13 / 22
特別で素晴らしく、幸せなこと1
しおりを挟む「うーん……」
一通の手紙と箱を受けとって、一人、部屋で思わず大きなため息をついてしまった。
久しぶりに王都から届いたオリビアさんからの手紙。
オリビアさんらしい鮮やかな装飾がされた便箋と文体で、箱の中身について言及されていたんだけれど。
『ナガセ様
ドレスは着々と出来上がっているので楽しみにしていてくださいませ!
テレーサがドレスを持って行くまでのお楽しみですわ!
そしてこれは、別のレースで作った試作品ですの!
デザインとサイズ感を確かめてほしいから、ぜひ身に着けて感想を知らせてちょうだい! なるべく早くね!
オリビア』
そんな風に書かれていて。
「試作品って……」
一体何の?
そう思い、手紙が同封されていた箱の中身へもう一度視線を戻す。
シックな緑色の包装紙とオレンジ色のサテンのリボンに包まれた高級な箱の中には、真っ白なレースで出来た下着、が納められていた。
「どうしようか、これ」
足元で寝そべっているウルに声を掛けても、目を瞑ったまま耳だけこちらに向けて、ぱたりとひとつ尻尾を振るだけだった。
*
「え、結婚式の下着……?」
箱の中身について思い切ってアンナさんに相談してみると、意外とケロリとした表情で教えてくれた。
「初夜のために一緒に仕立てるんです。ナガセ様の国にはないかしら」
「な……いと、思います……?」
イヤ、あるのかな? どうだろう、国が違えばあるのかもしれないけど。少なくとも私の周囲では聞いたことのない文化だと思うんだけど。
「ウェディングドレスと同じレースを使って仕立てるんですよ。リボンやビーズ、花のモチーフとか、とにかく新婦の好みを反映させて、そしてもちろん、それを見ることが出来るのは新郎だけ」
アンナさんはニコニコと嬉しそうに、けれど当然のように言う。それはとても素敵なことだと思うんだけど、けどね?
……恥ずかしくないかな? 私を食べて、みたいなことでしょう? いや、恥ずかしがるなんて凄く今更なのは分かってるんだけど!
「ちゃんと自分で一度身に着けて、デザインとサイズを確認してくださいね」
「か、かくにんて……」
「レースは変えられないけれど、リボンや飾りを足してほしいとか、もうちょっと表面積を小さくして欲しいとか」
表面積って何の⁉
慌てふためく私を見て、アンナさんはふふっと声を上げて笑った。
「本当に、未だに恥ずかしがるんだから可愛いですね」
「そ、そうかな……!」
「大事なことなんですよ。誰だって特別な夜は、素敵な方がいいに決まっていますから」
それは、確かにそうなんだけど。
可愛い下着やレースは、とてもとても気分が上がる。
でもそれを相手に見せる、そう思うととにかく顔が熱くなって恥ずかしくて居た堪れない気持ちになってしまう。
きっと私は、そのことを期待していることが、それをレオニダスに知られてしまうのが、恥ずかしいのだと思う。
「閣下は喜ばれると思いますよ。喜んで欲しいでしょう?」
「……はい」
「ナガセ様が恥ずかしい思いをしながら、それでも用意してくれることが閣下にとって、とても特別で嬉しいことなんです。頑張って、勇気を出して」
アンナさんはそう言って微笑むともう一度「頑張って」と背中を撫でてくれた。
そして今、オリビアさんが送ってくれた試作品を浴室に持ち込んで身に着け、私は鏡の前に立っている。
本来、この世界での女性の下着は、私が今まで身に着けていたようなブラやショーツとは違うデザインだ。
ブラはなく、レースの付いたタンクトップのような下着、ショートパンツのようなショーツ。コルセットで腰を細く締め上げ、何枚も何枚も身に着けるのが主流だ。恐らく、この初夜に身に着けるという下着も、アンナさんが想像するのはそれらなんだろうけれど。
好奇心旺盛で新しいものを作るのが大好きなオリビアさんは、以前、夏の暑さに耐えられなかった私が、どうしても、と制作を依頼したブラやショーツを、この初夜のための下着にしてくれた。
これはあれじゃないかな、所謂セクシーランジェリー、みたいな……?
