雨宮課長に甘えたい

コハラ

文字の大きさ
上 下
153 / 179
心中未遂?

《10》

しおりを挟む
拓海さんと一緒に台所に立って調理した。

鯖の味噌煮を拓海さんは作ってくれるようだった。

まな板の上に鯖の切り身を置くと、包丁で拓海さんが鯖に切り込みを入れ始める。

「皮に井の字型に切り込みを入れる事で煮汁がしみやすくなって、皮が縮んで身が崩れるのを防げるんだよ」

包丁を動かしながら拓海さんが教えてくれた。

「そう言う効果があったんですか。なんとなくお母さんが鯖に切り込みを入れていたのは覚えているんですけど、意味があった事だとは思いませんでした」

クスッと拓海さんが笑う。

「奈々ちゃんは食べる専門だったんだな」
「はい。これから覚えようと思います。拓海さん、教えてくれますか?」
「もちろん。奈々ちゃんもやってみる?」
「はい」

まだ切り込みを入れていない鯖の切り身を任された。
拓海さんから包丁を受け取って慎重に切り込みを入れようとするけど、皮が弾力があって拓海さんみたくサッと切れない。

「奈々ちゃん、包丁はこうやって動かすといいよ」

拓海さんの手が包丁の柄を握る私の手を握ると、優しく誘導してくれる。
大きな手に包まれた瞬間、昨夜のベッドでの拓海さんを思い出した。

私に触れる拓海さんの手は丁寧でとても優しかった。
優しい声で、たくさん「好き」も言ってくれて……。

思い出しただけでドキドキしちゃう。

「奈々ちゃん、聞いてる?」
「えっ」

気づくと鯖の処理は終わっていて、鍋に調味料を入れる所だった。

「あっ、はい。お醤油とお砂糖ですね。ただいま」
「いや、調味料はもういれたよ。落し蓋ある?」
「落し蓋?」

ピンと来なくて首を傾げたら、拓海さんがぷっと笑う。

「アルミホイルでもいいよ」
「それならあります」

拓海さんがアルミホイルで作った即席の落し蓋を鯖の上に直接かけるように置いて煮込んだ。その状態を実家で見た事がある。これが落し蓋か。

「落し蓋を使うと煮汁が蒸発するのを防げるし、煮物に味が均等にしみるんだよ。煮物を作る時は落し蓋は必須だよ」
「なるほど。落し蓋は必須なんですね。覚えておきます」

首を上げて拓海さんを見ると眼鏡越しの目と合う。
拓君さんは何か言いたそうな表情。

「ところで奈々ちゃん、調味料入れている時、何考えていたの? ニヤニヤしていたけど」

表情に出ていたの! 恥ずかしい!
ベッドでの拓海さんを思い浮かべていたなんて、とても言えない。

「もしかしてエッチな事?」
「ち、違います」
「奈々ちゃん、ウソつく時耳が赤くなるんだよな」

思わず耳たぶに触れると、「やっぱりエッチな事を考えていたんだ」と拓海さんが笑う。

「拓海さんの意地悪! 引っかけたの!」
「うん。引っかけた」

拓海さんがぎゅって私を抱きしめる。

「僕の恋人はコロコロと表情が変わって本当に可愛い人だ」

額に拓海さんの唇が押し当てられて、胸がキュンとする。
私、物凄く幸せだ。

また顔がにやけそうになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪魔に祈るとき

ユユ
恋愛
婚約者が豹変したのはある女生徒との 出会いによるものなのは明らかだった。 婚姻式間際に婚約は破棄され、 私は離れの塔に監禁された。 そこで待っていたのは屈辱の日々だった。 その日々の中に小さな光を見つけたつもりで いたけど、それも砕け散った。 身も心も疲れ果ててしまった。 だけど守るべきものができた。 生きて守れないなら死んで守ろう。 そして私は自ら命を絶った。 だけど真っ黒な闇の中で意識が戻った。 ここは地獄?心を無にして待っていた。 突然地面が裂けてそこから悪魔が現れた。 漆黒の鱗に覆われた肌、 体の形は人間のようだが筋肉質で巨体だ。 爪は長く鋭い。舌は長く蛇のように割れていた。 鉛の様な瞳で 瞳孔は何かの赤い紋が 浮かび上がっている。 銀のツノが二つ生えていて黒い翼を持っていた。 ソレは誰かの願いで私を甦らせるという。 戻りたくなかったのに 生き地獄だった過去に舞い戻った。 * 作り話です * 死んだ主人公の時間を巻き戻される話 * R18は少し

聖女ですが運命の相手は魔王のようです

臣桜
恋愛
ランディシア王国の第二王女アリシアは、十八歳になり聖女の役目を前聖女から継承しようとしていた。だが儀式の最中、彼女を三百年待ったという吸血鬼の魔王バルキスが姿を現した。 「約束」通りアリシアを迎えに来たバルキスだが、氷の聖女の容赦のない攻撃で灰になる!何度でも灰になる! めげない魔王とクーデレ聖女のラブコメ短編、ゆるっとお楽しみください。 ※ 数年前に書いたものを軽く直した程度ですので、あまりクオリティには期待しないでください。 ※ 表紙はニジジャーニーで作製、自分でロゴをつけました。

