東京PMC’s

青空鰹

文字の大きさ
上 下
61 / 130

紫音と忘れたい過去

しおりを挟む
 11年前の出来事。それは僕にとって今でも覚えている大事件だった。

 『ほら、紫音。こっちにおいで』

 『イヤッ!?』

 お父さんが手を差し伸べてそう言うが、僕は首を振って嫌がる。

 『早くしないと、周りの人達困っちゃうよ』

 『イヤァーーーッ!?』

 近づけば逃げられての追い掛けっこを繰り返していたら、とうとう捕まってしまった。

 『離してぇ~っ!』

 『ダメ、離さないよ』

 『これイヤッ!? 他のにして!』

 『これしかなかったんだから、我慢して』

 お父さんはそう言って、撮影スタジオの真ん中に立った。

 『こっちを向いて向いて下さぁ~い!』

 『ムゥ~・・・・・・』

 『ほら紫音、むこうに顔を向けて』

 カメラに顔を向けた瞬間、視界が眩い光に包まれた。

 「・・・・・・それが、その時に撮影された写真ですぅ~」

 「カ~ワ~イ~イ~ッ!?」

 「プッ!? た、確かに・・・・・・こ、これは、可愛いね。フフッ」

 「・・・・・・ブッ!?」

 リトアさんは写真にメロメロで、リュークさんは話しながら笑い堪えてる。天野さんに至っては口元を押さえて僕を見つめている。

 「笑わないで下さいよぉ!」

 「いやぁ、ゴメン! 話が本当に面白かったからさぁ。耐えきれなくって・・・・・・アハハッ!?」

 「それに、お前がこれに着替えさせられた理由がしょうもなくてな。女の子と間違えられて、そのまま撮影したって。面白過ぎるだろ」

 そう、天野さん達が見て笑っているのは僕がメイド服を着て、お父さんと共に写っている写真なのだ。

 「リトアさん、何でこんなのを見つけるんですかぁ!?」

 「見つけちゃったものは仕方ないじゃない。あ~、可愛い」

 「て言うか、何で僕の部屋に入ったんですか?」

 「掃除していたら、偶然アルバムを見つけちゃってねぇ~。中を覗いて見たらこれが目に飛び込んで来ちゃったのよねぇ~!」

  僕が帰って来たら速攻でリトアさんが玄関までやって来て、 この子は一体誰なの? と写真を見せながら尋問して来たので、 写真に写っている子は僕です。 と白状したら今の状態になった。

