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決意した紫音
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薄暗い部屋の中、シオンはベッドの上で小さく丸まり、身体を震わせながら泣いていた。
「ヒック・・・・・・グスッ・・・・・・・・・・・・ウゥ・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
いつか人と戦う事になるってわかっていた。いざ実戦になると、なにも出来ないまま震えているだけで何も出来ずにいる自分がそこにいた。
何も出来ない自分が悔しかったから泣いているんじゃない。生きられてよかったから泣いているわけでもない。じゃあ彼は何で泣いているのか? 答えは単純、“恐いから泣いているのだ。”
天野が提供して貰えた居場所を出ていけば、命を狙われるどころか戦闘で死ぬ事はない。しかし、出て行った後、どうすればいい? 寝床はなくなる上に、お金を稼ぐ場所を探すのに苦労するのは目に見えている。
「ヒック・・・・・・どうして僕が・・・・・・こんなぁ」
お父さんがいてくれたら、こんな目に合わなかったのに。
「お父さんのバカァ・・・・・・」
どうしていなくなったの? お父さんは僕の事を嫌いになったの?
そう心の中で問いかけても、誰も答えてはくれないのは自分自身わかっていたが、彼は泣きながら目を瞑り、何度も何度も同じ事を問いかけ続けていた。
『ただいま』
『おとうさん、おかえり~!』
背の大きな獣人に駆け寄り、尻尾振って抱き付く小さなライカンスロープの子供。自分自身とお父さんだと、紫音はすぐに気づく。
『おとうさん怪我してる』
『ああ、お仕事で腕を怪我をしちゃったんだ』
そう、父親の左腕には包帯が巻かれており、とても痛そうなのが見てわかる。
『おとうさん、痛くないの?』
『平気だよ紫音』
お父さんはそう言うと、僕の事を抱き上げた。多分僕に、この通り大丈夫だから。って伝える為にやった行動だと思う。
『今日のご飯は何にしようか』
『おにく~!』
『じゃあ、生姜焼きにしようか』
そう言うとそのままキッチンへと歩き出すのだが、子供の頃の自分は無邪気に喜んでいるが、夢を見ている自分は、何かがおかしい。と思ってしまう。
あ、歩き方がおかしいんだ。
夢の中の自分ではなく、子供の頃は気づかなかったが、この時の父親は右足を少し引き摺りながら歩いていた。多分、右足も怪我をしてるんだ。
『紫音、向こうの椅子で待ってて』
『はぁ~い!』
そう返事をすると椅子に座り、ニコニコとキッチン見つめる。
『ねぇ、おとうさん』
『ん、何だい紫音?』
『ピーエムシーのおしごと大変なの?』
『ああ、大変だよ。毎日大忙しだ』
『おおいそがしだから、おけがしちゃうの?』
『その通りだね。いっぱい怪我をする危険な仕事だから、これぐらいは当たり前だよ』
ああそうだった。お父さんはどんなに忙しくても帰って来てくれたし、酷い怪我を負っていても平気そうに話していた。居なくなった今だからわかる。いい父親だったのかもしれない。
『おとうさんがピーエムシーのおしごとやめたら、もうけがしなくなる?』
『そうだね。どうしてそんな事を聞くんだい?』
『しんぱいだから』
『心配?』
『うん! おとうさんが毎日大変でつらそうにしているの。だからね、おしごとやめたらシオンといっしょにいられる! けがもしない!』
父親の心配をしての発言なのか、子供ながらの無邪気な発言なのかはわからないけど、毎日1人きりで寂しかったのだけは覚えている。
『・・・・・・そうだね。でもね紫音、お父さんは仕事を辞めるつもりはないよ』
『なんで?』
『お父さんの事をね。信じている人達がいるんだ。だからその信じている人達の為に、今の仕事を続けようと思っているんだ』
『う~~~ん・・・・・・シオンわかんない』
『いずれわかるさ。ほら、しょうが焼きが出来たぞ』
『わぁ~い』
テーブルに並べた料理に いただきます! と言ってから楽しそうに食べ始める僕とお父さん。その父親の顔を見て、あ! と言って気付いた。
ああそっか、僕はお父さんと同じ立場にいるんだ。なのに僕は、天野さんやリトアさんが何とかしてくれると心の何処かで思って頼っててもいたんだ。
お父さんはあんなに怪我しても、元気そうにしているのに。なのに僕は・・・・・・。
「・・・・・・ん、んん?」
布団を被って寝落ちしてしまったせいか、少し息苦しく感じてしまう。
今何時だろう?
