推しの速水さん

コハラ

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6話 速水さんの気持ち

《19》

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ケンカ別れしたままだったから、いくちゃんが家に来ているとは思わなかった。

「いくちゃん!」
「おっす!」

目が合うと、いくちゃんが照れくさそうに手を挙げる。

「おかえり。芳くんとスマブラしながらずっと美樹を待ってたんだよ」

お兄ちゃんとスマブラやってたんだ。いくちゃん格闘ゲーム強いんだよね。

「今日も私の勝ちだったよ」

いくちゃんがピースする。

「いくちゃん、次はストⅡで勝負しよう」

お兄ちゃんが悔しそうな表情を浮かべる。

「昔のゲームだろうと私の勝ちだと思うけどな」
「いや、ストⅡだったら絶対に負けない」
「芳くん、そんなに悔しいの?」
「別に悔しくないけどさ」
「お兄ちゃん、悔しいって顔に書いてあるよ」
「本当だ」

いくちゃんがクスクス笑う。
いくちゃんと普通にやり取りが出来てほっとする。

「で、速水さんとどうだった?」

お兄ちゃんの前で速水さんの名前を出されて気まずい。お兄ちゃんには速水さんの事を話していない。お母さんにも口止めしてあるのに。

「速水さんって誰だ?」
「集学館の人よ」

お兄ちゃんの質問に答えるように奥からお母さんの声が聞こえる。

「集学館って出版社か? なんで美樹がそんな人と付き合いがあるんだ」

ヤバっ。ネットで小説を書いている事がお兄ちゃんにバレる。

「いくちゃん、私の部屋に行こう」

いくちゃんの手を引っ張って、玄関脇の階段を上った。

「美樹! 説明しろ!」

お兄ちゃんの声が追いかけてくる。
ひゃー。お兄ちゃんにバレたら絶対に面倒くさい事になる。

お兄ちゃんを無視して、いくちゃんと自分の部屋に逃げ込んだ。
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