黒のパーカーにジーンズ。なんて事ない一般的なコーディネートだ。
ジーンズはアリソンの脚が長すぎるため少し丈が短いが、アリソンが着るとお洒落かつ高級感が溢れて見える。そりゃあ人だかりも出来るというもの。
しかし皆、アリソンから一定の距離を取っている。直接話しかけているわけではなさそうだった。
(まぁ、あんな迫力ある男、そうそう声かけられねぇもんな)
「ちょっとこっち来い」
小声で美風はアリソンの手首を掴むと、門を抜けてずんずんと歩いていく。人だかりは追ってくることが無く、美風はホッとして近くの建物の陰へとアリソンを連れ込んだ。
「アリソン何でここに? どうやって来たんだ」
目の前の男を見上げ、厳しい口調でそう問う。
「交通機関を利用して来た」
(交通機関!? え? アリソン電車に乗ってきたのか? マジかよ。よく乗れたな)
想像してみたけれど、恐ろしい光景しか目に浮かばない。右往左往と少し焦っている姿だったら少し可愛い気もするが、アリソンに限ってはそれはないだろう。ちゃんと下調べをして来たのだろうが……目立って目立って仕方がない。
美風な頭を掻きむしりたいのを必死に我慢した。美風との約束通りに魔力を使わなかったのだから、そこは譲歩しなければならない。
「それで何で大学にまで」
「ミカが居ないとやはり──」
「あーー! うん、そっか。ごめんごめん。でも今日はバイトもあるって言っただろ?」
わざとらしくなったが、翔真に誤解を与え兼ねない発言は阻止しないと。きっと美風が居ないと寂しいと言うつもりだったはずだから。
「なぁ、美風そちらさんは?」
アリソンが口を開こうとした時、翔真が美風の肩に手を置き訊ねてきた。
ふと空気の流れが止まる。そして凍えるほどの冷気が流れ込んできた。
アリソンに視線を向けた美風の表情が瞬時に固まる。
漆黒の目がまるで邪悪そのもののように闇深く、酷く冷たい。こんな目をしたアリソンが初めてだったために、困惑もした。恐怖も感じた。昨日の冷たい目など比ではない。
「ア、アリソン──」
「貴様か。昨日からミカに馴れ馴れしい。その手をどけろ」
「え……」
翔真もアリソンの目に射抜かれて固まってしまっていたようだ。
隣に並んだ翔真がしきりに問いかけてくるが、今の美風には答える余裕がなかった。門を目掛けてひた走る。
目当ての人物が視界に入ると、向こうも美風に気付いた。無だった表情が途端に綻んでいく。美風は走りながら少し可愛いと感じてしまい、慌てて頭を振る。
人だかりの数人が、勢い良く駆けてくる美風に気付くと、急いで美風のためにと道を開けていく。それは連鎖していき、まるでモーゼの海割りのように、すっかり通りが開けた。
「ミカ」
異国─異世界だが─の美丈夫が微笑むと周囲からため息が漏れる。アリソンは昨日美風が買った古着を着ている。黒のパーカーにジーンズ。なんて事ない一般的なコーディネートだ。
ジーンズはアリソンの脚が長すぎるため少し丈が短いが、アリソンが着るとお洒落かつ高級感が溢れて見える。そりゃあ人だかりも出来るというもの。
しかし皆、アリソンから一定の距離を取っている。直接話しかけているわけではなさそうだった。
(まぁ、あんな迫力ある男、そうそう声かけられねぇもんな)
「ちょっとこっち来い」
小声で美風はアリソンの手首を掴むと、門を抜けてずんずんと歩いていく。人だかりは追ってくることが無く、美風はホッとして近くの建物の陰へとアリソンを連れ込んだ。
「アリソン何でここに? どうやって来たんだ」
目の前の男を見上げ、厳しい口調でそう問う。
「交通機関を利用して来た」
(交通機関!? え? アリソン電車に乗ってきたのか? マジかよ。よく乗れたな)
想像してみたけれど、恐ろしい光景しか目に浮かばない。右往左往と少し焦っている姿だったら少し可愛い気もするが、アリソンに限ってはそれはないだろう。ちゃんと下調べをして来たのだろうが……目立って目立って仕方がない。
美風な頭を掻きむしりたいのを必死に我慢した。美風との約束通りに魔力を使わなかったのだから、そこは譲歩しなければならない。
「それで何で大学にまで」
「ミカが居ないとやはり──」
「あーー! うん、そっか。ごめんごめん。でも今日はバイトもあるって言っただろ?」
わざとらしくなったが、翔真に誤解を与え兼ねない発言は阻止しないと。きっと美風が居ないと寂しいと言うつもりだったはずだから。
「なぁ、美風そちらさんは?」
アリソンが口を開こうとした時、翔真が美風の肩に手を置き訊ねてきた。
ふと空気の流れが止まる。そして凍えるほどの冷気が流れ込んできた。
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漆黒の目がまるで邪悪そのもののように闇深く、酷く冷たい。こんな目をしたアリソンが初めてだったために、困惑もした。恐怖も感じた。昨日の冷たい目など比ではない。
「ア、アリソン──」
「貴様か。昨日からミカに馴れ馴れしい。その手をどけろ」
「え……」
翔真もアリソンの目に射抜かれて固まってしまっていたようだ。
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