推しの速水さん

コハラ

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6話 おまけ 【Side 橋本卓也】

《2》

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「人に話せば自分でも気づかなかった事に気づく事もあるぞ」

文人が俺を見て瞬きをする。

「卓也にしてはいい事を言う」
「俺はいつもいい事しか言わない。で、何を悩んでいるんだ?」

文人がネクタイを緩め、ガシガシと頭をかく。
俺に打ち明けていいのかまだ迷っているようだ。

こういう時はアルコールを勧めるに限る。

「マスター、ウィスキーロックで二つ」

俺と文人の前にウィスキーが置かれた。

「とりあえず、あやちゃん、乾杯」

グラスを掲げると、文人も渋々乾杯をする。
チビチビとウィスキーを飲みながら、ぽつり、ぽつりと文人は話しだした。

文人の話をまとめると、新しいレーベルで書いてもらいたい作家がいて、その作家は文人に対して、物凄い警戒心を抱いているよう。まずは打ち解ける所から始めようと思い、試写会と夕食に誘ったらしい。しかし、そこで思いがけない事を打ち明けられて、自分でも驚く程、動揺しているらしい。

「思いがけない事って、好きとか言われたのか?」

文人が昔、女性の新人作家にナイフを向けられた事件を思い出し、嫌な予感がした。

「好きって意味になるのかな。『推し』だって言われた」
「推し?」
「うん。推しだって。そんな風に言われたのが初めてだから戸惑う。しかも、彼女、めちゃくちゃキラキラした瞳で俺を褒めるんだよ。あんなに全肯定されたの初めてで。こちらは新しいレーベルで書いて欲しくて、彼女に近づいたけど、なんか、そういう下心で近づいた事が急に申し訳なくなって」

はあっと、また文人がため息をつく。

「思い返してみると、彼女に初めて会った時から、少しずつ何かが心に入って来たんだよな。仕事の話をしていたら、いきなり目の前で気を失うし、意識を取り戻したと思ったら好きだって言われてびっくりだよ。で、次に会った時には全く恋愛感情はないって言われるし、嫌われているのかと思ったら、そうでもないようで……それで、推しって言われて驚いた。とにかく、今まで出会った事のないような子で、目が離せないというか、気になるというか」

また文人が切なそうにため息をつき、ウィスキーを口にする。

本人は自覚していないようだが、かなり好きって事じゃないのか? 明らかにあの時の女性作家とは違う。文人はこんな風に悩んだりしていなかった。
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