小さな魔法の物語

かほなみり

文字の大きさ
上 下
20 / 27
第一章

アレクシオスの気がかり

しおりを挟む

(失敗したな)

 国王陛下への謁見を終え、王太子夫妻を交えた晩餐の席で歓談していると、ふとアレクシオスの思考が飛んだ。

(あんな高い場所に座らせては、降りることが難しいんじゃないかな)

 ものに紛れていたほうが擬態しやすいかとマントルピースの棚に座らせたが、身動きが取れなくなるのではないかと急に気になりだした。
 そう言えば食事も考えていなかった。紅茶を飲んでいたしお菓子も食べていたから、何か持ち帰ったらいいだろうか。

 馬車に乗ってから手の中で人形が動いたことに気がついたアレクシオスは、逸る気持ちを抑え王女宮から部屋に戻り、なんとか理由をつけて人払いをした。
 そうして話しかけた人形は、やはり小さな人だった。
 いや、人、なのだろうか。とっさに妖精などと呼んだが、妖精がこの世界に実在するなど聞いたことがないし信じてもいないが、小さな人だって聞いたことがない。

(魔物、でもない)

 そもそも何の禍々しさも持たない無害の魔物も、あれほど小さい魔物も、聞いたことがない。
 そして、それが一国の王女の持ち物として使用人たちにも認知されるとは考えにくい。
 では、人形だとして。
 ――傀儡だろうか。本で読んだことはあるが、自らの意思を持っているかのように動き、何者かに操られている様子もない。

(となると、やはり亡くなった母君の魔法か)

 他国の王女だったユーリエの母が、一人残していく娘のために用意した魔法かもしれない。だが、あれほど精巧な、ほぼ人のように人形を動かす魔法を亡くなった後も何年も残しておくなど聞いたことがない。ひとつだけ引っ掛かると言えば、腰に結ばれたリボンについていた高価な魔石だ。あれはかなり強大な魔力を持った人間が作ったもの。複雑に魔法陣が込められ折り重なっていたが、あまりの小ささにはっきりと読み取ることは出来ない。

(古代魔法、か)

 各国が血眼になって研究と解読を進める古代魔法。ユーリエの母がそれらを人知れず使った可能性も考えられる。
 遅々として進まない研究が人知れず使われているなど考えにくいが、そうとしか思えないほどあの妖精の存在は説明ができない。

(早く王女に会って話をしたいな)

 話してくれるかは分からない。
 だが、これから共に生きていくのだ。少しづつでも歩み寄れたら、自分を信じ信頼してくれるようになれば。
 アレクシオスは純粋に、この不思議な事象についてユーリエと話したいと思っていた。

「――だから、アレクシオスには合ってると思うよ」

 セオドリックの言葉にふっと我に返る。

「え?」
「ユーリエ王女ですわ」

 王太子妃サエラが穏やかに笑いながら隣に座るセオドリックに「ね」と首を傾げた。セオドリックは苦笑しながら王太子妃の言葉を受け続けた。

「ユーリエは魔法が好きらしいんだ」
「魔法が?」

 その言葉にアレクシオスが反応すると、サエラは穏やかに笑いながら果実水のグラスを傾けた。

「はい。今日も王城の図書室で偶然お会いしたのですけれど、手には古い魔法書を抱えていて。ユーリエ王女は学ぶことがとても好きな方なのです」
「そうですか。我が城の図書室も気に入ってくれるといいのですが」
「アレクシオスは昔から魔法書が好きだからな。今も集めているのか?」
「うん。特に古い書物なんかは見ているだけで飽きないからね。魔法陣を組み立てるのにとても役立つことが多いんだ」
「ははっ! 相変わらずだなあ」

 そう笑うセオドリックに、アレクシオスはひとつ頼みごとを思い出した。

「セオドリック、明日、王都の書店や図書館を見て回りたいと思っているんだけれどいいかな」

 アレクシオスの頼みにセオドリックは笑いながらひらひらと手を振り応える。

「好きにするといい。護衛を付けるから時間と場所を後で教えてくれ」
「いなくても大丈夫だよ」
「それは分かってる。外向きに必要なんだ」
「そうだね、分かった」

 セオドリックの素直な言葉に答えると、二人のそんなやり取りを見てサエラが笑った。

「ふふっ、仲がよろしくて羨ましいですわ」
「級友とはいくつになっても会えばあの当時の感覚で過ごせるんだ」

 セオドリックの言葉を受け、アレクシオスも頷いた。
 
「これからもっと国交を増やせたらいいね」
「そうだな。きっと、ユーリエが橋渡しとなるだろう」

 セオドリックはそう言うとグラスを高く掲げ、皆がそれに倣う。

「我々の未来に」
「未来に」

 アレクシオスは、妖精がまだ部屋にいるのか、消えたりなどしていないか、そればかりが気になっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

高貴な魔族に選ばれた新婦

日和
恋愛
平凡な高校生・愛乃は、両親から不当に扱われ、妹の美矢だけが愛されていた。大事なものを壊され、家族とのトラブルで愛乃は傷つく。絶望した愛乃は家を飛び出し、魔王の次期当主・ダルフェルトと出会う。見つけた愛乃のことを「俺の新婦」と告げたーー。

ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)

三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。 各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。 第?章は前知識不要。 基本的にエロエロ。 本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。 一旦中断!詳細は近況を!

悪役令嬢が王太子に掛けられた魅了の呪いを解いて、そのせいで幼児化した結果

下菊みこと
恋愛
愛する人のために頑張った結果、バブちゃんになったお話。 ご都合主義のハッピーエンドのSS。 アルファポリス様でも投稿しています。

【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで

あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。 連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。 ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。 IF(7話)は本編からの派生。

魔女のおやつ 〜もふもふな異世界で恋をしてお菓子を作る〜

石丸める
恋愛
女子高生の莉子はプリンを追いかけて川に転落し、異世界に転移してしまった。そこはすべてが巨大化した世界。巨大虫に襲撃され、巨大もふもふに翻弄されながら、リコはこの世界で一人暮らしを始める。自分を助けてくれた少年に恋をしたり、バイトをしてお菓子を作ったりとほんわか生活していたら、転移した美少女の体には秘密があるとわかって……「えっ? 私って奴隷なの!?」大ピンチの予感。 童話のような世界の、甘くてちょっぴり危険な恋物語。全三章完結です!

手乗り姫

ねこいかいち
絵本
それは、小さな小さな女の子の冒険のお話。小人族の女の子ニアが猫の友だちコニックと共に旅に出て色んな種族と触れ合う物語。

性転換カクテル

廣瀬純一
ファンタジー
性転換するカクテルの話

モブだった私、今日からヒロインです!

まぁ
恋愛
かもなく不可もない人生を歩んで二十八年。周りが次々と結婚していく中、彼氏いない歴が長い陽菜は焦って……はいなかった。 このまま人生静かに流れるならそれでもいいかな。 そう思っていた時、突然目の前に金髪碧眼のイケメン外国人アレンが…… アレンは陽菜を気に入り迫る。 だがイケメンなだけのアレンには金持ち、有名会社CEOなど、とんでもないセレブ様。まるで少女漫画のような付属品がいっぱいのアレン…… モブ人生街道まっしぐらな自分がどうして? ※モブ止まりの私がヒロインになる?の完全R指定付きの姉妹ものですが、単品で全然お召し上がりになれます。 ※印はR部分になります。

処理中です...