上 下
61 / 89
第三章 祝祭の街

閑話 いくつになっても

しおりを挟む


「ザイラスブルク公! レオニダス!」
「おいおい、遂に婚約か。この色男」
「おめでとう、良かったじゃないか。遂に相手を決めたんだな」
「しかもなんだ、またお前らしいと言うかなんと言うか……逆に見たことのないタイプの女性だな」
「うるさい」
「本当に黒髪なんだな、驚いたよ。それに…話に聞いた時はどんな女性かと思っていたが」
「なんだ」
「褒めてるんだ、睨むな。そして唸るな」
「ははは、随分と惚れ込んでいるんだな」
「しかしなんだ。苦労しそうだな、ここも居心地悪いだろうに…だから睨むなよ。健気で可愛いって話じゃないか」
「そう、分かる? 僕の義妹可愛いんだよね」
「分かる。なんていうか…猫、みたいだよな。猫ってさ、懐いたら甘えてくる感じが可愛いんだよな」
「お前に懐いてなどいない」
「だから唸るなよ」
「そうなんだよ! ふふ、拾われた猫みたいで可愛いだろ」
「俺は可愛いよりは美人な感じがするなぁ」
「アルベルトはまだ婚約……していたら王都が壊滅するか」
「しかし、百聞は一見にしかずだな。色だのなんだの言う人間もいるが、気にならないし話してみても感じがいいじゃないか」
「ふふ、そうでしょ、ありがとう、君いい奴だな」
「何だよ、知らなかったのか」
「好感なんて持つな! なんなんださっきから偉そうに!」
「凄い余裕のなさだな」
「あの選り取り見取りの男がねぇ」
「彼女が可愛いって言ってるだけだろ」
「おいそれ以上言ってみろ、お前の」
「はいはいそうだな、レオニダスにお似合いだ。その色だって彼女に合わせたんだろう」
「僕はもっと見せびらかせたいんだけどね、すぐレオニダスが囲っちゃうんだよ」
「今の様子を見てると想像に容易いな」
「踊らないのか? 彼女踊れるんだろ? 俺誘おうかな」
「ダメだ! おい、絶対にダメだ、髪の一筋だって触れるな!」
「お前…本当にレオニダスか? あんなに女性に対して淡白だった?」
「僕後で踊る約束したから」
「アルベルト!」
「だって僕は兄なんだよ。ふふ、いいでしょ、僕、おにいさまって呼ばれてるんだよ」
「……アルベルトがおにいさま……」
「ナガセはそもそもの育ちが良く思考も貴族のものとかけ離れていないから貴族教育も淑女教育も飲み込みが早い上に好奇心が旺盛で高度な教育を受けていたようだから学ぶ事の基礎が出来上がっているレオニダスの妻となるのに資質は問題なくナガセもレオニダスもお互いを思い合っているから末永く幸せに暮らせると私は解析しているぞ」

「「「べアンハート殿下にご挨拶申し上げます」」」
「なぜお前がここにいるんだ」
「侯爵に会いに」
「べアンハート、また護衛置いて来たでしょ」
「今いる護衛は中々見所のあるギフトを持っていて私が行動を起こす前に先回りをして来るものだから彼の隙をどのように突くのかここ最近の私の楽しみであるんだが今日は勝利したと思っていたら先程ホールの入り口でこちらを睨む彼を見つけてしまい引き分けだなと思ったよ今日もいい勝負だった」
「護衛と勝負するな」
「今の聞き取れたのかぁ。相変わらず仲良いなお前たち」
「よくない」
「仲がいいって言うかさ、べアンハートがレオニダスのこと好きだよね」
「やめてくれ」
「昔からレオニダスは私に的確なアドバイスを端的にしてくれる貴重な人物であるのは間違いないがだからと言って好きかどうか聞かれるとその事について考察した事がないが人間の好き嫌いには複雑な意味が幾つも含まれていてどの好きに当て嵌まるのか分からないがそうだなもしかしたらそ」
「べアンハート黙れ」
「よく躾けてるなぁ」
「こら、殿下だぞ」
「べアンハートだぞ?」
「いいんじゃない? べアンハートは気にしないよ、ね」
「ナガセに挨拶したいんだがどこにいる」
「無視」
「無視ってことは気にしてないってことだから大丈夫」
「俺、アルベルトが一番失礼だと思う」
「カ…ナガセは今外している」
「中々戻らないからさっきからソワソワしてるんだよ」
「さっきから話半分だろ、レオニダス」
「ああいた、壁際で立っているが婦人が近づいている上になんだあれは無礼だなちょっと行ってこようクラリッサの事も話さなければならないし」
「え」
「ああ、ちょっと…」
「行ってしまったな」
「うん、大丈夫だよアレでナガセのこと気に掛けてるんだから」
「あ、先越された」
「え?」
「あらら、やるな彼女。この場で一番高貴なお方とダンスだ」
「べ、…!」
「レオニダス、君が悪いよ」
「何故!?」
「あー、あのご婦人か。凄い顔してるぞ。淑女の仮面はどうした」
「なんだ、あっさりした関係じゃなかったのか?」
「よく今までトラブルにならなかったよな、あんなに取っ替え引っ換えだったのに」
「いや今トラブルになろうとしてる」
「何年も前の事で絡まれるなんてゾッとするな」
「はは、本当に余裕ないな、レオニダス全然聞いてないぞ」
「あ、おいダメだぞレオニダス、殿下のダンスは断れないんだから」
「そうだ、殿下に誘われて踊るなんて彼女の評判も上がるじゃないか」
「唸るなよ」
「こういう時くらいべアンハートには役に立ってもらわないとね」
「アルベルト、お前本当に失礼だと思うぞ」
「うわ、べアンハートが声出して笑ってるよ」
「珍しいな!」
「彼女、上手いじゃないか、ダンス」
「ナガセのギフトは音楽なんだけどね、きっとリズム感もいいんだろうね。僕の義妹はなんでも出来るんだよ」
「なんでも?」
「そうそう、料理も掃除も出来るんだ」
「…そこは刺繍とかじゃなくて? バーデンシュタインはそんな事までさせるのか?」
「本人が好きなんだよ。料理も本当に上手でね、この間作ってくれたパスタなんて…」
「なんだそれは、俺は食べてないぞ」
「まあなんだ、稀代の色男もすっかり一途に思う相手が出来たんだな」
「良かったな、後はアルベルトがどう逃げ切るかだな」
「アルベルトが婚約なんかしたら暫く王都は機能しないぞ」
「世の中、女性で回ってるからなぁ…」
「あ、曲終わった」
「ま、何にせよめでたい事だよ」
「そうだな」
「うわー、なんだあれ、本当にレオニダスか?」
「あんな顔見た事ないな」
「あれはダンスか? 抱き合ってるんじゃなくて?」
「ステップは踏んでる」
「俺たちは一体何を見せられているんだ…」
「ねえ、あのご婦人、どこの人か分かる?」
「え? ああ、あれはロンバード家のご婦人だろう。十年くらい前に夫君が亡くなって今は義弟が爵位を継いでいる。中々そっち方面は奔放で有名だぞ」
「レオニダスだって知り合ったのは七、八年前の話じゃないか?」
「ふうん」
「うわアルベルト、悪い顔してる」


「ふふ、僕はね、あの二人が幸せなのが何よりなんだよ」
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました

平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。 騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。 そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。