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10.刻んで
しおりを挟む真っ赤になって叫ぶリリーシュを、ユージーンが突然抱きかかえた。
ずんずんと奥の部屋へ向かい二階へ上がる。日当たりのいいそこには既に家具がいくつか揃えられている。
台所を抜け奥の部屋の扉を開けると大きなベッドがひとつ置かれており、ユージーンは優しくリリーシュを降ろした。
「リリーシュ」
ベッドに横たえたリリーシュの赤い髪が白いシーツに広がる。新緑の瞳を潤ませ己を見上げてくる愛しい女の姿に、ユージーンの心は打ち震えた。
「リリーシュ、好きです。俺は貴女がずっと好きだった」
雨のあの日、見せしめのように道端で鞭打たれ、空腹で動くことが出来ず蹲っている自分を助けるために飛び出してきた、赤い髪の幼い女の子。
邪魔をされ腹を立てた奴隷商がリリーシュにも鞭を振るい怪我を負ったのに、それでも泣くこともなく強く睨みつけていた幼い女の子。
雨に濡れ泥だらけになろうと、怪我を負おうと、身を挺して自分を助けてくれたその姿は、強く高潔で美しかった。
まだ幼い女の子に、ユージーンはあの日、心奪われたのだ。
「私……私も好きよ、ユージーン」
「リリーシュ」
ポロリとリリーシュの瞳から零れた涙を追って、ユージーンが眦に口付けを落とした。
ちゅ、ちゅっといくつも口付けを顔中に降らせ、やがて柔らかな唇に辿り着く。
初めて重ねる愛しい女の唇は柔らかで甘く、唇で食むだけで溶けてしまいそうなほど熱い。柔らかく唇を合わせ、リリーシュも必死にユージーンの真似をするようにその唇を食んだ。
ぺろりとその唇を舐め、リリーシュの唇を割って舌を差し込む。びくりと身体を固くするリリーシュに、ユージーンは口端を上げる。
(あの男とは何もなかったか)
リリーシュの婚約者だという男は、確かにリリーシュを大切に思っていた。それは間違いないだろう。だからこそリリーシュからあの男の相談を受けた時、落ち込むリリーシュの様子に心が張り裂けそうだったのだ。
何があっても自分は絶対にリリーシュを泣かせない、辛い思いなどさせないと、どれほど言いたかったか。
しかしそれが、まさか自分の事で落ち込んでいたのだとは。
ユージーンは心の内で歓喜に震えた。
舌でリリーシュの口内を弄り、奥に引っ込んでいる小さな舌を絡め取る。舌先が触れると痺れるような感覚がリリーシュを襲った。
「ん、んぁっ、ぁ」
唇から漏れるリリーシュの小さな声までも飲み込む様に、ユージーンはリリーシュを貪った。唇から舌先、小さな歯のひとつひとつまで確かめるように舌を這わせる。
リリーシュの息が上がりくったりと身体の力が抜けたころ、やっと唇が離れユージーンはリリーシュの真っ赤になったその唇と口端からあふれた唾液を指で拭った。
「リリーシュ、少しだけ我慢してくれますか」
「……え、あ」
ぼんやりするリリーシュをユージーンはくるりとひっくり返し俯せにした。そして短くなった髪をかき上げ、リリーシュの項に口付けを落とす。リリーシュの身体がびくりと跳ねた。
「ここに……俺を刻んでもいいですか?」
そう言って、リリーシュの項を指でそっとなぞる。熱い指先がそこに触れただけで、びりびりとリリーシュの身体が震えた。
正直、そんな事を言われても良く分からない。今はただ、早くこの身体の奥からユージーンを欲する衝動を何とかしてほしい。
リリーシュは振り返り、そっと小さく首を縦に振った。上気した頬で小さく頷いたリリーシュを見て、ユージーンは顔を綻ばせた。
初めて見るユージーンの笑顔にリリーシュは目を見開いた。間近で見ようと身体を起こしたが、ユージーンがすぐにリリーシュに覆い被さりその項に唇を這わせた。
「あっ」
ユージーンの熱い唇が首筋を這い、熱い舌先がねっとりと舐め上げる。ただそれだけなのに、リリーシュの身体の奥が熱く疼く。何度も首筋を熱い舌が往復し、時々強く吸い上げ、そしてキツく、項に歯を立てた。
「……っ! ぁっ、いっ……!」
痛みに背中を仰け反らせるとユージーンの大きな手が背後から差し込まれ、リリーシュの柔らかな双丘を弄った。急に受けた刺激に、リリーシュは声を上げ身を捩るがユージーンの身体の下ではどうにもできない。
痛みと快感で頭が正常に働かないリリーシュは、シーツをきつく握りしめ、痛みの向こうにあるどうしようもない愛しさに胸を焦がした。
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