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特別で素晴らしく、幸せなこと1

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「うーん……」

 一通の手紙と箱を受けとって、一人、部屋で思わず大きなため息をついてしまった。
 久しぶりに王都から届いたオリビアさんからの手紙。
 オリビアさんらしい鮮やかな装飾がされた便箋と文体で、箱の中身について言及されていたんだけれど。
 
『ナガセ様
 ドレスは着々と出来上がっているので楽しみにしていてくださいませ!
 テレーサがドレスを持って行くまでのお楽しみですわ!
 そしてこれは、別のレースで作った試作品ですの!
 デザインとサイズ感を確かめてほしいから、ぜひ身に着けて感想を知らせてちょうだい! なるべく早くね!
 オリビア』
 
 そんな風に書かれていて。

「試作品って……」

 一体何の?
 そう思い、手紙が同封されていた箱の中身へもう一度視線を戻す。
 シックな緑色の包装紙とオレンジ色のサテンのリボンに包まれた高級な箱の中には、真っ白なレースで出来た下着、が納められていた。

「どうしようか、これ」

 足元で寝そべっているウルに声を掛けても、目を瞑ったまま耳だけこちらに向けて、ぱたりとひとつ尻尾を振るだけだった。

 *

「え、結婚式の下着……?」

 箱の中身について思い切ってアンナさんに相談してみると、意外とケロリとした表情で教えてくれた。

「初夜のために一緒に仕立てるんです。ナガセ様の国にはないかしら」
「な……いと、思います……?」

 イヤ、あるのかな? どうだろう、国が違えばあるのかもしれないけど。少なくとも私の周囲では聞いたことのない文化だと思うんだけど。

「ウェディングドレスと同じレースを使って仕立てるんですよ。リボンやビーズ、花のモチーフとか、とにかく新婦の好みを反映させて、そしてもちろん、それを見ることが出来るのは新郎だけ」

 アンナさんはニコニコと嬉しそうに、けれど当然のように言う。それはとても素敵なことだと思うんだけど、けどね?
 ……恥ずかしくないかな? 私を食べて、みたいなことでしょう? いや、恥ずかしがるなんて凄く今更なのは分かってるんだけど!

「ちゃんと自分で一度身に着けて、デザインとサイズを確認してくださいね」
「か、かくにんて……」
「レースは変えられないけれど、リボンや飾りを足してほしいとか、もうちょっと表面積を小さくして欲しいとか」

 表面積って何の⁉
 慌てふためく私を見て、アンナさんはふふっと声を上げて笑った。

「本当に、未だに恥ずかしがるんだから可愛いですね」
「そ、そうかな……!」
「大事なことなんですよ。誰だって特別な夜は、素敵な方がいいに決まっていますから」

 それは、確かにそうなんだけど。
 可愛い下着やレースは、とてもとても気分が上がる。
 でもそれを相手に見せる、そう思うととにかく顔が熱くなって恥ずかしくて居た堪れない気持ちになってしまう。
 きっと私は、そのことを期待していることが、それをレオニダスに知られてしまうのが、恥ずかしいのだと思う。

「閣下は喜ばれると思いますよ。喜んで欲しいでしょう?」
「……はい」
「ナガセ様が恥ずかしい思いをしながら、それでも用意してくれることが閣下にとって、とても特別で嬉しいことなんです。頑張って、勇気を出して」

 アンナさんはそう言って微笑むともう一度「頑張って」と背中を撫でてくれた。

 そして今、オリビアさんが送ってくれた試作品を浴室に持ち込んで身に着け、私は鏡の前に立っている。
 本来、この世界での女性の下着は、私が今まで身に着けていたようなブラやショーツとは違うデザインだ。
 ブラはなく、レースの付いたタンクトップのような下着、ショートパンツのようなショーツ。コルセットで腰を細く締め上げ、何枚も何枚も身に着けるのが主流だ。恐らく、この初夜に身に着けるという下着も、アンナさんが想像するのはそれらなんだろうけれど。
 好奇心旺盛で新しいものを作るのが大好きなオリビアさんは、以前、夏の暑さに耐えられなかった私が、どうしても、と制作を依頼したブラやショーツを、この初夜のための下着にしてくれた。
 これはあれじゃないかな、所謂セクシーランジェリー、みたいな……?
 下着に使われている白いレースはすごく繊細で、小さな花のモチーフを繋いだもの。ショーツは薄いピンクゴールドの細いサテンのリボンを腰の横で結び留めるようになっている。
 ……前の三角の部分しか面積がない。ブラの部分も三角が二つリボンでつながり、後ろで結ぶ作りになっている。リボンの先端に縫い付けられた金色のビーズが錘になって、お尻の辺りでゆらゆら揺れている。

「……すっけすけ……」

 それはそう、だってレースなのだ。
 裏布もなく、ただレースでぼんやりと覆われているだけで、とにかく目を凝らせば全裸では⁉ と言うほど透けている。そう、透けている!
 それになんだか、身に着ける小物がとにかく多い。
 オリビアさんの付けてくれたメモを見ながら何をどこに着けるのか確認しないとさっぱり分からない。
 レースのシュシュみたいなものは、えっと……二の腕? なんで? この細いピンクゴールドのリボンはどこに? え、首? なんで? 結び目は前?
 まって、ストッキングがあるけどガーターベルト……あ、これもリボンで止めるのね。え、靴は履くのかな。ストッキングだけってヘンじゃない? でも待って、この格好で歩くわけじゃないから靴はいらない?
 もう全部が繊細で、ひとつつけるのにとても時間が掛かる。
 普通なら侍女が支度を手伝ってくれるということで、アンナさんが手伝いを申し出てくれたけど、さすがにそれはお断りした。
 こんなスケスケセクシーランジェリーをアンナさんが見たらなんて言うか!

「えっと……はおりもの……?」

 そんなのあったっけ? 箱に残してしまったのかもしれない。
 浴室から出てテーブルに置いていた箱を確認すると、箱の底に更に包み紙があった。広げてみると少し厚みのある布と小さなレースがある。取り出して広げ掲げてみても、着方が分からない。
 え、これはなに? 羽織る? どこに腕を通すの?
 この小さな四角いレースは何?
 図解が欲しかったです、オリビアさん!
 アンナさんなら分かるのかな。今から呼ぶ……のも流石に恥ずかしすぎる。明日、これだけ見せて聞いてみようかな……。分かるかな……。
 はあ、とため息をついてレースを箱に戻そうとすると。

「手伝おうか?」

 背後から、そんな声が掛けられた。
 
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