雨宮課長に甘えたい

雨宮課長のマンション

《4》

雨宮課長は言った通り、15分で親子丼を作ってくれた。目の前に置かれた半熟卵トロトロの親子丼が黄金色に輝いていた。一緒に添えられたお豆腐とワカメのお味噌汁もカツオ出汁の匂いがして美味しそう。

こんなにちゃんとしたご飯を食べたのは昨日のお昼に社食で食べたとんかつ定食以来。ゆっくり食事をする時間もなく、飲料型のゼリーで済ませていた。

「いただきます」
「どうぞ召し上がれ」

隣にはネクタイを外したワイシャツ姿の課長がいる。
課長も夕飯がまだだったから、一緒に親子丼を食べた。

「美味しい―！」

口に含んだ鶏肉の柔らかさにびっくりした。
それに少し甘口のタレが絶品。お醤油とお酒とみりんと、お砂糖のバランスが私の味覚にぴったり。

お母さんが作る親子丼よりも美味しい。
まさか課長の料理がお母さんを越えるとは思わなかった。

「課長、この親子丼、ヤバすぎです。もう悦えつ過ぎます！」
「中島さん、大げさだな」
「だってこんなに美味しい親子丼食べた事ありませんから」
「ありがとう。料理を作ってこんなに褒められたのは初めてだ」
「そうなんですか」
「まあ、そんなに作ってあげる事もないけどね」

佐伯リカコが浮かぶ。
なぜか彼女が課長の料理を食べている所が浮かんでしまう。

「中島さん、熱かった？」

佐伯リカコの事を考えていたら課長が心配そうな顔をした。

彼女との関係を聞きたいけど、聞く覚悟がない。

「もう、課長、大丈夫ですって。私、そこまで猫舌じゃないですから」

課長に心配をかけちゃいけないと思い、笑顔を作った。