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自分の仕事④

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 見下ろすと、騎士達の目に不安が浮かんでいる。静まり返る騎士達。モーリスの言うように、自分のように、ドラゴンと聞いて平気な人間はいない。
 ミュンヘナー王国でも、ドラゴンの出現による被害は悲惨なものだ。本当にたまにしか出ない。ドラゴンは基本的に森の奥地、秘境なような場所にいて、たまー、に出てきては破壊と混乱を撒き散らす。
 だが、今回はドラゴンの運が悪い。
 自分がいるからだ。
 あの時も、さして何も感じず、出撃して、殴り殺したのだ。そう言えば、その殴り殺したドラゴンの牙を使った剣ができて、それであの時、王城を血で染めた。
 駄目だ、今はドラゴンに集中だ。
 まずは。

「何が不安だ?」

 自分は語りかける。
 すると、僅かに動揺が走る。

「私の後に続くのが、不安か?」

「否っ」

 答えたのは騎士団長ガッズだ。その声に震えているのは、恐怖か武者震いか。

「私がドラゴンに押しきられると、思うか?」

「「「否っ」」」

 数人が声を張り上げる。それが波紋のように広がる。
 自分は大きく息を吸う。

「怖じ気づくものは必要ないっ、私の後ろにたつ覚悟のないものは必要ないっ」

「「「「「おぉぉぉぉぉっ」」」」」

 叫びのような声が上がる。見下ろしていた騎士達の顔つきが変わる。

「家に、家族の元に帰る覚悟があるものだけ続けっ」

「「「「「おぉぉぉぉぉっ」」」」」

「出撃っ」

「皆っ、準備せよーっ」
 
 騎士団長ガッズが声をあげる。
 自分は降りて、騎士服を着込んだモーリスにマントをかけられる。ちなみに、モーリスは王城に勤める近衛兵に引けをとらない。当たり前のように同行する。頭もいいので、騎士団で策士的な事もしている。
 さっきまで水を打ったように静かだったのに、一気に活気が溢れ、騎士達が走り回る。
 嘶くファランに、身軽に跨がる。モーリスも白に黒のぶちもようの馬に跨がる。

「フォン辺境伯爵様っ、準備できましたぞっ」

 騎士団長ガッズも騎乗する。
 後に続く騎士団も、ドラゴンの遺骸解体・搬送班も続く。こちらは搬送用馬車なので、遅れて続く。

「開門っ」

 見上げるように高く、そして分厚い扉が開く。元要塞の名残だ。
 低音を響かせて、扉が開く。
 既に騎士団の出撃を聞いた領民達が道を埋め尽くしている。

「フォン辺境伯爵様が出撃であるっ、道を開け、刮目せよっ」

 ガッズの声はよく通る。
 ざわめきが起きながら、人垣が割れる。

「行くぞ、ファラン」

 軽く手綱を操ると、ファランがゆっくり歩を進める。
 ざわめきが人垣から起きる。
 これはモーリスから聞いた予測が当たっていた。

 今まで、自分はもさもさ頭の髭もじゃだった。おそらくの顔を晒しているのを、領民達はほとんど知らない。領主教育やらなんやらで町に出歩いたのは一度だけ。エミリアを連れて案内しただけだ。その時だって、エミリアと親子に何度も間違われたのだ。
 なので。

「え? 誰?」

「イケメーン」

「誰だ、あれ?」

「バルド様はどこだ?」

「誰、あれ?」

「おかあさーん、だーれ、あのひとー」

 誰が多いな。
 一応、自分専用の鎧姿だ。ちなみに皮鎧。なんでかって? 加護のおかげで、頑丈な身体だが、体裁の為に身に付けている。正面に、フォン辺境伯の紋章が刻まれている。

「ご主人様、エミリア様です」

 モーリスの声で見上げると、母とアマリエがそばについて、物見櫓で必死に手を振るエミリア。

 ああ、前回、無視した自分を殴りたい。

 派手に手は振れないので、安心させるように笑みを浮かべる。

 ざわざわ、ざわざわ、ざわざわ、ざわざわ

 ざわめきが起きる。
 そんなざわめきを気にもせず、前を向く。
 
「さっさと済ませて、帰るぞ」

「「はっ」」

 すぐ後に続くモーリスとガッズが返事をする。
 エミリアとの貴重な時間を、ドラゴンなんぞに奪われてたまるか。
 顔がいつものように引き締まる。

「「「「「あ、バルド様だ」」」」」

 領民が一斉に呟いた。
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