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(書籍化感謝SS)花が綻ぶように2
しおりを挟むレオニダスに連れてこられたそこは、趣のある瀟洒な建物の高級な宿だった。
お義母様が不在なのをお義兄様から聞いて、ここを手配していたみたい。さすがに誰もいないからと、バーデンシュタインの屋敷に泊まることはない。それはそう。高校生じゃないんだから。甘酸っぱいとかないから……
「宿を手配したことを伝えたら、カレンが緊張して楽しめないかと思ってな」
(わかってらっしゃる……!)
恥ずかしくて顔を手で押さえるように覆うと、レオニダスは笑いながらジャケットを脱ぎ、首元のタイを緩めソファの背に掛けた。
そんな自然な仕草に、ドキリと胸が鳴る。
なんだか二人きりでここにいるのが恥ずかしくて、部屋を見て回るふりをしてその場を離れた。
通された部屋は二部屋になっていて、居室には大きなソファとテーブル、街並みを見下ろすバルコニーに出られる大きな窓。そして奥に続く両開きの真っ白な扉を開けると、部屋の中央にはレースのカーテンが垂れ下がるロマンチックな天蓋付きの大きなベッドが置かれている。
(わ……)
それを見て、またドキリと胸が鳴る。分かっているけれど、これから何をするのか目の前につきつけられている気がして恥ずかしい。ぱっと視線を逸らすと、寝室からさらに奥へと続く扉が目についた。
(浴室かな)
金色のドアノブを回し扉を開けると、ふわりと甘い香りと湿気が私を包んだ。
「わあっ、お風呂だ!」
思わず声が漏れる。
そこは、寝室と同じくらいの広さがある立派な浴室だった。バルコニーと繋がっているらしい大きな窓、真っ白なタイルが張られた浴室はとても開放感がある。
そしてまん中に設置された大きな浴槽。すでにお湯が張られ花びらが浮かび、甘い香りが浴室内を満たしていた。
設置されたドレッサーの前には様々なアメニティが並び、大小さまざまなキャンドルには明かりが灯っている。
「気に入ったか?」
背後からレオニダスが私の腰に腕を回し抱き締めた。
「とっても! 凄い、大きなお風呂に入るのは久しぶりです!」
背後にいるレオニダスを振り返り、嬉しさにぎゅうっと抱き着いた。
ここ王都には、お湯が出る蛇口がない。
バルテンシュタッドは温泉が湧き出るので、お湯はいつでも使えるようになっていた。けれどここではお湯を沸かし運ばなければならない。浴槽に浸かるために使用人のみんなに重労働をしてもらうのが申し訳なくて、なるべくお風呂は簡単に済ませていた。
「腕力がギフトの者の仕事だ、湯を張らせるくらい遠慮しなくてもいいんだが、カレンは自分も一緒に働いていたから気が引けるのだろう。だがここは、ちゃんとそれを仕事にしている者が働く場所だ。対価も払っている。遠慮せず利用したらいい」
私を優しく腕の中に閉じ込めたレオニダスは、胸に顔を埋める私の頭頂部にちゅっとキスを落とした。
「ありがとうございます……」
「帰ると言われた時はどうしようかと思ったが」
「そ、それは……っ」
私の頭に顎を乗せて話すレオニダスに慌てて言い訳をしようとすると、頭上からクツクツと笑う声が降ってくる。
「俺に無理をさせたくないと思ったんだな」
「忙しいのにって、思って……」
「俺はそんなやわな体力ではないぞ」
レオニダスの手が優しく私の背中を撫でる。
ああ、この手に甘えたかった。
「そんな遠慮よりも、帰りたくないという言葉を聞きたかった」
「!」
抱き着くレオニダスの鼓動が聞こえる。シャツ一枚隔てていても、熱い体温が私を包む。その熱が侵食してくるように、私の身体も熱くなっていく。
「……今から言っても遅くない?」
「もちろんだ。……カレン」
レオニダスは少しだけ身体を離すと私の顎に手をかけ上を向かせた。見上げると碧い瞳が私を見下ろしている。
「今日はカレンと二人で過ごせて楽しかった。ありがとう」
その言葉に、じわりと嬉しさと愛おしさが身体中に広がる。きっと私今、すごく顔が赤い。
「わ、私も。すごく楽しかったです……、あのね」
優しく瞳を細めたレオニダスが私の頬をするりと撫でた。私の言葉を待つレオニダスを見上げて、こくりと喉を鳴らす。顔が熱い。
「……今日は、帰りたくない……」
レオニダスは、なんとか絞り出した私の言葉を聞いてぴたりと動きを止めた。
(あ、あれ?)
なんか変なこと言った?
「あの、レオ……」
すると、背中を撫でていたレオニダスの手が私の後頭部を押さえ、噛みつくようなキスをした。
「んうっ!」
大きく口を開いたレオニダスが食べるように私を飲み込んだ。じゅうっと唇を吸われ、下唇を食み歯を立てる。苦しくて空気を求め口を開くとぬるりと舌が入りこみ、私の舌を絡め取る。
「ん、ふうっ」
あっという間に唾液が零れ、私の喉を伝い胸元に落ちていく。
レオニダスの手が器用に私のワンピースを脱がせ、フレンチスリーブがするりと肩から落ちた。
「ぁっ、あ、待ってレオ……っ」
唇から離れ首筋に舌を這わせ、むき出しになった肩に歯を立て吸い付かれる。ぬるぬると這い回るレオニダスの舌が、どんどん下へと降りていく。
(だ、だめ……!)
「ま、待ってレオニダス!」
胸に唇を寄せたレオニダスの背中をポコンと叩いた。レオニダスが動きを止めて私を見上げる。私はすっかり熱くなった顔で、滲む視界にいるレオニダスに懇願するように叫んだ。
「お、お風呂に入りたい……!」
私の声は浴室の壁に大きく反響した。
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