11 / 18
私の可愛いあなた
しおりを挟むその言葉にぎゅうっと胸が切なくなった。きっと私も顔が赤いのだろう。
でもそれでも構わない。
「す、好きじゃないなんて言って、ごめんなさい」
ルーカス様の身体がびくりと揺れた。
酷いことを、言ってしまった。
そうまで言わないと、優しいこの人が私から離れることはないと思ったから。
「私も、私も大好きですルーカス様。あなたが大好き」
両掌でルーカス様の顔を包んで、そっと触れる口付けを贈る。びくっとルーカス様の身体が大きく揺れるのも構わず、そのままその熱い唇に唇を重ねた。
やがて、空に浮いたまま固まっていたルーカス様の手が私の腰に、後頭部に回され、ぎゅうっと身体同士が隙間なくくっついた。
後頭部に回され髪の間に差し込まれた大きな掌が、私の髪をぎゅっと掴む。ルーカス様の首に腕を回して、必死にしがみ付いていると、大きく口を開けたルーカス様に激しく唇を吸われやわやわと食まれた。
苦しくて空気を求め口を開くとぬるりと分厚い舌が口内に差し込まれる。
驚いて身体を固くすると、私の舌に舌を擦り合わせちゅうっと扱くように吸い上げる。舌先同士を激しく擦り合わせていると、だんだんと身体が熱くなり息が上がる。
いつの間にか私の頭を支えていた手がするりと首に降りて、ホルター部分のホックをぷちりと外した。
「!? ま、まって、るーか、す」
「……ダフネ」
首元が緩み楽になって初めて、上衣がするりと脱げたのが分かった。
慌てて身体を離し胸を押し返そうとしても、大きな身体はビクともしない。見上げると先ほどまでとは違う赤い顔のルーカス様が、指先を咥えするりと手袋を取るところだった。
(やだ、なんだか……)
先ほどまでまるで大型犬のような風情だったルーカス様が、急に大人の色気を放っている気がする。
真っ赤になって瞳を潤ませていたかわいいルーカス様はどこに行ったの。
「このドレスは、俺がエスコートをする時に着て欲しいと頼んだはずだ」
手袋を脱いだ指が、私のホルターネックをするりと外すとチューブトップだけの姿になる。慌ててはらりと落ちてしまったドレスを胸の前に搔き集めると、ルーカス様が指の背でむき出しの腕をそっと撫でた。その刺激に身体が過剰に反応し肩が跳ねる。
「ノアと仕立てたって?」
ルーカス様の低い声が吹き込まれ、ゾクゾクと身体が痺れる。
「ごめんなさ……っ、んあっ」
「君にドレスを贈れるのは俺だけだ」
羽でくすぐるようにルーカス様の指が腕から首筋、耳朶を辿る。なんとか抵抗を試みようと、ぐいっとルーカス様の胸を押すけれど、やっぱり全く微動だにしない。
「でっ、でもあの、ララ様の着てたドレスだって、ルーカス様の色だったわ! だ、だから私」
「あんなのは俺の色ではない。全く違うだろう」
「えっ」
「あんなおかしな色ではない」
(えっとごめんなさい、そんなにこだわりが……?)
