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第17話
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「あぁ、そうだな。分かった。なるべく努力はする」
「努力じゃなくて……って、あれ?」
美風はアリソンから一歩下がり、その全身に目を走らせる。
「その服……どうしたんだよ」
昨日身に着けていたスーツじゃない。上質な濃紺生地に薄く細かいストライプが入っている。モデルがはだしで逃げてしまいそうな程に、三つ揃いのスーツを完璧に着こなしている。
「これを稼いでいた」
アリソンは内ポケットに手を差し入れると、妙に少し膨らんでいる黒の長財布を取り出した。某有名なラグジュアリーブランドだ。
美風に見えるようにと、アリソンは財布のかぶせ蓋を開いた。
「っ! か、稼いでたって……。その財布も突っ込みたいけど、中身のそれってお札だよな?」
「あぁ、五十万ある」
「は、はぁ!?」
美風の声が狭い部屋を大音量で満たす。そして思わずアリソンの手から財布をむしり取った。
若干震える指で何枚か抜き、それを部屋の照明に翳した。
透かしはある。文字の部分には僅かな凸凹もある。そして〝L〟の文字もある。
「本物……」
「心配しなくても全て本物だ」
「心配しなくてもって、心配するし! これは一体どうしたんだよ! まさか稼ぎと言う名目で盗んだりしてないよな!」
こんな大金など滅多に目にすることがなく、美風は少しパニックにもなっていた。
「落ち着けミカ」
「は? こんなの落ち着いてられっかよ! ちゃんと説明してくれ」
「分かった。だから少し落ち着け」
アリソンに宥めるように背中をさすられ、美風は一度落ち着かせようと大きく息を吸って吐いた。
まだ気は立っているが、話を聞かないことには前に進まない。美風はもう一度息を吐いてローテブルにつく。アリソンもそれに倣った。
「先ずは勝手に部屋を出たことを詫びる。すまなかった」
「え? あ……それは別に……出るなとは言ってないし。まぁ、ちょっと心配したけど。それはもしかしたら人が犠牲になってるんじゃないかって思ったからであって……」
思いっきり信用してませんでしたという言葉の羅列にも、アリソンは怒ることなく、逆にとても柔らかな目で美風を見ている。
悪魔がする目ではなかった。しかも謝るなど。美風に悪いことをしたという自覚があるようだ。
美風は美風で自分でも分からないモヤモヤがあったため、少し誤魔化すようにアリソンを悪く言ってしまった節があった。
「そう思われても仕方ないな。ただ俺はここに居るなら少しはミカの役に立ちたかった」
「役に?」
美風の問にアリソンは鷹揚に頷いた。
「ただで住まわせて貰おうとは思ってない。ミカの生活もキツいようだしな」
人間界に順応良すぎるアリソンに、美風は少し肩の力が抜けた。
「努力じゃなくて……って、あれ?」
美風はアリソンから一歩下がり、その全身に目を走らせる。
「その服……どうしたんだよ」
昨日身に着けていたスーツじゃない。上質な濃紺生地に薄く細かいストライプが入っている。モデルがはだしで逃げてしまいそうな程に、三つ揃いのスーツを完璧に着こなしている。
「これを稼いでいた」
アリソンは内ポケットに手を差し入れると、妙に少し膨らんでいる黒の長財布を取り出した。某有名なラグジュアリーブランドだ。
美風に見えるようにと、アリソンは財布のかぶせ蓋を開いた。
「っ! か、稼いでたって……。その財布も突っ込みたいけど、中身のそれってお札だよな?」
「あぁ、五十万ある」
「は、はぁ!?」
美風の声が狭い部屋を大音量で満たす。そして思わずアリソンの手から財布をむしり取った。
若干震える指で何枚か抜き、それを部屋の照明に翳した。
透かしはある。文字の部分には僅かな凸凹もある。そして〝L〟の文字もある。
「本物……」
「心配しなくても全て本物だ」
「心配しなくてもって、心配するし! これは一体どうしたんだよ! まさか稼ぎと言う名目で盗んだりしてないよな!」
こんな大金など滅多に目にすることがなく、美風は少しパニックにもなっていた。
「落ち着けミカ」
「は? こんなの落ち着いてられっかよ! ちゃんと説明してくれ」
「分かった。だから少し落ち着け」
アリソンに宥めるように背中をさすられ、美風は一度落ち着かせようと大きく息を吸って吐いた。
まだ気は立っているが、話を聞かないことには前に進まない。美風はもう一度息を吐いてローテブルにつく。アリソンもそれに倣った。
「先ずは勝手に部屋を出たことを詫びる。すまなかった」
「え? あ……それは別に……出るなとは言ってないし。まぁ、ちょっと心配したけど。それはもしかしたら人が犠牲になってるんじゃないかって思ったからであって……」
思いっきり信用してませんでしたという言葉の羅列にも、アリソンは怒ることなく、逆にとても柔らかな目で美風を見ている。
悪魔がする目ではなかった。しかも謝るなど。美風に悪いことをしたという自覚があるようだ。
美風は美風で自分でも分からないモヤモヤがあったため、少し誤魔化すようにアリソンを悪く言ってしまった節があった。
「そう思われても仕方ないな。ただ俺はここに居るなら少しはミカの役に立ちたかった」
「役に?」
美風の問にアリソンは鷹揚に頷いた。
「ただで住まわせて貰おうとは思ってない。ミカの生活もキツいようだしな」
人間界に順応良すぎるアリソンに、美風は少し肩の力が抜けた。
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