 「この姿は私の中で永久保存しておこう」

 リトアさんはそう言うと、スマホで写真撮り始めた。

 「撮らないで下さいよぉ!」

 「ダ~メッ! 可愛い姿を覚えておきたいの」

 リトアさんは撮り終えたのか、スマホを見つめてうっとりしている。

 「それはそうと紫音。お前に把握しておいて貰いたい事がある」

 「何ですか、いきなり?」

 僕が不機嫌そうに答えると、天野さんは1枚の紙を手渡して来た。

 「えっとぉ。何ですかこれ?」

 「強化骨格で全身を固めた人間、つまりサイボーグを羽田空港に持って来るらしいんだ」

 「サイボーグ? 持ってくるって、実在しているのですか?」

 「実在しているから、書面になってるんだろ」

 確かに天野さんの言う通り、書類には日付と配備場所が書かれていた。

 「天野さん。何の為にサイボーグをここまで持って来るんですか?」

 「さぁな。気になるのなら工藤のヤツに聞いてみたらどうだ?」

 「わかりました。そうします」

 そう返事をしてから書類を天野さんに返した。

 「でも気になるよね、サイボーグ」

 「そうねぇ。明日来るみたいだから、行って見てみましょうよ」

 「お前ら、用がないのに羽田に行こうとするなよ。経費が掛かるからな」

 そう言う天野さんだって、僕の稼いだお金でUMP用のマガジンを勝手に買ったじゃないですか。

 「あら、用ならあるわよ」

 「何だ?」

 「私のAKMをメンテナンスに出しに行くから」

 「・・・・・・そうか。なら行って来い。俺はちょっと出掛けて来る」

 天野さんはそう言って立ち上がり、部屋を出て行ってしまった。

 「天野さん、何処に行くんですかね?」

 「アマノくんの事だから、気晴らしに行ったんだと思うよ。さて、僕も家事に戻ろうか」

 続けてリュークさんも僕の部屋から出て行ってしまった。

 「ねぇシオンくん。この写真貰っていいかしら?」

 「ダメです!」

 リトアさんが持っている写真を奪うように取り、アルバムに戻すとそのまま棚に戻した。

 「いけずぅ~!」

 「僕もう真理亜さんところに行きますね!」

 「あらそう。行ってらっしゃい」

 足早に自分の部屋を出て行くのだが、リトアさんはニヤニヤした顔をさせながらスマホを操作していた。

 「ハァ~・・・・・・憂うつだぁ~」

 見られたくない物を見られてしまった為か、足取りが重い。

 「ふぉぉぉおおおおおおぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおっ!!?」

 ん? この声は。

 そう思いながら声が聞こえた方向に顔を向けて見ると、何とそこには車に抱き付いているおじさんがいるではないか。

 「よく来たね。ボクの・・・・・・エクストレイル(20XI)ちゃぁぁぁああああああああああああんっ!!?」

 そう言ってボンネットに貼り付くと頬擦りをする。

 「社長、元気になってくれてよかったッス」

 「キミだけは・・・・・・キミだけあの子達と同じ思いをさせない! この俺が絶対に守ってあげるからねっ!」

 おじさんはそう言ってから車のボンネットに長いキスをするので、ドン引きしてしまった。

 「チュゥ~~~~~~・・・・・・ん?」

 キスをしている途中で僕と目が合った。

 あ、こっち見た。

 怒られそう。と思った瞬間、おじさんがこっちに身体を向けて歯を剥き出しに見つめて来た。

 「フシャァァァアアアアアアアアアアアアッッッ!!?」

 い、威嚇ッ!? 何見てんだよ? って怒って来るんじゃなくて、威嚇して来たぁ!!

 そう、まるで我が子を守ろうとする母猫が如く、おじさんがエクストレイルの前に立ち僕を威嚇して来るのだ。

 「ガルルルルルッ!? ワンッ!? ワンッ!? ガオォォォオオオオオオオオオオオオッッッ!!? ミャアアアアアアアアアアアアッッッ!!?」

 「しゃ、社長?」

 「ヒヒィィィイイイイイインッッッ!!? パォォォオオオオオオンッッッ!!? クエェェェエエエエエエエエエエエエエッッッ!!?」

 しかも色んなのが混じっているし、何で荒ぶる鷹のポーズをしているの? もう訳がわからない!

 僕が困惑していると道路の向こう側から親子連れがやって来て、子供がおじさんに指をさした。

 「ねぇママ! またあのおじさんが変な事をしているよ! おもしろぉ~~~い!!」

 「コラッ、見ちゃいけませんよ!」

 母親は息子に向かってそう言うと、子供の手を取って足早に去って行った。多分、子供の教育上見せてはいけないと思ったんだろうなぁ。っていうか、またってこのおじさん・・・・・・。

 紫音は子供が言っていたまたとは、フェアレディZがここにあった時の事とは気付いていなかった。

 「社長、冷静になるッス! あの子は何もして来ないッスよ!」

 「ウキィィィイイイイイイイイイイイイッッッ!!?」

 今度はサルっ!?

