推しの速水さん

コハラ

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3話 推しの為にできる事

《6》

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お母さんが頷いた。

「電車で偶然、美樹に会ったって速水さんから聞いたわよ。それで、美樹が熱を出して大変だったんだって。電車では帰れないと判断して、速水さん、わざわざタクシーで送って下さったのよ。迷惑かけちゃったわね。あ、タクシーのお金はちゃんとこっちで払ったからね」

お母さんの説明を聞いて、電車の中でスマホを拾ってくれた人が速水さんだった事を思い出した。

夢だと思っていたけど、夢じゃなかった。

推しの速水さんにご迷惑をかけてしまった……。

「くぅーー―」

声にならない声が出る。

布団にもぐって、手足をバタバタさせると、「落ち着きなさい」とお母さんに言われる。

落ち着ける訳がない。

だって、だって、せっかく速水さんにタクシーで送ってもらったのに、何も覚えてないんだもの。

一生の不覚。

速水さんに自宅までタクシーで送ってもらうなんて幸運、宝くじで一億円当たるぐらい稀な事なのに。

きっと今日で一生分の運を使った。

もうこんな幸運な出来事は二度と起きないだろう。

運を使い切った私は一晩では熱が下がらず三日間も寝込んだ。大学もバイトもお休みで、『今日ドキ』の更新もできず、ベッドの中でひたすら寝ているしかなかった。

ベッドの中で考える事は速水さんの事ばかり。

速水さんが送ってくれた時の事を何度もお母さんに聞いた。インターホンが鳴って、モニター画面に映っているのが国宝級のイケメンだったから、お母さんは腰を抜かしそうになったらしい。

速水さんはお母さんにも名刺を渡して、丁寧に挨拶をしてくれたよう。やっぱり速水さんは素敵な人だと思った。

「風邪が治ったらちゃんと速水さんにお礼するのよ。菓子折りはお母さんが高級店の物を用意してあげるから」

菓子折りと聞いて、風邪が治ったら集学館にご挨拶に伺おうと思った。

「お母さんも一緒にご挨拶に行こうかしら」
「絶対にやめて」

お母さん同伴で集学館に行くのは恥ずかし過ぎる。
それにお母さんがいたら速水さんを独占できない。

早く治して速水さんにお礼に行かなければ。そう思いながら、ふと、私の風邪が速水さんにうつっている可能性に気づいた。もしかして今頃、速水さんも寝込んでいたりして……。

そう思ったら、心配で堪らなくなった。

速水さんにメールを出そうか?
迷惑になるかな? タクシーで送って頂いたお礼のメールなら送っていいかな?
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