謎謎姫の非日常的日常

やるふ

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最後のページを教えて

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『まだ起きていらっしゃったんですか』

とある夜、フィリリアが寝室のベッドで1冊の本を読み終えたくらいに、スカーレットが入って来た。

『あら、スカーレット丁度良かったわ。
城の書物部屋で見つけたこの本、なかなか面白かったわよ。
アナタも読んでみたら?』

そう言ったフィリリアは、古びてタイトルもかすれて読めない表紙の本をスカーレットへと差し出す。

『いえ、結構です。
私、読者は苦手なもので』

『そう…残念ね』

スカーレットの言葉にフィリリアは、本を羽毛布団の上に置いて手元の灯りを消した。

『しかし、フィリリア様が面白かったと仰るなら内容は気になります。
大まかで結構ですので、もし宜しければ少しだけお聞かせ願えませんか?』

窓から差し込む月光が布団の上にある本だけを闇に浮かばせている。

フィリリアは横になり枕に頭を添えると瞼を閉じて、一呼吸おいた後ゆっくりと話し始めた。

『これは、遠い未来の…いや、この世界ではないどこかの国の物語…』

その透明な声に聞き入るようにスカーレットは月光の先の古書へと目をやった。

『その国は平和で豊かだったけど、増え続ける人口が問題になっていたの。

このままでは、やがて食糧や資源は枯渇して国は衰退し争いが起こってしまう…。

そこで政府はある対策を打ち出したわ。
それは、国民の半分を特殊な装置で数十年間眠らせる「魔法のユリカゴ計画」と呼ばれるもので、数十年ごとに交代で国民の半分が休眠することにより、食糧問題や資源問題は劇的に解決へと向かうことになったの。
しかも、そのユリカゴが魔法と呼ばれるのには理由があってね、眠ってる間は自分が好きな夢を見続けることができるの。

つまり、ユリカゴで眠れば自分が望む世界で望むように過ごせるってわけ。
現実世界には辛いことや苦しいことが沢山…でもユリカゴで眠っていれば…。

しだいに多くの人々がユリカゴに入ることを求めだし、やがてその数は半分を超えて国民の七割にも達したわ』

微かに瞼を開けたフィリリアは、側に立っているスカーレットの輪郭を見つめた。
ボンヤリと朧気で今にも闇に消えてしまいそうな月光が縁取る輪郭を。

『でも、一人の青年がそれに異を唱えて立ち上がったの。

青年は、魔法のユリカゴ計画というものは、政府と一部の特権階級の者たちが国民を管理しやすくする為の陰謀だったことを暴いたわ。

それからは怒涛の展開ね。

迫りくる秘密警察との戦い、仲間との出会い、裏切り、自分を庇って散った恋人…管理された偽りの幸福を打ち砕く為に青年は無我夢中で走ったわ…。

そして遂に、青年の声は人々の目を覚ました。

魔法のユリカゴ計画の崩壊と共に新政府が立ち、街には人々の歓声と祝福の鐘が鳴り響く…。

小高い丘の上でそれを耳にしながら、地平線の彼方から昇る眩い朝日に目を細めながら青年は思ったわ。

やっとで真の夜明けを迎えられた…!

でもね…実は、それら全てが魔法のユリカゴで眠っている青年の夢だった━━…ってのが、この本の最後のページよ』

フィリリアの話が終わり、部屋には沈黙が立ち込めた。

『なかなか、ありきたりと云えばありきたりな最後でしたね。
さあ、もう遅いですから眠りますよ』

スカーレットは布団から本を手に取り、扉の方へと振り返る。

『ねぇ、スカーレット』

眠たそうな、か細い声でフィリリアに呼ばれたスカーレットは、動きを止めた。

『私やアナタは、真実なのかしら?
ここが、誰かが書いた創作の世界だとしたら?誰かが見ている夢の中だったとしたら…?暇をもて余す…悪魔の戯れ言だったと…したら…?
そうではないと…言える確証なんて…何一つ…ないじゃない…』

フィリリアは、とてつもない睡魔に瞼を抑えられ、もう背を向けているスカーレットの輪郭すら映すことができない。

『そんなことは、姫様の年頃なら皆が考えてしまうことですよ。
でも…もし、この先に最後のページとやらがあるとしても、私には答えられませんよ。所詮、私は…』

フィリリアが眠りに堕ちる間際、暗闇の中に溶かされたスカーレットの声だけが漂う。


『所詮、私はただの…夢、ですから…』




~完~















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