「そ、そうだ! 社長、ドライブに行かないんスか?」

 「ドライブッ!?」

 社長と呼ばれたおじさんは、手早く運転席に乗り込んだ。

 「ドライブ! ドライブ! ドライブ!」

 「社長、今乗るから待つッスよ!」

 ~~~ッス口調の男性は、軽く 迷惑を掛けてゴメンね。 と言った後にエクストレイルに乗り込んだ。その人が乗り込んだのを確認したおじさんは、エクストレイルを発進させた。

 「一体何だったんだろう?」

 いや、深く考えない方がいいかもしれない。

 そう思った後、歩き出してスナック マザー・ラブに向かう。

 「すみませぇ~ん、遅くなりましたぁ~」

 そう言いながらお店に入ると、真理亜さんがカウンターの下からヒョッコリと顔を出した。

 「あら、いらっしゃぁ~い! シオンちゃぁん!」

 「・・・・・・シオン?」

 カウンターの奥で酔い潰れていたお客さんらしき人が顔を上げてこっちを見て来たが、すぐに顔を伏せてしまった。

 お父さんと同じ黒狼族。何で僕を見つめて来たんだろう?

 「紫音ちゃぁん、今日も荷物整理の仕事よろしくねぇ~」

「あ! はぁ~い!」

 そう返事をした後、お店の奥に積まれているダンボールを下ろそうと、酔い潰れているおじさん後ろを通った時だった。
 おじさんが何かを感じ取ったのか、いきなり顔を上げてこっちを見つめて来たのだ。

 「ヒューリーッ!?」

 「え?」

 何でこの人は僕のお父さんの名前を知っているの?

 そう思って戸惑っていると、おじさんが僕に近づいて臭いを嗅いで来たのだ。

 「ヒューリーの臭いが・・・・・・キミからする」

 おじさんはそう言うと、ポケットから1枚の写真を取り出して見せて来た。

 「この子を、知らないか」

 「え? ええっ!?」

 僕が驚くのも無理がなかった。だっておじさんが持っていたのは、天野さん達に見られた写真と同じ物を見せられていたのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕のおつかい

麻竹
ファンタジー
魔女が世界を統べる世界。 東の大地ウェストブレイ。赤の魔女のお膝元であるこの森に、足早に森を抜けようとする一人の少年の姿があった。 少年の名はマクレーンといって黒い髪に黒い瞳、腰まである髪を後ろで一つに束ねた少年は、真っ赤なマントのフードを目深に被り、明るいこの森を早く抜けようと必死だった。 彼は、母親から頼まれた『おつかい』を無事にやり遂げるべく、今まさに旅に出たばかりであった。 そして、その旅の途中で森で倒れていた人を助けたのだが・・・・・・。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ※一話約1000文字前後に修正しました。 他サイト様にも投稿しています。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

雨上がりに僕らは駆けていく Part1

平木明日香
恋愛
「隕石衝突の日(ジャイアント・インパクト)」 そう呼ばれた日から、世界は雲に覆われた。 明日は来る 誰もが、そう思っていた。 ごくありふれた日常の真後ろで、穏やかな陽に照らされた世界の輪郭を見るように。 風は時の流れに身を任せていた。 時は風の音の中に流れていた。 空は青く、どこまでも広かった。 それはまるで、雨の降る予感さえ、消し去るようで 世界が滅ぶのは、運命だった。 それは、偶然の産物に等しいものだったが、逃れられない「時間」でもあった。 未来。 ——数えきれないほどの膨大な「明日」が、世界にはあった。 けれども、その「時間」は来なかった。 秒速12kmという隕石の落下が、成層圏を越え、地上へと降ってきた。 明日へと流れる「空」を、越えて。 あの日から、決して止むことがない雨が降った。 隕石衝突で大気中に巻き上げられた塵や煤が、巨大な雲になったからだ。 その雲は空を覆い、世界を暗闇に包んだ。 明けることのない夜を、もたらしたのだ。 もう、空を飛ぶ鳥はいない。 翼を広げられる場所はない。 「未来」は、手の届かないところまで消え去った。 ずっと遠く、光さえも追いつけない、距離の果てに。 …けれども「今日」は、まだ残されていた。 それは「明日」に届き得るものではなかったが、“そうなれるかもしれない可能性“を秘めていた。 1995年、——1月。 世界の運命が揺らいだ、あの場所で。

白銀の超越者 ~彼女が伝説になるまで~

カホ
ファンタジー
とある寂れた裏町で、一人の赤子が産まれた。その赤子は右手に虹色の宝石が埋め込まれていたという。母親は、赤子の行く末を視てこうつぶやいた。 「あぁ……なんて苦難に満ちた人生なんだろう」 6年後、母を失い、父の冷遇によって人への感情を凍結させた少女は、ユグドラシルの名を持って南の公爵家に養子に入る。そこでユグドラシルは自分と似た境遇の少年少女たちと出会う。彼らとの出会いを通じて、ユグドラシルの心に人間らしい感情が戻っていく。 多くのことを経験し、ユグドラシルは人として成長していく。やがて国を巻き込んだ大きな動乱の時、この国に新たな伝説が刻まれる。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

処理中です...