世界最高のパティシエ〜罪深き男の奮闘物語〜

茄子の皮
ファンタジー
両親が亡くなり、村から旅立つ12歳の少年キャンディ。ユニークスキル【パティシエ】を活かし街で活躍する。冒険者だった父の憧れもあり、冒険者ギルドへ登録し、依頼をこなすがキャンディが作るジャムなどのスイーツが評判となり商人となる。スイーツの女神から世界中へキャンディのスイーツを広げなさいと使命を受け世界を旅をする。田舎少年の店が貴族の御用達店舗となり、権力と獣人の王族を仲間に引き入れ人間界だけでなく、亜人界、魔界、精霊界の問題を解決しながら旅をする物語です。 現在-村→トルマ街で店舗経営→ダンジョンマスター仲間になる→

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

〜Addicted to U〜 キスまでの距離

嘉多山瑞菜
BL
 仕事も恋愛も思う通りに出来る・・・山本亮は、自分の人生をそんな風に思う傲慢な男だ。  なんでも欲しいままにすることができる自信家の亮は、ある日、恋人の健志から束の間の別れを告げられる。  仕事でニューヨークに10ヶ月行くと言う健志から、自分が放って置かれることに我慢が出来ない亮は「お遊び以上、本気未満」の別の相手との恋人ごっこの許可を得る。  うきうきしながら選んだ相手は健志と真逆の冴えない伊東桂。  健志との約束通り、愛情抜き、心は自由の関係を桂と始めた亮。 だが桂を知り、桂との関係を深めていく中で亮は「ドライでライトな関係」に自分が振り回されはじめる。  自分で決めたルールが枷となり、縛られどんどん身動きが取れなくなって・・・。  いつしか亮はキスを禁じられた桂の唇を恋焦がれていくようになるが、桂と健志、二人の男の間で亮の思惑はどんどん狂っていく。  桂のキスにたどり着けるのか・・・亮は今までにない感情の嵐に飲み込まれていく・・・。 ———————————————————- ※この物語は「〜Marigold〜 恋人ごっこはキスを禁じて」の攻めsideの物語です。 Marigoldの説明などは特に入れておりませんので、先に「〜Marigold〜 恋人ごっこはキスを禁じて」をお読み頂くことをお勧めします。 クズな男がただうだうだ身勝手な想いを呟いているだけの物語ですm(_ _)m 各章、 「〜Marigold〜 恋人ごっこはキスを禁じて」との対比する場面が多く分かりにくいですが、対比させながら読んでお楽しみ頂ければ嬉しいです。 —————————————————— ※ご都合主義のフワッとした設定です。 ※R18は予告なく入ります。 ※稚拙なので一章に対する話数が少ない上、各話、文字数バラバラです。 ※完結まで、数話ずつ、不定期で更新します。 —————————————————— 3月21日(日) 11:20追記 〜Addicted to U〜 キスまでの距離 にたくさんのコメントありがとうございました! 返信をしていませんが、全て読ませて頂きました。心から感謝申し上げます。 やっぱりハッピーエンドは必要!!ですよね。ちゃんと書いてありました(*^^*) 読み直していないし遂行していませんが、最後少しでもキュンキュンして頂けますと嬉しいです。 【First Epilogue】3月21日(日) 20時、21時、22時に全6話一気にUP致します。 なんて事のないお話しですが、お楽しみ頂ければと思います。 よろしくお願いします。 嘉多山 瑞菜    

おれのツガイ

青空ばらみ
恋愛
ラメール王国の王太子ライアンは数少ない竜人族。そして王族の血を受け継ぐ王太子。人族が大半のたった三国しかないこの大陸からツガイを見つけだすことが、王太子最優先事項だった。チャンスがあると、隣の国ピアンタ王国やセルバ王国まで冒険者のフリをして探してみてはいるが、なかなかツガイは見つからない…… そんなとき隣の国ピアンタ王国から珍しい薬草『キノコの女王』が手に入ったと密かにラメール王国が支配下に置く薬種商から連絡がくる。向かった先で思いがけず側近ガントリーの知り合い、パールという九歳の女の子を馬車に乗せラメール王国まで帰ることに。一目見た瞬間からパールがどうも気になるが……ツガイか? しかし、父王から聞かされていた、ドキッとして心臓を持っていかれたようなそんな強烈な感じではない…… 違う? イヤ、でも気になる…… やはりツガイなのか? これは、どっちなんだーっ?! ♢♢♢♢ 迷い人と当たり人〜伝説の国の魔道具で気ままに快適冒険者ライフを目指します〜 (ハイファンタジー) 完結済(全221話)のお話。今回はライアン王太子が主役です。ツガイを探すお話しになるので、ハイファンタジーではなく(恋愛)にしました。だいたい105話ぐらいから131話、第三章にいくまでの出会いのお話しです。『迷い人と当たり人〜』をみてくださった方は、逆の立場でもう一度。そうでない方たちにも、そのまま気楽に読んでいただけるゆる〜いご都合ファンタジーです。 23話完結ですから、よろしければお読みください!  

離婚の勧め

岡暁舟
恋愛
思いがけない展開に?

クソザコ乳首くんの出張アクメ

BL
おさわりOK♡の家事代行サービスで働くようになった、ベロキス大好きむっつりヤンキー系ツン男子のクソザコ乳首くんが、出張先のどすけべおぢさんの家で乳首穴開き体操着でセクハラ責めされ、とことんクソザコアクメさせられる話。他腋嗅ぎ、マイクロビキニなど。フィクションとしてライトにお楽しみください。 ネタの一部はお友達からご提供いただきました。ありがとうございました! pixiv/ムーンライトノベルズにも同作品を投稿しています。 なにかありましたら(web拍手)  http://bit.ly/38kXFb0 Twitter垢・拍手返信はこちらから https://twitter.com/show1write

処理中です...