推しの速水さん

コハラ

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3話 推しの為にできる事

《1》

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速水さんが毎週木曜日、図書館に通っていたのはゆりさんに会う為だって、何となくわかっていたけど、まさか速水さんとゆりさんが道路で抱き合う関係だったなんて。

速水さんの片思いじゃなかったんだ……。

ゆりさん、結婚していて、お子さんもいるのに。
速水さん、いけないと思いながらも不倫の恋にはまってしまったの?

私に丁寧な対応をしてくれた速水さんが不倫だなんて……。速水さんはそんな事をするキャラじゃないよ。

でも、昨夜見たものは……。

マンション前で強く抱き合う速水さんとゆりさんを思い出して、胸が痛くなる。

2人の事が気になって、一睡も出来なかった。
パジャマのままリビングに行くと、お母さんが朝のワイドショーを見ていた。

「美樹ー! 大変よ! タクヤ君が、タクヤ君が」

目が合うとお母さんがこの世の終わりみたいな表情を浮かべる。

タクヤ君とはお母さんの推しの俳優。

タクヤ君の顔や雰囲気が速水さんに少し似ているから、私も興味があった。

「タクヤ君がどうしたの? 結婚でもした?」
「結婚だったらまだ良かったんだけど、不倫だって」

不倫……。
なんてタイムリーなワード。

「女優の北沢麗華と不倫だって。道端でタクヤ君と北沢麗華が抱き合ってキスしている写真を撮られちゃったみたいで」

……道端で抱き合ってキス。

速水さんとゆりさんはキスまではしていなかったけど、キスしそうな勢いだった。あのまま見ていたら二人はぶちゅっと熱いキスを交わしていたんだろうか。

想像しただけでズキッと胸が痛くなる。

「北沢麗華って、半年前に結婚したばかりだよね?」
「そうよ。アパレルメーカーの社長と結婚したのよ。豪華な結婚式で話題にもなって。最近は新婚さんキャラでテレビに出ていたのに酷いでしょ。北沢麗華がいけないのに、新婚の北沢麗華に手を出したとかで、タクヤ君の方が責められているのよ。今日の午後、タクヤ君、謝罪会見だって。どうしよう。タクヤ君、芸能界、引退とかって言わないよね?」
「そんなの知らないよ」
「お母さんの生きがいなのよ。タクヤ君のいない生活なんて無理よ」

うっ。お母さんの気持ちが痛い程わかる。推しは生活に潤いを与えてくれる存在。速水さんと出会ってから毎日が楽しくなった。

でも、私の推し活はもうやめなきゃいけない。それが速水さんの為だと決断したけど、昨夜の事が気になって仕方ない。
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