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(書籍化感謝SS)花が綻ぶように1
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今日は、レオニダスと久しぶりのデート。
正式に婚約を発表してからというもの、私たちはそれはもう目まぐるしい日々を送っていた。お披露目を兼ねたバーデンシュタインの晩餐会に始まり、ザイラスブルクの晩餐会、王城への登城に挨拶、報告、主要貴族からの夜会のお誘い、婚約式やこれから必要になるものの手配や様々な書類の作成……。
とにかく頑張ったのだ。褒めてほしい!
そんなことをポロリと零すと、アルベルトさんがレオニダスに私を連れ出すよう進言してくれたらしい。なんて素敵なお義兄様。
まだアルベルトさんのことをお義兄様と呼ぶのは恥ずかしい!
そうして多分とても無理をして休みを取ったであろうレオニダスは、一日かけて私を王都の色々な場所へ連れて行ってくれた。
行ってみたかった美術館で絵を鑑賞し、博物館でこの世界の歴史遺物を見て、ステンドグラスが有名だという大聖堂を訪れ、整備された川沿いを歩き大道芸を見たり小さな出店を覗いたり。のんびりと街を歩いて、小さな花束を買い、エーリクへのお土産も買った。
可愛らしいカフェテラスで美味しいケーキをいただいて、レオニダスと取り留めなく会話をする。
(これって、すごくデートみたい!)
ライトグレーのジャケットをきっちりと着こなしサックスブルーのタイを締め、汗ひとつかかず涼しい顔をしているレオニダス。髪を後ろに流しその精悍な顔を私に向けて柔らかく微笑む姿に、周囲の女性たちはすっかり見惚れていた。誇らしいような、ちょっとだけモヤモヤするような……。
そうして王都を一日中見て回り夜は素敵なレストランで食事をして、すっかり辺りが暗くなった頃。
「カレン」
レオニダスが私の手を取り、二人で店を後にした。
(もう帰るのかな)
そっと横にいるレオニダスの顔を見上げる。せっかく会えたのに、あっという間に今日が過ぎてしまった。明日からまた、忙しい日々が始まる。
店を出ると空はすっかり暗く、星が瞬いている。日中の陽ざしで火照った身体を冷ますように、涼しい風が時折吹いて頬を撫でた。店の前に横付けされたザイラスブルクの紋章の馬車を見て、思わず足を止める。
(……終わっちゃう)
「カレン? どうした」
レオニダスが不思議そうに私の顔を覗き込む。
「あ、あのね」
(もう少し一緒にいたいって、言ったら迷惑かな)
今日のためにレオニダスはとても無理をしたと思う。きっと明日からまた忙しい日々を過ごすのだろう。
(駄目だ、忙しいのにこれ以上無理は言えない)
「……あの、今日はありがとうございました。すごく楽しかったです」
離れ難くなるからこれ以上はちょっと辛い。レオニダスの顔を見ないまま、足元に視線を落として今日のお礼を言う。
「早く帰らないと、テレーサさ……お義母様になんて言われるか」
「帰る?」
レオニダスから低い声が漏れた。その声に顔を上げると、レオニダスがじっと私を見つめている。いつもは碧い瞳が、この夜の闇では黒く見える。街灯が反射した瞳は、なんだか鋭い。
「えっと」
「帰りたい?」
「え」
レオニダスの手がするりと私の頬を撫でた。そのまま顎を捕らえ、親指が私の唇を撫でる。
その先に起こるであろうことを予感して、かあっと顔が熱くなった。
「で、でも、お義母様に帰るって約束してるでしょう?」
「していない。テレーサたちは今晩は不在だろう」
「え?」
確かに、今夜、お義母様はお義父様と出掛けて留守にしていて、帰りは明日になると言っていた。お義兄様も仕事で不在。
(今日家に誰もいないって、なんか……なんか甘酸っぱい!)