布団から出てスマホを確認して見ると、朝の3時だったのでビックリしてしまった。そう、昨日の夕方5時から朝の3時までずっと眠り続けていたのだ。
「えっ! そんなに長く寝てたの?」
うわぁ、スマホのバッテリーが5%しかないから、早く充電しないと!
充電器を差し込んでバッテリーを充電させると、新たな問題が出て来た。それはお腹から、クゥ~~っと音が鳴り響いて来た。
あ、そういえば夕食を食べ損ねちゃったんだった。どうしよう、リビングに行けばカップラーメンとかレトルトカレーがあると思うんだけど、全部天野さんも物だから勝手に食べるのも問題ありそうだし・・・・・・。
しかし身体は正直なものなので、またクゥ~~~・・・・・・っと鳴り出すのだった。
「ウゥ~~~・・・・・・お腹空いたぁ~」
眠って忘れてしまおう。と思い付いたので、再びベッドに潜り込み目蓋を閉じるが、脳裏に夢で見た光景を思い返してしまう。
お父さんは、あんなに怪我をしているのに平気そうにしていた。なのに僕は、情けない姿で泣いているなんて、お父さんが見ていたら、何て言うのだろうか。
「・・・・・・もう少しだけ、頑張ってみよう」
その後すぐに寝息を立てるのであった。
同時刻、2人の中年の男が居酒屋で飲んでいるが、丸みを帯びた男の方はカウンターに突っ伏していて、隣りにいた背の高い痩せた体型の男が身体を揺すって起こそうとする。
「しゃちょぉ~、飲み過ぎですよぉ~・・・・・・もお夜遅いんですからぁ、帰りましょうよぉ~」
ガバッと顔を上げて揺すっていた男の顔を真っ赤な顔で見つめるが、顔が真っ赤になっているのが酔っているのかせいなのか、それとも怒っているせいでそうなっているのかはわからない。
「ウルセェ! 飲んでねぇとやってらんねぇよぉ~・・・・・・俺のフェアレディZおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ・・・・・・・・・・・・」
何故この男が泣いているのかというと、お昼過ぎ辺りに彼自慢の愛車である 日産 フェアレディZ NISMO を道路の脇に車を停めていたのだが、帰って来ると何とフロントガラスが粉々の穴だらけになっていて、レッカー車に担ぎ込まれようとしていたのだ。
その光景を見た、見崎 中也 はその場で失神してしまった。因みにそのレッカー車で運ぼうとしている車が、見崎の物だと説明したのが現在隣りにいる 田嶋 浩介 (部長)である。
「650万もしたんだぞぉ~・・・・・・それが、グスッ!」
「そうっすねぇ~、災難っすねぇ~。あのときに近くの駐車場に入れてればよかったっすねぇ~。あ、すいません。ねぎまの塩を2本ください!」
「はいよ!」
店員はキレのある声で返事をすると、ねぎまを焼き始める。
「おい、こっちはビール追加だ!」
見崎がそう言うと、店主はカウンター越しに睨み付けた。
「お客さん、飲み過ぎですよ。もう10杯目超えてるじゃないですか。そろそろその辺にした方が・・・・・・」
「ウルセェ! アンタまでそう言うのかよ!」
「う~ん・・・・・・わかりました。どうなっても知りませんからね。ビール追加で!」
見崎の剣幕に押された店員さんがそう言うと、奥から はぁ~い! と返事が聞こえて来た。
「そういえば、いったい誰が俺のフェアレディZをあんな目に合わせたんだぁ~?」
「さぁ~、誰っすかね? グシャグシャのメッタメタでしたからね、ひょっとしたら魔物がやったんじゃないんすかぁ」
「バカ言うんじゃねぇよ! ぜってぇ人がやったんだよっ!! クソォ~、こうなったらやったヤツを見つけ出して、俺がぶっ殺してやるっ!!」
愛車であるフェアレディZの仇を、先に頼んでいた つくね(タレ)を咥えながら誓う見崎であった。
「ヒック・・・・・・グスッ・・・・・・・・・・・・ウゥ・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
いつか人と戦う事になるってわかっていた。いざ実戦になると、なにも出来ないまま震えているだけで何も出来ずにいる自分がそこにいた。
何も出来ない自分が悔しかったから泣いているんじゃない。生きられてよかったから泣いているわけでもない。じゃあ彼は何で泣いているのか? 答えは単純、“恐いから泣いているのだ。”
天野が提供して貰えた居場所を出ていけば、命を狙われるどころか戦闘で死ぬ事はない。しかし、出て行った後、どうすればいい? 寝床はなくなる上に、お金を稼ぐ場所を探すのに苦労するのは目に見えている。
「ヒック・・・・・・どうして僕が・・・・・・こんなぁ」
お父さんがいてくれたら、こんな目に合わなかったのに。
「お父さんのバカァ・・・・・・」
どうしていなくなったの? お父さんは僕の事を嫌いになったの?
