魔王は天使に跪く

那野ユーリ

文字の大きさ
上 下
17 / 110

第17話

しおりを挟む
「あぁ、そうだな。分かった。なるべく努力はする」
「努力じゃなくて……って、あれ?」
 美風はアリソンから一歩下がり、その全身に目を走らせる。
「その服……どうしたんだよ」
 昨日身に着けていたスーツじゃない。上質な濃紺生地に薄く細かいストライプが入っている。モデルがはだしで逃げてしまいそうな程に、三つ揃いのスーツを完璧に着こなしている。
「これを稼いでいた」
 アリソンは内ポケットに手を差し入れると、妙に少し膨らんでいる黒の長財布を取り出した。某有名なラグジュアリーブランドだ。
 美風に見えるようにと、アリソンは財布のかぶせ蓋を開いた。
「っ! か、稼いでたって……。その財布も突っ込みたいけど、中身のそれってお札だよな?」
「あぁ、五十万ある」
「は、はぁ!?」
 美風の声が狭い部屋を大音量で満たす。そして思わずアリソンの手から財布をむしり取った。
 若干震える指で何枚か抜き、それを部屋の照明に翳した。
 透かしはある。文字の部分には僅かな凸凹もある。そして〝L〟の文字もある。
「本物……」
「心配しなくても全て本物だ」
「心配しなくてもって、心配するし! これは一体どうしたんだよ! まさか稼ぎと言う名目で盗んだりしてないよな!」
 こんな大金など滅多に目にすることがなく、美風は少しパニックにもなっていた。
「落ち着けミカ」
「は? こんなの落ち着いてられっかよ! ちゃんと説明してくれ」
「分かった。だから少し落ち着け」
 アリソンに宥めるように背中をさすられ、美風は一度落ち着かせようと大きく息を吸って吐いた。
 まだ気は立っているが、話を聞かないことには前に進まない。美風はもう一度息を吐いてローテブルにつく。アリソンもそれに倣った。
「先ずは勝手に部屋を出たことを詫びる。すまなかった」
「え? あ……それは別に……出るなとは言ってないし。まぁ、ちょっと心配したけど。それはもしかしたら人が犠牲になってるんじゃないかって思ったからであって……」
 思いっきり信用してませんでしたという言葉の羅列にも、アリソンは怒ることなく、逆にとても柔らかな目で美風を見ている。
 悪魔がする目ではなかった。しかも謝るなど。美風に悪いことをしたという自覚があるようだ。
 美風は美風で自分でも分からないモヤモヤがあったため、少し誤魔化すようにアリソンを悪く言ってしまった節があった。
「そう思われても仕方ないな。ただ俺はここに居るなら少しはミカの役に立ちたかった」
「役に?」
 美風の問にアリソンは鷹揚に頷いた。
「ただで住まわせて貰おうとは思ってない。ミカの生活もキツいようだしな」
 人間界に順応良すぎるアリソンに、美風は少し肩の力が抜けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

俺と親父とお仕置きと

ぶんぶんごま
BL
親父×息子のアホエロコメディ 天然な父親と苦労性の息子(特殊な趣味あり) 悪いことをすると高校生になってまで親父に尻を叩かれお仕置きされる そして尻を叩かれお仕置きされてる俺は情けないことにそれで感じてしまうのだ… 親父に尻を叩かれて俺がドMだって知るなんて…そんなの知りたくなかった…!! 親父のバカーーーー!!!! 他サイトにも掲載しています

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

くまさんのマッサージ♡

はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。 2024.03.06 閲覧、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。 2024.03.10 完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m 今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。 2024.03.19 https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy イベントページになります。 25日0時より開始です! ※補足 サークルスペースが確定いたしました。 一次創作2: え5 にて出展させていただいてます! 2024.10.28 11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。 2024.11.01 https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2 本日22時より、イベントが開催されます。 よろしければ遊びに来てください。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

処理中です...