青春の一ページみたいな⁉
「え、でもじゃあ、お、お屋敷に……?」
「帰りたくない?」
「えっ! そ、そうじゃなくて、あの」
「カレン」
レオニダスは背中を屈めると、私の唇にちゅっとキスをした。そうして面白がるようにニヤリと笑う。
「俺は帰りたくないし、帰るつもりはない。カレンはどうしたい?」
すぐ目の前でそう低く囁くレオニダスの瞳に、黄金色が揺らめいた。
正式に婚約を発表してからというもの、私たちはそれはもう目まぐるしい日々を送っていた。お披露目を兼ねたバーデンシュタインの晩餐会に始まり、ザイラスブルクの晩餐会、王城への登城に挨拶、報告、主要貴族からの夜会のお誘い、婚約式やこれから必要になるものの手配や様々な書類の作成……。
とにかく頑張ったのだ。褒めてほしい!
そんなことをポロリと零すと、アルベルトさんがレオニダスに私を連れ出すよう進言してくれたらしい。なんて素敵なお義兄様。
まだアルベルトさんのことをお義兄様と呼ぶのは恥ずかしい!
そうして多分とても無理をして休みを取ったであろうレオニダスは、一日かけて私を王都の色々な場所へ連れて行ってくれた。
行ってみたかった美術館で絵を鑑賞し、博物館でこの世界の歴史遺物を見て、ステンドグラスが有名だという大聖堂を訪れ、整備された川沿いを歩き大道芸を見たり小さな出店を覗いたり。のんびりと街を歩いて、小さな花束を買い、エーリクへのお土産も買った。
可愛らしいカフェテラスで美味しいケーキをいただいて、レオニダスと取り留めなく会話をする。
(これって、すごくデートみたい!)
ライトグレーのジャケットをきっちりと着こなしサックスブルーのタイを締め、汗ひとつかかず涼しい顔をしているレオニダス。髪を後ろに流しその精悍な顔を私に向けて柔らかく微笑む姿に、周囲の女性たちはすっかり見惚れていた。誇らしいような、ちょっとだけモヤモヤするような……。
そうして王都を一日中見て回り夜は素敵なレストランで食事をして、すっかり辺りが暗くなった頃。
「カレン」
レオニダスが私の手を取り、二人で店を後にした。
(もう帰るのかな)
そっと横にいるレオニダスの顔を見上げる。せっかく会えたのに、あっという間に今日が過ぎてしまった。明日からまた、忙しい日々が始まる。
店を出ると空はすっかり暗く、星が瞬いている。日中の陽ざしで火照った身体を冷ますように、涼しい風が時折吹いて頬を撫でた。店の前に横付けされたザイラスブルクの紋章の馬車を見て、思わず足を止める。
(……終わっちゃう)
「カレン? どうした」
レオニダスが不思議そうに私の顔を覗き込む。
「あ、あのね」
(もう少し一緒にいたいって、言ったら迷惑かな)
今日のためにレオニダスはとても無理をしたと思う。きっと明日からまた忙しい日々を過ごすのだろう。
(駄目だ、忙しいのにこれ以上無理は言えない)
「……あの、今日はありがとうございました。すごく楽しかったです」
離れ難くなるからこれ以上はちょっと辛い。レオニダスの顔を見ないまま、足元に視線を落として今日のお礼を言う。
「早く帰らないと、テレーサさ……お義母様になんて言われるか」
「帰る?」
レオニダスから低い声が漏れた。その声に顔を上げると、レオニダスがじっと私を見つめている。いつもは碧い瞳が、この夜の闇では黒く見える。街灯が反射した瞳は、なんだか鋭い。
「えっと」
「帰りたい?」
「え」
レオニダスの手がするりと私の頬を撫でた。そのまま顎を捕らえ、親指が私の唇を撫でる。
その先に起こるであろうことを予感して、かあっと顔が熱くなった。
「で、でも、お義母様に帰るって約束してるでしょう?」
「していない。テレーサたちは今晩は不在だろう」
「え?」
確かに、今夜、お義母様はお義父様と出掛けて留守にしていて、帰りは明日になると言っていた。お義兄様も仕事で不在。
(今日家に誰もいないって、なんか……なんか甘酸っぱい!)
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「え、でもじゃあ、お、お屋敷に……?」
「帰りたくない?」
「えっ! そ、そうじゃなくて、あの」
「カレン」
レオニダスは背中を屈めると、私の唇にちゅっとキスをした。そうして面白がるようにニヤリと笑う。
「俺は帰りたくないし、帰るつもりはない。カレンはどうしたい?」
すぐ目の前でそう低く囁くレオニダスの瞳に、黄金色が揺らめいた。
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