ちゅっと音を立てて耳に口付けをされ、思考が中断される。身体は意思とは関係なく過剰に反応してしまう。
「せっかくチュールでこの美しい背中を隠しても、男たちの視線は君にばかり向いていた」
「んっ、あっ」
「君は、君自身がどれだけ美しいか……人の注目を集めているのか、分かっていない」
背骨を辿り項へとゆっくり指が上ってくるその刺激に、思わず声が漏れ背中がしなった。
倒れそうになる私の身体を支え、マントで隠すように私に覆いかぶさるルーカス様。
その顔は、これまで出席した晩餐会や舞踏会では見たことのない、ギラギラとした強い眼差し。
「る、るーかす、さま」
「君の、この美しい背中に印を付けてもいいだろうか」
「し、しるし?」
「視線を向ける男たちに君の相手が誰なのか知らしめる必要がある」
「な、なにを……」
「……口付けを受けた?」
「うっ、受けていません! あれは頬だもの!」
「たとえどこであろうと許せない」
大きく口を開いたルーカス様に口を塞がれ、すぐに口内に舌を差し込まれた。
分厚い舌に舌を扱かれ、口内を弄られる。それは初めてのことなのに、食べられているみたいで気持ちがいい。
大きな熱い掌がむき出しになった背中を撫で、その刺激に身体の中心がゾクゾクと震える。
「ぁ、あ、るーかす、さま、まって」
人が来てしまったらどうしよう。
ふとそんな考えが頭を過り、慌ててルーカス様の胸を叩いた。
「無理だ」
「ぁ、あっ、だめですまって、誰か人が……」
その時ふと、視界の隅に黒い人影が見えた。すっかり暗くなった周囲に溶け込むように、黒い人影が動いている。
「ルーカス様、まって……」
「嫌だ」
やはり人がいる。姿勢を低くして、生垣に身を潜めている。けれど、こちらを見ているわけではないみたい。
「もうっ! ルーカス、さまっ」
「!?」
身体を捩り、私の首筋に唇を這わせていたルーカス様の口に両手を当てた。
「……っむ、むぐっ」
「しぃっ! ルーカス様、こっちに!」
驚いたルーカス様の腕を引っ張り、姿勢を低くしたまま私たちも生垣に身を隠す。
「だ、ダフネ?」
「しっ! 誰かいるわ」
「何?」
すっかり暗くなった庭で、私たちは近くにある灯篭の明かりを頼りに互いを見ていた。そこから離れた生垣に、黒い人影が見える。
「……あれは何をしているんだ?」
低い声でルーカス様がその人影をじっと見つめる。
「私たちを見ているのではないみたいです」
「誰かを追っているのか?」
「行ってみましょう」
「ダフネ!」
ルーカス様の袖を引っ張って立たせ、腰を低くして音を立てないように黒い人影を追う。
「ダフネ待ってくれ、せめてこれを」
慌てた様子で声を潜めたルーカス様にマントを着せられる。
「……ノア様だわ。それにもう一人は、エイヴェリー様」
姿勢を低くしながら何かを追っているような人影が窺う先に目を凝らすと、ゆったりと歩きながら二人の人影が姿を現した。
薄暗い場所でも分かる、美しいお二人。黒い人影は二人に見つからないようそっと後を追っているようだった。
あの二人の後を追って何をしようというのだろう。折角話す機会を得た二人の邪魔をするつもりなのかしら。
「……あの身なりでは招待客ではないな。ダフネ、君はもう戻れ。ここから先は俺が」
「駄目です、ノア様は大事なお友達だもの。あの人が何をしようとしているのか突き止めなくちゃ」
「友達……」
「ルーカス様」
難しい顔をしているルーカス様の手を取り、ぎゅっと握りしめる。ルーカス様の顔が薄暗い場所でも分かりやすく赤くなった。
「ノア様は私の大事なお友達なんです。お願いです、手伝ってください」
「手伝うって何を」
「詳しくは言えません。でも、お願いです」
ノア様のために、詳しくは言えないけれど。でもきっとルーカス様なら。
そう思ってその瞳をじっと見つめた。
87
お気に入りに追加
1,700
あなたにおすすめの小説
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
【完結】「お迎えに上がりました、お嬢様」
まほりろ
恋愛
私の名前はアリッサ・エーベルト、由緒ある侯爵家の長女で、第一王子の婚約者だ。
……と言えば聞こえがいいが、家では継母と腹違いの妹にいじめられ、父にはいないものとして扱われ、婚約者には腹違いの妹と浮気された。
挙げ句の果てに妹を虐めていた濡れ衣を着せられ、婚約を破棄され、身分を剥奪され、塔に幽閉され、現在軟禁(なんきん)生活の真っ最中。
私はきっと明日処刑される……。
死を覚悟した私の脳裏に浮かんだのは、幼い頃私に仕えていた執事見習いの男の子の顔だった。
※「幼馴染が王子様になって迎えに来てくれた」を推敲していたら、全く別の話になってしまいました。
勿体ないので、キャラクターの名前を変えて別作品として投稿します。
本作だけでもお楽しみいただけます。
※他サイトにも投稿してます。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて
木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。
前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)
腹黒王子は、食べ頃を待っている
月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
妻と夫と元妻と
キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では?
わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。
数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。
しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。
そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。
まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。
なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。
そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて………
相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。
不治の誤字脱字病患者の作品です。
作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。
性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。
小説家になろうさんでも投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる