銀の鬼神とかわいいお嫁さん

今、排するべきか？④ 注意

　自分が知ったのは、ずっと後。フォン辺境伯が首都から片道二週間かかるから、仕方ないのだが。それでも早馬飛ばして知らせが来た。
　訃報が来たが、理解出来なかった。自分は首都に馬を飛ばした。
　元々、エミリアの卒業式の後のパーティーに出るつもりでいた。
　エミリア達は王宮騎士達に拘束された後、地下牢に繋がれた。うら若き貴族令嬢達が、政治犯などや凶悪犯が収監されるはずの王城の地下牢。
　滅多に使われる事はないが、カシアン王子の独断で繋がれてしまった。
　タイミング悪く、国王夫妻、王太子夫妻が国際会議で留守をしていた。残されていた第二王子は、更にタイミング悪く持病が悪化して、動けず。
　学園の教師、ベルギッタ侯爵家を筆頭に、令嬢達の解放を求め、事の精査を求めたが、自分が来るまでカシアン王子は権限を使い令嬢を拘束。それは、残していった王家の押印を悪用したのだ。
　国王が帰るまで、事の対処はカシアン王子に一任。病に伏せる第二王子のサインと、王家の捺印。
　そして、エミリア達、令嬢達は貴族専用の地下牢にて、貴族令嬢として相応の対応している、と。国王陛下達が帰って来るまで、それを続けるから、と。
　解放を求めていた者達は、半分納得したが、やはり顔を見せてほしいと繰り返した。
　そこに自分が到着。国王陛下達が帰ってくる三時間前だ。
　当然納得出来ずに、止める騎士達を吹き飛ばして地下牢に。
　これでも国一の猛者と言われている。鎧神アーマーヘッドの加護もあるし、実際、自分は最強だ。
　そして地下牢の惨状を目の当たりする。

　あわてて牢の独房から、服を乱した貴族の男達が飛び出してきた。
　そう、お察しのいい方は分かるだろう。
　拘束されていた令嬢達は、カシアン王子達から陵辱されていた。飽きたからと、知り合いの男達をけしかけて。見るも無残な姿の令嬢達。

　頭が、痛い。

　エミリアは舌を噛みきっていた。
　残りの令嬢は四人、二人は既に息絶えていた。かろうじて息をしていた二人は、おそらく長くなかったはず。

　自分が狂った瞬間だ。

　逃げていった男達の足を切り裂いて、逃げないようにして、止めは、令嬢の両親に任せた。
　そこから意識が曖昧だ。次々に止めにはいる騎士達を、容赦なく切り伏せて、それから、それから、それから、更に狂った。
　逃げ惑うメイドに侍従、病に伏せる第二王子を次々に剣の錆びにした。
　王城の豪華な中庭で、カシアン王子、将軍の息子、宰相の息子、大商会の息子、マグル王国からの留学生が、フランシスを取り合うように、ふざけた乳繰りあいをやっていたのだ。　

　全員、切り殺した。

　フランシスとカシアンはギリギリまで息が続くようにと、足の腱を斬り、指を切り落とし、浅く浅く剣を繰り返し、突き立てた。
　謝ろうが、助けを求めようが、そんなの自分にしたら虫の羽音に過ぎない。

　自分のモットーは一撃必殺なのだが、それが楽だからもあるが、いたぶるのは、好きじゃなかったし、力加減がめんどくさいから。

　自分はそこからおかしくなり、王城を血に染め上げたのだ。

　あまりの惨状に止め入ったビスマルク王太子殿下、止めに入ったモーリス。

　モーリスは、自分が罪を重ねないように、と飛び出してきた来ただけなのに。

　最後に、斬ったのは、誰だ？

　確か、白髪の老夫人。
　確か、見たことのない、夫人。
　
　誰だ？　誰だ？　誰だ？

　誰かが叫んでいた、ベルギッタ侯爵様、お下がりください、と。