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6.日常と再会と
しおりを挟むリリーシュは毎日、午前に店を開き、昼食後にギルドへ立ち寄って依頼を受け取る。
仕事はリリーシュのためにギルドで先に仕分けされており、リリーシュはその中から仕事を選んでいるので危険は少ない。遠方へも採取に行きたいと思っているが、ギルド長から新米にはまだ早い、と日帰りで行ける場所しか回されない。
(早く一人前になれば、もう少し足を伸ばせるのに)
リリーシュは折角自由になったのだから色んな場所へ行きたかった。だが、全てギルド長やマリーアンに却下される。
(お世話になっているからあまり我儘も言えないけれど)
早く独り立ちして自由になりたいと思いながら、自分には縁のないギルドの掲示板に張り出された依頼を眺めた。
(私も冒険に出てみたいわ。色んな場所に行きたい。ランクを上げたら国を自由に行き来できる証書を貰えるって聞いたけど、私もいつか貰えるかしら)
「アンタもその依頼に興味あんの?」
ぼんやりと掲示板を眺めていると、背後から突然話しかけられた。驚いて振り返ると、背の高い金色の髪の男がリリーシュを見下ろしている。振り返ったリリーシュを見て少し目を見開いた男は、輝かんばかりの笑顔を見せた。
「驚いた、こんな場所でこんな美人に出会えるなんて。失礼、俺はカイ。君も冒険者?」
「いえ、私は……」
「おい、カイ! その娘に手を出すなよ!」
受付の向こうからギルド長が大きな声を上げた。これもいつもの事だ。リリーシュに声をかける者がいると、こうして誰かが必ず牽制する。
「え、何、アンタの娘?」
「違う! 俺はまだ若いんだよ!」
「別に取って食おうってんじゃないよ」
「お前は特に駄目だ! 近付くな!」
「何それ、どういう意味だよ」
リリーシュはふと、男の後ろに白く長い尻尾があることに気が付いた。
(この人も獣人なのね。本当に多いわ)
金髪に白く長い尻尾。なんの獣人だろうとじっと尻尾を見つめていると、カイと呼ばれた冒険者がその視線に気が付いた。
「珍しいの?」
「え、あ、違うわ! ごめんなさい、そうじゃなくて」
「嬉しいな、俺に興味ある? 君みたいなきれいな子なら何でも答えちゃうけど」
「カイ、いい加減にしろ!」
ギルド長が低い声で唸るように声を発した。近くにいた関係のない者たちが耳を伏せ、そっとその場を離れていく。だがカイは気にせず笑顔でギルド長を振り返った。
「この子は誰の匂いもしないじゃないか。だったらいいだろ」
「駄目だ」
突然横から伸びてきた腕がカイの首根っこを掴んだ。
リリーシュの目の前に出てきたその腕には、きれいな刺青が施されている。リリーシュは思わずその刺青に見入ってしまった。
「ぐ……っ! な、何をする!」
「殺されたくなければ去れ」
額に青筋を立てて首を掴む男を睨んだカイは、次の瞬間、男の顔を見て顔を青くした。
「なっ、なんでアンタがここに!」
「去れ」
「分かった! 分かったよ!」
カイが慌てて走り去っていくのを見送り、リリーシュは隣に立つ背の高い男に視線を向けた。
銀色の腰まである長い髪を下ろし、紫眼の宝石のような切れ長の瞳。美しい顔をしたその男。
「……ユージーン?」
久しぶりにその名を呼ぶと掠れた声が出た。
真っ黒なスーツではなく、冒険者の様な長い外套を纏い腰に剣を佩いているその姿は、間違いなくリリーシュのよく知る従者、ユージーンだ。
チリ、とユージーンの耳元にある赤いピアスが揺れた。
眉根を寄せたまま何も言わずリリーシュを見下ろしていたユージーンは、ため息をつくと低く身体を屈めリリーシュを肩に担いだ。
「……! き……っ」
悲鳴を飲み込んだリリーシュの脚をしっかりと抱えると、ユージーンはギルド長を睨んだ。ギルド長はやれやれと肩を竦め、カウンターから鍵の束をユージーンに投げる。チャリンと鍵を受け取る音が響き、リリーシュはそれが何なのか確認しようと肩の上で暴れた。
「ユージーン! 降ろして!」
「駄目です」
暴れるリリーシュを肩に担ぎギルドを後にするユージーンを、ギルド長はため息をついて見送った。
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