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しおりを挟む私とカイさんは同じ佐藤という姓で、はじめの頃は名前を呼ばれると同時に返事をしていた。
だからいつの間にかお互いを下の名前で呼ぶようになって、それが周囲にも浸透していった。
「いいなあ、もも。カイさんと仲良くて」
「ええ? 別に仲良くないよ」
カウンターに入り今日チェックした会員のトレーニング記録を取っていると、同じバイトのナオが声を掛けてきた。
「気に入られてるじゃん! もも、ももって」
「長く続けてるトレーナーが私しかいないからね」
「今日は社員もいるじゃん」
「あの人の指示、好きじゃないんじゃない? 知らんけど」
「あんたねえ…いいじゃん、あんな素敵な人中々いないよ? 見なよあの筋肉! あの脚の長さ! 顔もめっちゃいいじゃん! ハーフみたいでさ…クオーターかな? とにかくもう俳優みたいだよ…」
「人様のものには興味ないの」
「まじめか」
「あんたが軽いの」
ため息をついて横目で睨む。
「今日だってきっと迎えが来るよ」
「だからぁ、あの人絶対奥さんじゃないって」
「じゃあ恋人じゃない?」
「違う! 私の勘がそう言ってるんだから!」
「はいはい」
「素直になんなよ! もも!」
「はーい、はいはい」
カイさんは一人でふらっとジムに現れる。なんでもないTシャツやスウェットにデニムを履き、でもひとつひとつが上質でセンスがいい。
いいところで勤務している人なんだろうな。腕時計もいいものを身に着けていた。時計は全然詳しくないんだけど。
そんなカイさんを時折迎えに来る人がいるのだ。
すらりとした長身のモデルのようなその人は、カイさんが着替えを終えて出てくるのを入り口で待っている。そして高級そうな車にカイさんを乗せてその人が運転して帰るのだ。
え、これを妻または恋人と言わず何と呼ぶのだろう。愛人…? ちょっと私には分からない。
笑顔を見せ仲良さそうに二人で並んでいるのを見て、私は絶対にカイさんに余計な気持ちを持たないようにしようと心に決めたのだ。
鑑賞だけでいい。それだけ。
「ねえもも、本当に辞めちゃうの?」
「あ~うん、そうなの」
「ねえ、私よく分かんないんだけど、それって必ず就職できるの? やっぱ無理とか不採用になったらさ、また仕事探さなくちゃいけないんでしょ?」
「ねえ、何さらっと不吉なこと言うの…」
「ももいなくなったら淋しい…」
「ふふっ、ありがと。でも、ずっと働きたいと思ってた会社なの。がんばらなくちゃ」
私は大学の被服科に進み、被服学やデザインを学んできた。
そしてその中で一番好きなのは、ランジェリーのデザイン。選択必修科目にあった人体工学を学び、人の肌に直接触れる肌着、そしてランジェリーの繊細な造りに魅了された。
だって、繊細なレースやリボンも可愛らしいモチーフも、大人っぽいセクシーなデザインも、服に取り入れるには抵抗があるけど、下着は好きなものを身に付けられるという開放感があるから。もちろん機能性も大事。
人の目に触れさせる機会の少ないものだけれど(私は)、高い機能性やファッション性が求められる。私はこれが大好きなのだ。
四年ですでに大方単位を取得した私は、長期インターンシップに応募して、最近やっと採用された。有給制だし就職にも有利、採用直結型というのもある。
そしてインターン先が、私がどうしても就職したいランジェリーブランドなのだ。
ここを辞めるのは淋しい。でも、私の夢が叶えるための一歩。そのために進まなければならない、今は大事な場面なのだと思う。
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