推しの速水さん

コハラ

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5話 速水さんとバーベーキュー。

《15》

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まさかのお誘いに何と答えたらいいかわからない。

「えーと、あの」
「楽しい所に連れて行ってあげるよ」

速水さんがいれば十分楽しい所なのですが……。

ちらっと速水さんの方を見るとまだお友達と談笑している。きっと久しぶりに会ったんだろうな。大人になると中々お友達とは会えないだろうし、邪魔しちゃいけないな。

「卯月ちゃん、行こうよ」
「冗談ですよね?」
「本気だよ」

タクヤ君がニコッと口角を上げる。
うわっ、芸能人の笑顔、キラキラしている。

「ねえ、行こうよ。卯月ちゃん」

甘えるような表情を向けられて、本気でどうしようかと思う。
返事に困って周りを見るとゆりさんと目が合った。

「卯月ちゃん、お皿運ぶの手伝ってくれる?」
「はい」

すっと席を立ち、ゆりさんの方に駆けていく。
助かった。もう少しでどこかに連れて行かれる所だった。
ゆりさんと一緒にお家の中に入ると、ゆりさんが心配そうに私を見る。

「もしかして、卓也にどこかに行こうって言われていた?」
「はい」
「ごめんね。あの子、新しい女の子と出会うと、まず口説くのよ」

ゆりさんがため息をついた。

まず口説くって、挨拶みたい。

さっき速水さんがタクヤ君の事を手が早いと言っていたのは、そういう意味だったのか。うん。納得。

「女の子を口説く事があの子にとってゲーム感覚なのよね。本当にごめんね」
「いえ」

男性に口説かれた事がないから、ある意味、光栄だけど、すぐに捨てられそう。きっと一夜限りの関係ってやつで終わるんだろうな。私、そこまでタクヤ君のファンじゃないから、そういうのは嫌だな。

でも、速水さんとだったら一夜限りでも……。

ぽわんっとベッドで速水さんとそういう事をしている光景が浮かび、顔中が熱くなる。

うわっ、この妄想はダメ。

速水さんはそんな事をするキャラじゃない。

消さなきゃ。消えろ!

「卯月ちゃん、聞いてる?」

一人、妄想にあたふたしているとゆりさんの声がした。

「あ、はい」
「お皿とグラスを出してくれる? 私は使ったお皿を片付けるから」

ゆりさんに言われて、食器棚からお皿を取り出す。

ゆりさんはキッチンに行き、使った食器を食洗器に入れ始めた。

「卯月ちゃん」
「はい」
「うちの図書館に週一ぐらいで来てるわよね? 私、卯月ちゃんの姿をよく見かけるのよ。いつも自動貸出機で借りていくでしょ?」

心臓が飛び出そうになった。

ガッシャーン! 

動揺のあまり取り出したお皿を落してしまった。
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