上 下
13 / 36

三日目の夜※

しおりを挟む
 レストランのすぐそばに建つ重厚な佇まいのホテルは、王都でも歴史が古い。
 貴賓や高位貴族たちがよく利用し、重要な会談が行われることもある。
 レストランを出てマリウスに手を引かれ、そんな趣のあるホテルに二人で足を踏み入れた。
 いいのだろうか、でも後戻りはできないと頭の中でグルグルと考えている。マリウスは私の手を引きながら一言も話さず、けれど繋ぐ手の熱さはこれから起こることを私に実感させた。
 

「……っ」

 重たい扉を開けて中に入るとすぐ、扉とマリウスに挟まれ深い口付けを受ける。
 触れるだけだった口付けは柔らかさを確かめるように唇を食み、熱い吐息と共にぬらりと舌で舐め上げられる。その舌に自ら舌で触れると、獲物を絡め取るような貪るような口付けに変わった。ぐちゅぐちゅと水音を立て舌を絡め合い、吸い上げられる。
 着る暇もなく手にしていた互いのコートは床に放り出され、マリウスが早急な手つきで私の大きく開いたドレスの背中から手を差し込み、肩から脱がせた。深く口付けながら手伝うように袖から腕を抜き取り、マリウスの肩からジャケットを落とす。
 ばさりと床にジャケットの落ちる音と、お互いの焦るような浅い呼吸が部屋に響く。
 抱き上げられ、マリウスにしがみ付きながら口付けをして、部屋奥のベッドへと運ばれた。

 ベッドに優しく下ろされて、マリウスが離れた。
 私を見下ろしながらタイに手をかけ引き抜くその仕草は、決してふにゃりとした笑顔のマリウスではない。
 ギラギラと欲情を浮かべたその強い光は男性として強く私を求めているのだと、そのことに身体が熱を帯びていく。

 自らドレスを足元から抜いてアンダードレス一枚になった私を目を逸らさずじっと見つめ、マリウスは自分のシャツを素早く脱ぎ、私の足からそっと靴を脱がせた。

「……従者のようなことはしなくていいのよ」
「貴女にだけです、アメリア」

 そう言ってベッドの下に跪き足を持ち上げて甲に口付けを落とす。
 アンダードレスの裾から掌を這わせるように脚を撫で上げ、太腿のガーターベルトを指でなぞった。その刺激にびくりと身体が揺れ、顔が熱くなる。
 
 ――何をしようとしているのか分かっているのかと、頭の片隅にいる冷静な私がじっと観察している。

 何年かぶりに出て来た王都で、偶然出会った若者とちょっとした火遊び?
 自分のことを好きだと言ってくれて真に受けてる?
 伯爵子息と本当にどうにかなると思っているの?

「……っ、ん」

 ゆっくりと壊れ物を扱うように薄い絹の靴下を脱がされ、素肌の足に口付けを落とされる。もう片方の脚も持ち上げ靴下を脱がそうとしているのを見つめ、上半身を起こしてベッドの下に跪いているマリウスの髪をくしゃりと撫でた。
 マリウスが私を見上げこてんと首を傾げる。
 こんな状況でもマーロウを思い出し、思わずふふっと笑みをこぼすとマリウスがむうっと唇を尖らせた。
 
「なんだか余裕ですね?」
「そういう訳じゃ……」

 マリウスがベッドに手を突き身を乗り出すと、ぎしりと音を立てた。
 両手を私の身体の横について逃げられないように囲まれているようだ。
 熱い掌が私の頤を掴み唇が触れる。柔らかく食む様に何度も何度も角度を変えて、ベッドに乗り上げたマリウスは私の腰を持ち上げベッドの奥へと移動する。
 ゆっくりと身体がベッドに沈むと、マリウスの熱い掌が身体の線をなぞるように身体を這った。くちゅくちゅと水音を立て舌を絡ませながら、掌が与えてくる刺激に身体が反応する。

「んぅ……、ん、あっ」

 アンダードレスの上から大きな掌で胸を持ち上げるように寄せられ、甘い声が漏れた。大きく円を描くように捏ねられながら、マリウスの唇が顎へ、首筋へと降りていく。
 首筋をねっとりと熱く舌が這うのを、気持ちがよくて大きく息を吐いた。

「アメリア、気持ちいいですか?」
「ん……」

 首筋を舐め唇を這わせながら熱い吐息を吐いてマリウスが問う。
 気持ちがいいに決まってる。
 返事の代わりにマリウスの頭を抱え込む様にぎゅっと抱き締めた。
 マリウスの唇がゆっくり熱心に首筋を這い、鎖骨のくぼみを舌でなぞり胸元へと降りていく。
 いつの間にかアンダードレスを腰まで下ろされ薄い下着姿になった私を、身体を起こしたマリウスが私の上に跨りじっと見下ろした。その眼がギラギラと強く光っている。

「あ、あまり見ないで」
「それは無理です」

 胸を隠すように両手を交差させて自分の肩を抱き寄せると、すぐに手首を掴まれシーツに縫い留められた。

「こんな薄い下着しかつけていないなんて、無防備じゃありませんか?」
「これはそういうものだし……」
「こんな風に」
「あっ」

 マリウスの手が肌着のレースの上から胸の頂を掠めた。敏感になった肌が粟立つ。

「誰かに触れられたらどうするんです」
「誰も触らないわ!」
「でも今、に触られて声が出てる」

 くるくると頂の周囲をなぞるようにマリウスの指先が動き、身体が反応して腰が震えた。

「ツンと立ち上がってレースを押し上げてる。かわいい」
「や、やめてマリウス」
「どうして? 気持ちよくなってもらいたいだけですよ……俺の手で気持ちよくなって、アメリア」
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私はあなたの何番目ですか?

ましろ
恋愛
医療魔法士ルシアの恋人セシリオは王女の専属護衛騎士。王女はひと月後には隣国の王子のもとへ嫁ぐ。無事輿入れが終わったら結婚しようと約束していた。 しかし、隣国の情勢不安が騒がれだした。不安に怯える王女は、セシリオに1年だけ一緒に来てほしいと懇願した。 基本ご都合主義。R15は保険です。

夏休みの自由研究は監禁したクラスメイト観察

海林檎
BL
夏休み、兄貴がクラスで人気のAを自宅の離に監禁した。 それが俺の自由研究になった。

ぐうたら姫は、ただいま獣の陛下と婚約中

和島逆
恋愛
「いいからお前はとっとと嫁に行け!」 体力なし、やる気なし、根性なし。 小国の姫君リリアーナは、自他ともに認める怠け者。人呼んでお昼寝大好きな『ぐうたら姫』。 毎日怠惰に過ごしたいのに、兄王から縁談を命じられて国を出ることに。 海を越えて向かうは獣人の国ランダール。 初めて対面した婚約者は、なんと立派なたてがみと鋭い牙を持つ獅子の王だった。 他の獣人達が人族と変わらぬ見た目を持つ中で、なぜか彼だけは頑なに獣の姿を貫いていて――? 美形なのに変わり者揃いな獣人達と交流したり、伝承の存在である精霊と出会ったり。 前向き怠惰なぐうたら姫と、生真面目で恥ずかしがり屋な獣の陛下。 賑やかな仲間達に見守られ、正反対な二人が織りなす一年間の物語。

どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら

風見ゆうみ
恋愛
「もう、無理です!」 伯爵令嬢である私、アンナ・ディストリーは屋根裏部屋で叫びました。 男の子がほしかったのに生まれたのが私だったという理由で家族から嫌われていた私は、密かに好きな人だった伯爵令息であるエイン様の元に嫁いだその日に、エイン様と実の姉のミルーナに殺されてしまいます。 それからはなぜか、殺されては子どもの頃に巻き戻るを繰り返し、今回で11回目の人生です。 何をやっても同じ結末なら抗うことはやめて、開き直って生きていきましょう。 そう考えた私は、姉の機嫌を損ねないように目立たずに生きていくことをやめ、学園生活を楽しむことに。 学期末のテストで1位になったことで、姉の怒りを買ってしまい、なんと婚約を解消させられることに! これで死なずにすむのでは!? ウキウキしていた私の前に元婚約者のエイン様が現れ―― あなたへの愛情なんてとっくに消え去っているんですが?

【完結】王甥殿下の幼な妻

花鶏
ファンタジー
 領地経営の傾いた公爵家と、援助を申し出た王弟家。領地の権利移譲を円滑に進めるため、王弟の長男マティアスは公爵令嬢リリアと結婚させられた。しかしマティアスにはまだ独身でいたい理由があってーーー  生真面目不器用なマティアスと、ちょっと変わり者のリリアの歳の差結婚譚。  なんちゃって西洋風ファンタジー。  ※ 小説家になろうでも掲載してます。

壁の花令嬢の最高の結婚

晴 菜葉
恋愛
 壁の花とは、舞踏会で誰にも声を掛けてもらえず壁に立っている適齢期の女性を示す。  社交デビューして五年、一向に声を掛けられないヴィンセント伯爵の実妹であるアメリアは、兄ハリー・レノワーズの悪友であるブランシェット子爵エデュアルト・パウエルの心ない言葉に傷ついていた。  ある日、アメリアに縁談話がくる。相手は三十歳上の財産家で、妻に暴力を働いてこれまでに三回離縁を繰り返していると噂の男だった。  アメリアは自棄になって家出を決行する。  行く当てもなく彷徨いていると、たまたま賭博場に行く途中のエデュアルトに出会した。  そんなとき、彼が暴漢に襲われてしまう。  助けたアメリアは、背中に消えない傷を負ってしまった。  乙女に一生の傷を背負わせてしまったエデュアルトは、心底反省しているようだ。 「俺が出来ることなら何だってする」  そこでアメリアは考える。  暴力を振るう亭主より、女にだらしない放蕩者の方がずっとマシ。 「では、私と契約結婚してください」 R18には※をしています。    

婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。

なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。 そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。 そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。 彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。 それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。

【R18】聖女召喚に巻き込まれた地味子で社畜な私に、イケメンエリート魔導師の溺愛が降ってきました

弓はあと
恋愛
巻き込まれ召喚されて放っておかれそうになった私を救ってくれたのは、筆頭魔導師のルゼド・ベルダー様。 エリート魔導師でメガネも似合う超イケメン、聖女召喚に巻き込まれた地味子で社畜な私とは次元の違う別世界の人。 ……だと思っていました。 ※ヒロインは喪女のせいか鈍感です。 ※予告無しでR18シーンが入ります(本編で挿入行為はありません、濃厚な愛撫のみ。余力があったら本番行為のおまけ話を投稿します)。短い話です、8話で完結予定。 ※過去に前半部分が似た内容の現代物小説を投稿していますが、こちらは異世界ファンタジーならではの展開・結末となっております。 ※2024年5月25日の近況ボードもご確認ください。 ※まだはっきりと決まっていませんが後日こちらの話を削除し、全年齢版に改稿して別サイトで投稿するかもしれません。 ※設定ゆるめ、ご都合主義です。

処理中です...