推しの速水さん

コハラ

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5話 速水さんとバーベーキュー。

《8》

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控えめな音量でかかるカーステレオからはラジオが流れている。洋楽をメインにしている番組で、今は明るい曲調のロックっぽい音楽がかかっている。緊張でいっぱいだった気持ちも、音楽を聴いていたら何とか解れた。

窓の外には青空と海が広がっていて、見ているだけでウキウキする。

これから向かう作家さんの別荘は海の近くにあるそうで、今年の夏も車を走らせて遊びに来たという事を速水さんは教えてくれた。

速水さんのプライベートな情報を聞けて嬉しい。
それから、速水さんはこの一ヶ月、仕事で忙しく、休みが取れたのが久しぶりだと言った。

今日が速水さんの休日だと聞いてハッとした。

「貴重なお休みに私なんかと会っていいんですか?」

つい聞いてしまった。

「もちろん」と言って、速水さんが笑い、言葉を続ける。
「こちらこそ今日は急な誘いにもかかわらず、こんな遠くまでお越し頂き、ありがとうございます。帰りは車でご自宅まで送りますから」
「いえいえ。申し訳ないです。電車で帰りますからお構いなく」

速水さんの大事なお休みを私で消費するのは恐れ多いにも程がある。

「遠慮しないで下さい。送っていきますよ。ドライブ好きなんで」
「いいです。遠いですから」
「卯月先生、やはり僕が苦手ですか? 僕といると疲れます?」

えっ……。

「いえ、そんな事は」

答えに詰まってあたふたしていると、ぷっと速水さんが笑った。

「そんなに必死にならないで下さい。今のは冗談ですから。卯月先生はいつも一生懸命ですよね。この間も僕のお皿からボロネーゼ取っている時、なんか必死で可愛かったな」

ひゃー。可愛かったって私の事?
恥ずかしい。

「えーと、その節は失礼しました」
「いえいえ。ご一緒出来て楽しかったです。そうそう、バームクーヘン美味しかったですよ。ご馳走ですとお母様にお伝えください。それからこの間は電話だけで失礼しましたともお伝えください」

電話って何の事?
お母さんから何も聞いてないんだけど。
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