そう心の中で問いかけても、誰も答えてはくれないのは自分自身わかっていたが、彼は泣きながら目を瞑り、何度も何度も同じ事を問いかけ続けていた。
『ただいま』
『おとうさん、おかえり~!』
背の大きな獣人に駆け寄り、尻尾振って抱き付く小さなライカンスロープの子供。自分自身とお父さんだと、紫音はすぐに気づく。
『おとうさん怪我してる』
『ああ、お仕事で腕を怪我をしちゃったんだ』
そう、父親の左腕には包帯が巻かれており、とても痛そうなのが見てわかる。
『おとうさん、痛くないの?』
『平気だよ紫音』
お父さんはそう言うと、僕の事を抱き上げた。多分僕に、この通り大丈夫だから。って伝える為にやった行動だと思う。
『今日のご飯は何にしようか』
『おにく~!』
『じゃあ、生姜焼きにしようか』
そう言うとそのままキッチンへと歩き出すのだが、子供の頃の自分は無邪気に喜んでいるが、夢を見ている自分は、何かがおかしい。と思ってしまう。
あ、歩き方がおかしいんだ。
夢の中の自分ではなく、子供の頃は気づかなかったが、この時の父親は右足を少し引き摺りながら歩いていた。多分、右足も怪我をしてるんだ。
『紫音、向こうの椅子で待ってて』
『はぁ~い!』
そう返事をすると椅子に座り、ニコニコとキッチン見つめる。
『ねぇ、おとうさん』
『ん、何だい紫音?』
『ピーエムシーのおしごと大変なの?』
『ああ、大変だよ。毎日大忙しだ』
『おおいそがしだから、おけがしちゃうの?』
『その通りだね。いっぱい怪我をする危険な仕事だから、これぐらいは当たり前だよ』
ああそうだった。お父さんはどんなに忙しくても帰って来てくれたし、酷い怪我を負っていても平気そうに話していた。居なくなった今だからわかる。いい父親だったのかもしれない。
『おとうさんがピーエムシーのおしごとやめたら、もうけがしなくなる?』
『そうだね。どうしてそんな事を聞くんだい?』
『しんぱいだから』
『心配?』
『うん! おとうさんが毎日大変でつらそうにしているの。だからね、おしごとやめたらシオンといっしょにいられる! けがもしない!』
父親の心配をしての発言なのか、子供ながらの無邪気な発言なのかはわからないけど、毎日1人きりで寂しかったのだけは覚えている。
『・・・・・・そうだね。でもね紫音、お父さんは仕事を辞めるつもりはないよ』
『なんで?』
『お父さんの事をね。信じている人達がいるんだ。だからその信じている人達の為に、今の仕事を続けようと思っているんだ』
『う~~~ん・・・・・・シオンわかんない』
『いずれわかるさ。ほら、しょうが焼きが出来たぞ』
『わぁ~い』
テーブルに並べた料理に いただきます! と言ってから楽しそうに食べ始める僕とお父さん。その父親の顔を見て、あ! と言って気付いた。
ああそっか、僕はお父さんと同じ立場にいるんだ。なのに僕は、天野さんやリトアさんが何とかしてくれると心の何処かで思って頼っててもいたんだ。
お父さんはあんなに怪我しても、元気そうにしているのに。なのに僕は・・・・・・。
「・・・・・・ん、んん?」
布団を被って寝落ちしてしまったせいか、少し息苦しく感じてしまう。
今何時だろう?
布団から出てスマホを確認して見ると、朝の3時だったのでビックリしてしまった。そう、昨日の夕方5時から朝の3時までずっと眠り続けていたのだ。
「えっ! そんなに長く寝てたの?」
うわぁ、スマホのバッテリーが5%しかないから、早く充電しないと!
充電器を差し込んでバッテリーを充電させると、新たな問題が出て来た。それはお腹から、クゥ~~っと音が鳴り響いて来た。
あ、そういえば夕食を食べ損ねちゃったんだった。どうしよう、リビングに行けばカップラーメンとかレトルトカレーがあると思うんだけど、全部天野さんも物だから勝手に食べるのも問題ありそうだし・・・・・・。
しかし身体は正直なものなので、またクゥ~~~・・・・・・っと鳴り出すのだった。
「ウゥ~~~・・・・・・お腹空いたぁ~」
眠って忘れてしまおう。と思い付いたので、再びベッドに潜り込み目蓋を閉じるが、脳裏に夢で見た光景を思い返してしまう。
お父さんは、あんなに怪我をしているのに平気そうにしていた。なのに僕は、情けない姿で泣いているなんて、お父さんが見ていたら、何て言うのだろうか。
「・・・・・・もう少しだけ、頑張ってみよう」
その後すぐに寝息を立てるのであった。
同時刻、2人の中年の男が居酒屋で飲んでいるが、丸みを帯びた男の方はカウンターに突っ伏していて、隣りにいた背の高い痩せた体型の男が身体を揺すって起こそうとする。
「しゃちょぉ~、飲み過ぎですよぉ~・・・・・・もお夜遅いんですからぁ、帰りましょうよぉ~」
ガバッと顔を上げて揺すっていた男の顔を真っ赤な顔で見つめるが、顔が真っ赤になっているのが酔っているのかせいなのか、それとも怒っているせいでそうなっているのかはわからない。
「ウルセェ! 飲んでねぇとやってらんねぇよぉ~・・・・・・俺のフェアレディZおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ・・・・・・・・・・・・」
何故この男が泣いているのかというと、お昼過ぎ辺りに彼自慢の愛車である 日産 フェアレディZ NISMO を道路の脇に車を停めていたのだが、帰って来ると何とフロントガラスが粉々の穴だらけになっていて、レッカー車に担ぎ込まれようとしていたのだ。
その光景を見た、見崎 中也 はその場で失神してしまった。因みにそのレッカー車で運ぼうとしている車が、見崎の物だと説明したのが現在隣りにいる 田嶋 浩介 (部長)である。
「650万もしたんだぞぉ~・・・・・・それが、グスッ!」
「そうっすねぇ~、災難っすねぇ~。あのときに近くの駐車場に入れてればよかったっすねぇ~。あ、すいません。ねぎまの塩を2本ください!」
「はいよ!」
店員はキレのある声で返事をすると、ねぎまを焼き始める。
「おい、こっちはビール追加だ!」
見崎がそう言うと、店主はカウンター越しに睨み付けた。
「お客さん、飲み過ぎですよ。もう10杯目超えてるじゃないですか。そろそろその辺にした方が・・・・・・」
「ウルセェ! アンタまでそう言うのかよ!」
「う~ん・・・・・・わかりました。どうなっても知りませんからね。ビール追加で!」
見崎の剣幕に押された店員さんがそう言うと、奥から はぁ~い! と返事が聞こえて来た。
「そういえば、いったい誰が俺のフェアレディZをあんな目に合わせたんだぁ~?」
「さぁ~、誰っすかね? グシャグシャのメッタメタでしたからね、ひょっとしたら魔物がやったんじゃないんすかぁ」
「バカ言うんじゃねぇよ! ぜってぇ人がやったんだよっ!! クソォ~、こうなったらやったヤツを見つけ出して、俺がぶっ殺してやるっ!!」
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