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披露宴は出したくない⑧

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「いやあ、そんなつもりはなくてですね」

「そうですわ。娘を思う親心で」

 急に睨まれた蛙のようになるベルド伯爵夫妻。周りの招待客も引いている。かつて、エミリアに向けていた目で、ベルド伯爵を見ている。

「うそじゃないわぁっ、だってお母様、いつも言ってるもんっ。役立たずのっ」

 続く言葉は、父親のエルゴスが塞ぐ。フランシスはごふごふ言ってる、そのまま窒息しろ。
 あたふたするベルド伯爵三人を睨み付けていると、すう、と参戦するのは自分の父、クラウド・フォンだ。優秀な騎士である父は、いまでも筋骨隆々だ。

「ずいぶん賑やかですなベルド伯爵殿」

「こ、これは辺境伯様」

 暴れるフランシスを押さえながら、額に汗を浮かべるエルゴス。

「それは既に息子に引き継いだなずなのですがな」

 と、ちょっと意地悪な言い方をする。

「も、申し訳」

「ところで」

 父・クラウドがエルゴスの発言をぶったぎる。わざとらしくあごひげを触りながら。

「ゼズ子爵はどちらですかな? 是非にご挨拶したいのだが」

 ゼズ子爵とはエミリアの生母・レミリアの実家だ。披露宴で、それぞれの親戚はそれぞれが連絡する。特に、辺境伯のような上位貴族の婚姻では、かなり遠縁まで呼ばれる。エミリアの生母の実家を呼ばない事はない。だから、招待客リストに名前があった。だが、実際は来ていない。

 そう、ベルド伯爵はゼズ子爵に実際には招待状を送っていないのだ。自分はこの件を後日知らされるが、結婚式のもろもろ手配していた両親が知らないわけはない。
 招待客は、前日にはフォン辺境伯領に入っているのだから。その中に、ゼズ子爵はいなかった。自分は結婚式当日の朝、やっと帰って来れた。そのまま挨拶もへったくれもなく、風呂に入れられ支度だ。
 今回のエミリアとの結婚で、勘のいい二人が、ベルド伯爵家におけるエミリアの立場を察したと思う。それを自分に説明せず、あまり、口出ししなかったのは、無関心な息子である自分への試験でもあったんだろう。
 だが、今回、エミリアを自らの腕で抱え、大切にしようとしているとわかってくれたのか、掩護射撃してくれたのだろう。

「ゼ、ゼズ子爵は遠方故に、遅れているのでしょう」

 苦し紛れの言い訳をする。
 確か、ゼズ子爵は王都で文官をしている。王都在中の王太子夫妻がいるのに、遠方なんて、苦し紛れの言い訳にしかならない。
 居たたまれない視線を浴びながら、ベルド伯爵夫婦は顔色が悪い。ただ、フランシスだけが、いまだに暴れている。
 父は、白けた目で震えるベルド伯爵夫婦を見る。自分も睨めば、ある程度の相手は竦み上がるが、父には更に年季があるため、ベルド伯爵夫婦、たまたま後方にいた招待客まで竦み上がっている。

「旦那様、ベルド伯爵家の皆様はお疲れのようすですわ。別室をご案内しては?」

「そうだな、さすが我が妻、よく気が利く。ベルド伯爵家ご一家を別室に」

 父の指示に、一人のフットマンが案内に動く。ベルド伯爵夫婦はこれ幸いと逃げるように着いていった。

「さあ、バルド、そろそろエミリア嬢を解放なさい。朝からの疲労があるでしょう」

「はい、母上」

 震えるエミリアを抱えたまま、控え室に向かった。
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