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会いたかったから

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 背中に触れるひんやりと冷たいシーツに小さく身体を震わせると、エドアルドが優しく頬を撫でた。

「寒い?」

 ふるふると首を振ると、エドアルドはふっと微笑みそのまま掌を頬から首、鎖骨を撫でわき腹をなぞるように這わせた。熱い掌が温めるように私の身体を撫でていく。
 私の脚の間に割り入ったエドアルドがぐいっと太腿の下に膝を入れると、脚が大きく開いた。慌てて閉じようとしてもエドアルドの手がそれを許さず、膝を押さえ外側へ押し開く。そして私の脚を持ち上げて、内腿に口付けを落とした。
 エドアルドは私へ視線を向けながら、絹の靴下を止めていたガーターベルトのリボンを口で咥え器用に解いた。そのエドアルドの色気に中てられて、頭がクラクラする。靴下の隙間に指を入れ、するすると脱がされ露わになった脚にまた口付けを落とし、今度はがぶりと強く嚙まれた。

「……っ! い……っ」
(痛いわ!)

 エドアルドは噛んだ部分を癒すかのように、ぺろりと舌で舐め上げた。

「い、痛いのは嫌です……!」
「ごめん、あんまり白くて柔らかいから、おいしそうだと思って」
(おいしそうって!)

 普段の柔らかな印象とは違う、ギラギラと瞳を輝かせ獲物を狙うような表情のエドアルド。その視線にゾクゾクと背中が痺れ、動けない。
 エドアルドは身体を倒し私の上に覆い被さると、少しだけ唇を触れ合わせ声を低く落として囁いた。

「――本当に、もう二度とどこにも行かないように食べてしまいたい」

 そうして大きく口を開けたエドアルドに、私は飲み込まれるような深い口付けを受けた。
 分厚い舌が口内を弄り、歯列や上顎までをも舐め上げる。逃がさないとばかりに舌を絡め取られ、じゅうっときつく吸われて息が苦しい。ただ口を開けていることしかできないほど激しく嬲られて、溢れる唾液が私の首を伝いシーツを濡らす頃、下腹部に硬いものが当たった。私の下腹部に擦りつけるように押し付けられ、前後にゆったりと動くそれが何か分かった瞬間、身体の中心に火が灯ったように熱くなる。
 口付けを受けながら身体が火照り、知らず腰を揺らし硬いものに擦りつけると、ぷっと唇を離しエドアルドが離れて行った。目を開けると、手の甲で口許をグイっと拭いながら私を見下ろすエドアルドと目が合う。

「これが欲しい?」

 私の両膝を押さえぐいっと腰を押し付けられて、硬いものが敏感な場所を刺激し声が上がった。エドアルドのトラウザーズはきつく立ち上がり、触れるそこは布越しだというのに熱く硬い。

「まだだよ。もう少し」

 エドアルドはそう言うと、私の胸からお腹をつっと指でなぞった。敏感になっている身体はそんな刺激にすら反応し、声が出てしまう。
 そのままエドアルドの長い指は私の腹部をなぞり、臍を辿って下へ下へとゆっくり下りて行った。

「ここも、ちゃんと解さないと駄目だからね」

 長い指は下着の縁をつうっとなぞり、脚の付け根をゆっくりと内側へ移動していく。その感覚に信じられないほど身体が震え、堪らず身を捩るともう片方の手が膝裏をやんわりと押さえた。
 そのまま長い指は、下着の隙間を侵入してくる。

「ああっ!」

 指があわいに浅く潜り込む、たったそれだけなのに信じられないほど身体がきゅうっと痙攣し、首を仰け反らせシーツを強く掴んだ。あわいにつぷりと指を沈め、ぐるりと浅いところを撫でられ、快感が私の身体を駆け巡る。
 はくはくと空気を求め喘ぎながら、エドアルドの強い眼差しが、ずっと私を見つめているのを感じた。それは、恥ずかしさに目を閉じていても皮膚に刺さるほど強い。
 大きなベッドの天蓋の下で身を捩り、聞いたことのない甘い自分の声に、どこか遠くで他人事のように感じる自分もいる。ぐちゅぐちゅと響く水音も、荒い呼吸も、全て夢の中の出来事のようで、段々頭がぼうっとしてくる。

 ――ふわりと、あの日の花が咲き乱れる温室で見た、薔薇の香りが蘇った。薔薇が大好きな親友が大切に育てている薔薇。冬だと言うのに見事に咲き誇るそれは、王太子ウィリアムが贈ったものだった。
 その温室で久しぶりに会う親友と、二人で密やかにお茶会を楽しんだ、ある昼下がり。
 王都に来て、何日目のことだっただろうか。

『今、王都でこんな下着が流行っているんだって』
『えっ』

 王都に来てすぐ、親友がお茶会に招待してくれた。久しぶりに会う親友と取り留めもない話で盛り上がり、いつまでも話が終わらない楽しい時間。
 そんな時、友人がオーダーメイドで作る下着の広告が載っているカタログを見せてくれた。

『ちょっと!? どっ、どこでこんなの見つけて来たの!?』
『ドレスを作りに行ったらね、そこのオーナーが教えてくれたんだけど、本当に人気らしいよ』

 親友は楽しそうにカタログをパラパラとめくり、ほら、と見せてくれた。
 絵とは言え、女性の下着姿が載っている頁に驚いて声が出ない。

『頼んでみたんだけど、すごく素敵だよ』
『た、頼んだの!?』
『だって着たいと思わない? それに、きっと喜んでくれると思うんだ』

 そう笑う親友は、私にもどうかと勧めて来た。

『どうする?』
『ど、どうって、こんな恥ずかしい格好出来ないわよ!』
『だからこそいいんだよ』
『だから……?』
『そう。だって、他の誰にもこんな姿は見せられないから。それを彼の色にしてみたいって、単純にドキドキしない?』

 次はいつ会えるか分からないんだけど。
 そう寂しそうに笑う親友の顔を見て、私は会えないことの寂しさを思い出した。
 私も、私だって、会いたくて会いたくて寂しさに悲しくなる日もあった。久しぶりに会えても、忙しさで中々時間が合わない私たち。
 ならせめて、少し、勇気を出してみてもいいかもしれない。
 それが特別な日ではなくても、自分の手で特別な日にしたらいい。

『そのお店、どこにあるの?』

 私たちは顔を寄せて、秘密を分け合った――。

「エドアルド様……」

 意識が浮上し、胸元に顔を寄せるエドアルドの頭をそっと抱えた。

「ルディ?」

 顔を上げ、私の顔を覗き込む青い瞳が揺れる。

「私……早く、ずっと一緒にいられたらいいなって」

 領地から王都まで、何日もかけて馬車に揺られ移動してきた。
 せっかく会えても、また領地に帰らなければならない。だって、私たちは婚約者でも何でもないのだ。
 王太子殿下の婚約者が決まれば、王都に滞在する理由もないし、負担を考えると社交シーズンをずっと王都で過ごすことはできない。

「せめて……せめて、特別な日を作りたかったんです」

 すぐ近くにある青い瞳を見つめ、私から触れるだけの口付けを贈る。
 エドアルドは大きな手で私の髪を梳き、頬を撫で、ちゅっと口付けを返してくれた。

「……会いたかったから」
「ルディ……」
「変じゃ、ないですか? 貴方の色を身に着けて」
「凄く美しいよ、ルドヴィカ。目が眩むほど美しい」
 
 エドアルドが優しく口付けを降らせる。顔中にいくつも降ってくる柔らかな口付け。

「ルドヴィカ……、ルドヴィカ」
 
 身体を重ね抱き合いながら口付けを交わし、エドアルドが熱い吐息を吐き何度も私の名前を呼ぶ。その声に応えるように私も何度もエドアルドの名前を呼んだ。

 唇がどんどん下へ降りて行き、ぐしょぐしょに濡れた下着をエドアルドが取り払った。濡れた肌が空気に触れ、ひんやりと冷たくなる。胸の谷間に口付けを落とし、お腹を舌でなぞって臍を舌先で突く。そのままゆっくりと下へ降りた唇は、私の脚の付け根を舌でなぞりそのまま脚の間に顔を埋めた。

「ああっ!」

 仰け反り悲鳴のような声を上げる自分を、もう抑えることは出来ない。
 ぬらりと熱い舌があわいを舐めあげる感覚に腰が浮く。決して強くはないけれど、私の脚を押さえるエドアルドの手に阻まれ逃場がなく、快感を逃すことができずにただ声を上げた。
 じゅるじゅると響く卑猥な水音が耳を侵し、羞恥で支配されていた心は、やがて快感に満たされていく。
 エドアルドの舌があわいの上に隠れていた芽を弾いた。
 これまでと違う刺激に大きく身体が跳ねる。
 どこよりも敏感なそこを、エドアルドは唇で食みちゅうっと吸い上げた。舌で強く押し、舌先で弾きながら、長い指をあわいに沈める。ぐぷり、と音を立てエドアルドの指を飲み込んだ私の中が、奥へ奥へと誘う様に大きくうねる。
 エドアルドの長い指がバラバラと動き中をかき混ぜ、舌が激しく私の敏感な芽を強く扱いて、ついに私の意識は真っ白な闇に弾け、散った。
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