9 / 15
9
しおりを挟むホテル内にあるイタリアンレストラン。
落ち着いた店内の窓側の席はパーテーションで遮断され他の人の目が気にならない。テーブルの上のキャンドルがゆらりと揺れて、テーブルの上に影を落とす。
カイさんの言うとおり、すごく美味しい白ワインにアンティパスト。
食べ物に釣られた訳じゃないけど、さっき感じたイライラが落ち着いて来た私は、目の前に座るものすごく上質なスーツを身に纏い綺麗に食事をするカイさんを鑑賞してる。…目の保養になるのは間違いない。
目の保養、目の保養。
言い聞かせながら私はグラスに口をつけた。
「カイさんの知ってる私ってなんですか?」
「ああ、そうだな…。佐藤もも、国立大学美術学部被服科四年、親元を離れ市内一人暮らし。スポーツジムでアルバイト中。食べるのも飲むのも好き。イタリアンと白ワインを特に好む。スニーカーや服が好き、特に紳士服に興味あり。ハイブランドのコレクション動画を漁るのが好き。体を動かすのが好きだが趣味は映画鑑賞と読書。映画はアクション系、本は推理小説を好む。弟が一人、高校生。最近彼女が出来た。両親の出身は……」
「ストップストップ、ストップーーー!」
思わず頭を抱える。
「待ってください、それ全部…」
「この三年でももが俺に話した内容だ」
「わっ、私おしゃべりですね…?」
「まだあるぞ」
「いえ、もう大丈夫デス…」
いくらなんでも心を許しすぎではないだろうか…私。
「で、ももは俺の何を知ってる?」
「え」
カイさんがグラスをゆらりと傾けながら私をまっすぐ見つめてくる。その表情は物憂げで、店内の薄暗い明かりがカイさんの美貌を際立たせているようだった。
「…名前、しか知りません」
そう、私は何も知らない。
いつもいつも私のことばかり話して、カイさんのことを聞いたことはない。
「そうだな。俺はいつもももに質問ばかりしてたし、自分のことを話したり…聞かれたことはない」
「…」
「別に特に隠し事とかはないんだが、ももは俺に興味ない?」
「え」
「俺は興味ある。もものことなら何でも」
カイさんが目を伏せグラスに触れる。長い指がグラスのステムを撫でる様をじっと目で追った。
「知りたいと思ってる。色んなこと」
ああ、心臓が破裂しそう。どうしてこんなにもこの人は素敵なのか。
「聞いちゃ、いけないと思って」
「何故?」
「だって、そんなの…」
あなたを知りたいなんて、言える訳ない。言ったら最後、私は絶対に後戻りできなくなる。
「もも」
俯いてグラスに視線を落とす私の手に、カイさんの手が重ねられた。その掌の熱が私に移ってくるみたい。
「何を気にしてる?」
21
お気に入りに追加
122
あなたにおすすめの小説
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
元遊び人の彼に狂わされた私の慎ましい人生計画
イセヤ レキ
恋愛
「先輩、私をダシに使わないで下さい」
「何のこと?俺は柚子ちゃんと話したかったから席を立ったんだよ?」
「‥‥あんな美人に言い寄られてるのに、勿体ない」
「こんなイイ男にアピールされてるのは、勿体なくないのか?」
「‥‥下(しも)が緩い男は、大嫌いです」
「やだなぁ、それって噂でしょ!」
「本当の話ではないとでも?」
「いや、去年まではホント♪」
「‥‥近づかないで下さい、ケダモノ」
☆☆☆
「気になってる程度なら、そのまま引き下がって下さい」
「じゃあ、好きだよ?」
「疑問系になる位の告白は要りません」
「好きだ!」
「疑問系じゃなくても要りません」
「どうしたら、信じてくれるの?」
「信じるも信じないもないんですけど‥‥そうですね、私の好きなところを400字詰め原稿用紙5枚に纏めて、1週間以内に提出したら信じます」
☆☆☆
そんな二人が織り成す物語
ギャグ(一部シリアス)/女主人公/現代/日常/ハッピーエンド/オフィスラブ/社会人/オンラインゲーム/ヤンデレ
若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~
雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」
夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。
そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。
全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
一夜限りのお相手は
栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月
森でオッサンに拾って貰いました。
来栖もよもよ&来栖もよりーぬ
恋愛
アパートの火事から逃げ出そうとして気がついたらパジャマで森にいた26歳のOLと、拾ってくれた40近く見える髭面のマッチョなオッサン(実は31歳)がラブラブするお話。ちと長めですが前後編で終わります。
ムーンライト、エブリスタにも掲載しております。
【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる
奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。
両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。
それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。
夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる