雨宮課長に甘えたい

コハラ

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嵐のあと

《6》

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会場が暗くなり上映が始まる。
私も拓海さんも、客席に座って静かに映画を観た。

「フラワームーンの願い」を観るのは今日で二度目。
佐伯リカコから慰謝料として映画のフィルムを譲ってもらい、宣伝部にある設備を借りて一人で鑑賞した。

最初は拓海さんにプレゼントしようと思ってした事だったけど、作品を見て、これは世に出さなければいけない素晴らしい作品だと思った。

一人でも多くの人に映画を届けたい。
胸が熱くなる感動を届けたい。

そんな想いが溢れて、今回の事を企画した。

創立記念パーティーはお披露目の場として最高の場所だった。2000人の映画関係者の前で上映すれば話題になる事は想像できた。そうなれば注目され、映画館で上映される事になるかもしれない。一般のお客さんに届けられるかもしれない。

再び映画館で上映される所を拓海さんに見せたい。あなたの書いた作品はこんなに素晴らしいんだよ。みんなに愛されるべき作品なんだよっていう所を見せたい。

77分の物語が終わって、切ないピアノの曲をBGMにエンドロールが流れると、自然と拍手が湧いた。

拓海さんは眼鏡を取って、涙を拭うような仕草をしていた。
それから、私を見て、「ありがとう」と言ってくれた。その瞬間、この企画を立てて良かったと実感する。

歓談の時間になった時、望月先生と一緒だった日本映画界を代表する大御所の北山監督が声をかけてくれた。

「中島さん、一押しの映画良かったよ」

70歳になる北山監督はシルバーヘアが素敵で、穏やかな雰囲気を纏った紳士。カンヌ映画祭で最高の賞、パルムドールを受賞しているのに、偉そうにした感じもなく、謙虚な方だ。

実は望月先生に「フラワームーンの願い」を教えたのは北山監督だった。その事を望月先生から教えてもらい、望月先生にお願いして会わせてもらった。

そして、北山監督に「フラワームーンの願い」を知った切っ掛けを聞くと、驚いた事に拓海さんの事を知っていた。北山監督は拓海さんのお父さんだ。

「先日はありがとうございました。北山監督に誉めて頂けて光栄です」
「まさか、あの映画を今日観られるとは思わなかった。望月くんから僕の見たかった映画を観たって言われた時は悔しくてね」
「じゃあ、監督は今日、初めてご覧に?」
「実はそうなんだ。いい作品だったよ」

北山監督に喜んでもらえて良かった。

パーティーに北山監督が来るのがわかっていたのもあって、拓海さんの作品を上映したかったんだよね。

「あの、雨宮さんに直接、感想を伝えてはどうですか?」
「いや、いいよ。彼、忙しそうだし」

北山監督が照れくさそうな笑みを浮かべる。
その表情が拓海さんに似ていて、離れて暮らしていても親子だと感じる。

「ちょっと、待ってて下さい。連れて来ますから。望月先生、北山監督が逃げないように捕まえてて下さい」
「任せろ。しっかり見張ってる」

望月先生に北山監督を頼んで、拓海さんの方に走った。
拓海さんに監督の言葉を聞かせたい。お父さんに会わせてあげたい。
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