下着に使われている白いレースはすごく繊細で、小さな花のモチーフを繋いだもの。ショーツは薄いピンクゴールドの細いサテンのリボンを腰の横で結び留めるようになっている。
……前の三角の部分しか面積がない。ブラの部分も三角が二つリボンでつながり、後ろで結ぶ作りになっている。リボンの先端に縫い付けられた金色のビーズが錘になって、お尻の辺りでゆらゆら揺れている。
「……すっけすけ……」
それはそう、だってレースなのだ。
裏布もなく、ただレースでぼんやりと覆われているだけで、とにかく目を凝らせば全裸では⁉ と言うほど透けている。そう、透けている!
それになんだか、身に着ける小物がとにかく多い。
オリビアさんの付けてくれたメモを見ながら何をどこに着けるのか確認しないとさっぱり分からない。
レースのシュシュみたいなものは、えっと……二の腕? なんで? この細いピンクゴールドのリボンはどこに? え、首? なんで? 結び目は前?
まって、ストッキングがあるけどガーターベルト……あ、これもリボンで止めるのね。え、靴は履くのかな。ストッキングだけってヘンじゃない? でも待って、この格好で歩くわけじゃないから靴はいらない?
もう全部が繊細で、ひとつつけるのにとても時間が掛かる。
普通なら侍女が支度を手伝ってくれるということで、アンナさんが手伝いを申し出てくれたけど、さすがにそれはお断りした。
こんなスケスケセクシーランジェリーをアンナさんが見たらなんて言うか!
「えっと……はおりもの……?」
そんなのあったっけ? 箱に残してしまったのかもしれない。
浴室から出てテーブルに置いていた箱を確認すると、箱の底に更に包み紙があった。広げてみると少し厚みのある布と小さなレースがある。取り出して広げ掲げてみても、着方が分からない。
え、これはなに? 羽織る? どこに腕を通すの?
この小さな四角いレースは何?
図解が欲しかったです、オリビアさん!
アンナさんなら分かるのかな。今から呼ぶ……のも流石に恥ずかしすぎる。明日、これだけ見せて聞いてみようかな……。分かるかな……。
はあ、とため息をついてレースを箱に戻そうとすると。
「手伝おうか?」
背後から、そんな声が掛けられた。
41
お気に入りに追加
184
あなたにおすすめの小説
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
ヴァルプルギスの夜が明けたら~ひと目惚れの騎士と一夜を共にしたらガチの執着愛がついてきました~
天城
恋愛
まだ未熟な魔女であるシャナは、『ヴァルプルギスの夜』に一人の騎士と関係を持った。未婚で子を成さねばならない魔女は、年に一度のこの祭で気に入った男の子種を貰う。
処女だったシャナは、王都から来た美貌の騎士アズレトに一目惚れし『抱かれるならこの男がいい』と幻惑の術で彼と一夜を共にした。
しかし夜明けと共にさよならしたはずの騎士様になぜか追いかけられています?
魔女って忌み嫌われてて穢れの象徴でしたよね。
なんで追いかけてくるんですか!?
ガチ執着愛の美形の圧に耐えきれない、小心者の人見知り魔女の恋愛奮闘記。
【R18】騎士たちの監視対象になりました
ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。
*R18は告知無しです。
*複数プレイ有り。
*逆ハー
*倫理感緩めです。
*作者の都合の良いように作っています。
【R18】聖女のお役目【完結済】
ワシ蔵
恋愛
平凡なOLの加賀美紗香は、ある日入浴中に、突然異世界へ転移してしまう。
その国には、聖女が騎士たちに祝福を与えるという伝説があった。
紗香は、その聖女として召喚されたのだと言う。
祭壇に捧げられた聖女は、今日も騎士達に祝福を与える。
※性描写有りは★マークです。
※肉体的に複数と触れ合うため「逆ハーレム」タグをつけていますが、精神的にはほとんど1対1です。
【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです
大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。
「俺は子どもみたいな女は好きではない」
ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。
ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。
ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。
何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!?
貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる