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まっすぐに伝えすぎ※

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 離れに到着すると、ルーカス様は控えていた騎士に記者の話をし、拘束して騎士団に連行するよう指示をした。マントで包まれたままの私は何となく落ち着かない気持ちでじっと足元に視線を落とす。
 恥ずかしいわ、どうしてマントにくるまれているのかと思われているかしら。

「ダフネ、こっちへ」
「は、はい」
 
 ルーカス様に手を引かれて部屋へ案内される。

「ここは空いているらしい。使わせてもらおう」
 
 室内に入ると、明かりはすでに灯されている。
 高級な調度品で揃えられた部屋の中央に配置されたソファに腰を下ろし、隣に座ったルーカス様に背中を向ける。ドレスのホックを留めてもらわないといけないのだ。

 肩からするりとマントを落とされ、びくっと身体が揺れてしまった。
 恥ずかしい。ものすごく意識しているのが伝わってしまう。
 だって、でも仕方ないのよ。初めて、口付けをしてしまったんだもの! しかもあんな、凄く、全然思っていたのと違う口付けを!

「……ダフネ」
「は、はいぃっ!?」

 突然背後から耳元で名前を呼ばれておかしな声が出てしまったわ! やめて、どうしてそんな低い声で耳元で囁くの!
 背後で何となくクツクツと笑う気配がして、揶揄われているのだと分かり顔が熱くなる。

「服を」

 背後から回ってきたその手にドレスのホルター部分を渡す。
 そっと優しく首元にホルター部分を当て、後ろの小さなホックを留めようと、ルーカス様の手袋をしていない指先が肌を掠めた。
 
「……っ」

 触れる指先に熱が集中してしまう。先ほどまでの行為が鮮やかによみがえり、とてもじゃないけれどルーカス様の顔を見ることなんてできない。

「……今日は、髪を結い上げているのだな」

 ぽつりとルーカス様が言葉を零した。

「え?」
「以前、ドレスを作りに行ったときは半分だけ下ろしていた。あの時、その……髪に着けていた髪飾りに……俺の、プレゼントのリボンが」
「!」

 ルーカス様の色だと言ってこっそり付けていたリボンに気が付かれていた?

「あ、あの」
「あれは俺が、……初めて君に渡した、その、俺の色をしたものだ」
「え」
「年上の婚約者から突然意味深なものを貰うのは……気味悪がられるのではと、それでせめて、贈り物の箱のリボンだけでも、と……」

 ぎゅっと胸が苦しくなる、
 ルーカス様もずっと、私のことを窺っていたのかしら。どうしたら嫌われずに済むのかと、私たちはお互いに気を使いすぎて来たのかしら。

「私、嬉しかったんです……ただの青色じゃない、ルーカス様の色が。だから、贈り物についていたリボンだけど大切に取っておいて……使う機会がなくて、だから……」
「俺の色をしたものを贈ってもいいだろうか」

 低く落ち着いた声が背後からゆったりと掛けられる。
 冷たく硬いと感じていたその声は、今はとても心を落ち着かせる響きを持っているのだから不思議だ。

「はい。……ほしい、です。ルーカス様の色をしたものが」
「……そうか」

 ちゅ、と突然うなじに柔らかく熱いものが触れて、びくっと肩を震わせた。はあっと熱い息が吹きかけられて、身体の芯がびりびりと震える。
 私が抵抗するそぶりを見せないと分かってか、ルーカス様はそのまま唇をうなじに這わせ、ぬらりと舌で舐め上げた。慣れない刺激に自分でも聞いたことのない甘い声が小さく上がり、慌てて唇を噛む。
 胸の前でぎゅっと握りしめていた手は背後から伸びてきたルーカス様の手に押さえられ、指を絡めるように手を繋いだ。
 ちゅ、ちゅっと音を立て時折きつく吸われるそこをルーカス様の舌が宥めるように舐め上げる。
 見えない分、何をされているのかよく分からないまま、けれどその刺激は意味を持って私の身体を震わせた。

「……っ、ぁ、あっ」
「ダフネ……」

 うなじから順に降りていく唇は、やがて腰のくぼみまで辿り着き舌で丹念に舐め上げる。これまでとは違う刺激にびくびくと身体が震え、ソファにそのまま倒れ込んだ。繋いでいた手は解かれ、ルーカス様の大きな掌が宥めるように私の腹部を何度も撫であげる。コルセットを付けていない身体にルーカス様の掌の熱が直接伝わってくる。

「……コルセットをしていないなんて無防備だ」
「ぁ、あっ、る、かすっさま」

 腰や背中を舌と唇で嬲られながら、大きな掌がドレスのスカートの中に差し込まれた。足首から脹脛、腿裏とゆっくり時々揉みしだきながら上へ上へと上がってくる。
 絹の靴下を留めるガーターベルトを指先でなぞられ、せり上がってくるぞくぞくとした感覚に身を震わせた。
 いつの間にか捲し上げられたスカートは腰の部分に溜まり、ルーカス様の前でお尻を突きだすような格好でいることに急に羞恥が沸き上がってくる。

「あ、ルーカス様待って……っ!」

 制止する私の声など聞こえないかのように、ルーカス様は私のお尻に舌を這わせた。大きな掌が太ももを押さえ、背後から柔らかな部分を舌で、唇で弄るように嬲り吸い上げる。

「やだ……っ、恥ずかしいですルーカス様!」
「ダフネ」

 背後から身体を起こしたルーカス様が私に覆いかぶさり、恐らく真っ赤になっているであろう私の耳にちゅっと口付けを落とした。

「君の嫌がることはしたくない。だが……俺は今、今すぐ君を抱きたい」
「だ……っ!?」
「明日にでもすぐに婚姻を済ませたい」
「ルーカス様ったら!」

 さっきまで真っ赤になっていたルーカス様からは想像できないまっすぐな言葉を向けられているわ! 今まで一体何だったの?
 あの可愛いルーカス様はどこに行ったの!?

「ダフネ、俺はもう君に遠慮はしない。そんな事で君を失うなんて到底耐えられない」
「ルーカス様……」
「ダフネ……許可を。……お願いだ、俺に君を抱かせてほしい」

 ねえ、そんなお願いってあるかしら。
 ほぼドレスを脱がされ覆い被さられた状態で許しを請うなんて、そんなことある?
 でもそれでも私に触れている指先の熱や、微かに震える声が、そして熱を持った耳が、ルーカス様の緊張を私に伝えてくるのだ。

 (絆されてる……)

 好きな人にこんな事を言われて、それでも鋼の意思で突っぱねるような気概が私には、……ない。

 小さく小さく、あわよくば分からなければいいと思いながら頷いた私を、ルーカス様は背後から思い切り強く抱き締め、抱き上げた。

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