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特別で素晴らしく、幸せなこと2

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「れ、れお……!」

 いつの間に⁉
 背後から掛けられた声に驚き振り返ると、そこには腕を組み扉に身体を預けこちらを見るレオニダスがいた。 
 目が合いすぐに自分の恰好を思い出し、一気に顔が熱くなって慌てて持っていた布を胸の前に寄せた。
 せめてもの抵抗! 多分あんまり隠れてないんだけど!

「いいい、いつからそこに⁉」
「カレンが浴室から出てきた時から?」

 そう言うとゆっくりと身体を起こし、レオニダスは制服のマントをばさりとソファに放り投げた。
 帰宅してまっすぐここに来たのだろう、黒い軍服のままのレオニダス。帽子の影から覗く深い碧の瞳に黄金色が走り、その顔は……面白がっているのか、嬉しいのか、笑っているような気もする。
 もうなんだか、レオニダスの色々なスイッチを入れてしまった気がしてならない!

「き、今日は遅くなるって」
「早く終えることが出来たから一緒に食事でもと思ったんだが」
「ま、待って!」
 
 一歩前に出るレオニダスに思わず掌を向ける。ちょっと待って、近付いちゃ駄目! 色々いろいろ、透けてるから!
 レオニダスは私の制止の声にぴたりと足を止めた。
 少しだけ首を傾げて私を真っすぐに見るレオニダス。

「それじゃあ、着替えてから……行く、から」
「全部身に着けなくていいのか?」

 もう、絶対面白がってる! ニヤニヤを我慢してるでしょう!

「だだだ、大丈夫! 明日アンナさんに確認するから!」
「それは駄目だ。新郎しか見られないんだから」

 なんでレオニダスまで知ってるの……! ああもう、この世界の常識だからみんな知ってるのね⁉

「でもっ」
「身に着けて必要かどうか、デザインをどうするか、カレンが決めなければいけないんだ。手伝おう」

 どうしたらいいのか分からないものなんて必要ないのでは⁉

「カレン?」

 さらに首を傾けたレオニダスのその顔を見ることが出来ないまま「ううう」と唸り声を出すと、レオニダスはついにぶはっと声を出して笑った。
 もう絶対真っ赤になっているであろう私は抵抗を諦め、どうやら羽織るものらしい布を二枚、そっとレオニダスに差し出した。

 *
 
「これは上に羽織るものだな」

 レオニダスは長い布を広げると、私の肩にかけてくれた。なんで分かるんだろう……。
 私の気持ちが分かったのか、後ろでレオニダスがふっと笑った。

「異国の民族衣装でこういうものがあるんだ。それに似ていると思っただけだ」

 レオニダスは私の手を取り、肩に掛けた布に腕を通してくれる。
 ……ホントだ、上着の形になってる。落ち着いて見れば、ちゃんと袖の形になっている。恥ずかしい……。

「前で落ちないように結ぶんだが、これに紐は付いていないな。本当に肩に掛けるだけだ」
「裾にビーズが縫い付けられてるから、その重みで意外と落ちにくいかも」

 腕を広げてみてもするりと落ちることはない。
 羽織ってみると思ったよりも長いそれは私の脚首まであり、裾と袖口にはモチーフレースとビーズが縫い付けられて重みがある。生地自体も透けてはいるけど下着よりも厚みがあって、これを羽織ればすっけすけ、とまではいかない。……かもしれない。

「これは何だと思う?」
「うーん」
 
 レオニダスが背後から小さいほうのレースを手渡してくれる。受け取り広げてみると、うん、小さい。細いリボンで縁取られ、これもどこかに結ぶものだとは思うんだけれど。

「これは俺も分からないが、肩には既に羽織っているから……腰、かもしれんな」
「こし?」

 短いスカートってこと?
 これつけて何の意味が? とか野暮なことはもう聞かない。そう、これはそういうものなのだ。
 小さなレースを腰に回しリボンを結んでみる。ミニスカートよりもはるかに短いそれは、お尻が多分半分くらい見えている。
 だめだめ、意味とか考えちゃ駄目。こういうものなの。うん。

「あ、ありがと、レオニダス。後は鏡で確認して着替えるから……」

 背後にいるレオニダスに顔を向けられないまま、そっとお礼を言って急いで浴室に戻ろうとすると、手首を掴まれた。
 心臓が飛び出そうな程バクバクと鳴り、顔が熱い。ですよね、行かせてくれるわけないよね?
 
「見せて」

 手を取られ引き寄せられて、背中がレオニダスの胸に納まる。逞しい腕が腰に回され耳元でレオニダスが低い声で囁くのを、恥ずかしさでパニックになりながら聞いた。

「だ、ダメ……」
「駄目? 何故」

 するりとレオニダスの手が、心許ない上着の隙間から入り込み肌に直接触れた。熱い掌が私の腹部を撫で、するすると意味ありげに動く。

「カレン」

 ちゅ、と耳に口付けを落とされる。耳が熱くなっていることに気付かれただろうか。

「だ、だって、恥ずかしいから……」
「だが、俺は見たい。駄目か?」

 お腹を撫でていたレオニダスの掌が、ゆっくりと上に上がってくる。指が下胸のふくらみに触れて、思わずピクリと身体を揺らした。
 レオニダスのもう一方の手が私の顎を捉え、後ろを向かされる。見上げるようにレオニダスを窺えば、帽子の下でいつもの深い碧の瞳は黄金色にギラギラと輝いていた。じっと私を見下ろし、目許をうっすら赤く染めている。
 ああきっと、私のこの姿に気持ちが昂ったのだろうと、私の身体の中心がぎゅっと切なくなった。
 いつもそう。レオニダスは私に全身で愛を伝えてくれる。私を一番に考え、私の一番になりたいとストレートに伝えてくれる。
 
『ナガセ様が恥ずかしい思いをしながら、それでも用意してくれることが閣下にとって、とても特別で嬉しいことなんです』
 
 アンナさんが言っていた、レオニダスにとって特別で嬉しいこと。
 それは、私が勇気を出して、レオニダスだけに見せる私の姿だから、特別なことなのだ。

 息をふーっと吐き出してレオニダスの腕の中でくるりと身体を回し、正面から見上げる。
 手を伸ばし目深に被った帽子を取ると、パサリと髪が落ちて来た。前髪から覗く黄金色の瞳を見つめながら、広い肩に手を置いて、思いっきり背伸びをする。
 レオニダスは柔らかく瞳を細め口元に笑みを浮かべて、そのまま私に覆い被さり、柔らかく熱いキスをくれた。
 私の腰を持ち上げるように抱き上げ、キスをしながらソファへ移動して腰掛ける。レオニダスの膝の上に跨るように座り、抱き合いながら深く深くキスを繰り返す。レオニダスの掌が身体を這い、そのくすぐったさにふるりと身体が震えた。
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