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侯爵家当主
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それはいつも通り、執務室にて家令から受け取った書類に印を押している時に届いた。
上品なトレーに乗せて渡されたそれは封蝋とサインからして伯爵家からの手紙だ。
あそこからの手紙は面倒な事が多い。
いや、決して無理難題を言われるわけでは無いのだが、些細な内容でも無碍に出来ない事が厄介なのだ。
思えばわざわざ此処王都にて領地の仕事をしているのも伯爵家夫妻から『私達でも遠慮しているのに新婚の家に棲むのですか?』と言われた為だ。
そしてこれが結構大変だったのだ。
急な事もあり、元々あった王都の屋敷に人手が足りず、また私の補佐でもある家令なども仕事の都合上置いて行くわけにもいかなかった。
妻も妻で慣れた侍女でないと困るというので領地の侍女を引き連れての引っ越しとなった。
結果、上級使用人はほぼ王都へと移ることになり、今度は領地の屋敷が人手不足となった。
まぁ、息子も一度人を雇うという経験も必要だろうし、任せられる家令なども学園時代の伝があると言っていた。
大丈夫だと言っていたので、任せてみることにした。
まだ重要な仕事なども任せてはいないし、困れば連絡をしてくるだろう。
そういう経緯での引っ越しであり、私が望んで王都に引っ越してきたわけではない。もちろん華やかで活気もあるし、嫌いなわけでもないが。
しかし、此処は高位貴族も多く厄介な事が多い事も確かなのだ。
我が侯爵家はもちろん貴族の中でも高い地位にいる。
その為、まず気を使うべきは相手であり、こちらはその話を聞く価値があるのかないのか判断するのが普通である。
大抵の場合は傅かれる立場にあり、頭を悩ませるべきは相手のはずだ。
しかし、それが通じない相手も当然いる。
いくつかある侯爵家の中でも我が侯爵家はあまりパッとしない。
認めるのは癪だが、辺境伯や功績を上げている他の下位貴族の方が重要視されている事もまた事実だ。
そういった相手の場合はこちら側が気を使わなくてはならない。
辺境伯などは田舎から出てくる事も少なく相対する事はまずないからまだ良い。
しかし、他の侯爵家は我が家を軽く見ている部分もあり、いつも腹立たしさを感じさせられる。
そしてなにより気に入らないのは自分よりも低い爵位の者に気を使うことだ。
大した地位でもないくせに身の程を知るべきだ。
しかしそれを言えないのがまた腹立たしい。
つまり、侯爵家以下の貴族に気を使うのが気に入らないのだ。
まぁ、そんな中でも例外はある。
王女の降嫁した伯爵家だ。
あそこは別格である。
何処の高位貴族であろうと無碍には出来ない実績に更に王族の血縁という権威まで追加された。
あそこは伯爵家であって伯爵家ではない。
そんな事は高位貴族の中では常識であった。
もちろん私と妻も同じ意見だ。
それがなんと、そんな伯爵家の一人娘を私の息子が射止めたのだ。
確かに彼女を勧めはしたが、まさか本当に射止めてくるとは思ってもみなかった。
これほど息子を誇らしく思った事はなかった。
それは勿論、妻も同じ気持ちだった。
婚約を発表した時の他の貴族からの嫉妬の視線は心地よく、結婚後には私に対する皆の対応が変わってゆくのを肌で感じる事が出来た。
結婚直前に息子の少し血迷った発言はあったものの、妻と私の説得により正気を取り戻し、特に問題となる程の事もなかった。
念の為しばらく様子も見ていたが、特に令嬢との間にも問題はなさそうで、息子が悩む様子もそぶりもなく結婚の準備を進め始めたので、あれはきっと一時の気の迷いだったのだろうと思い記憶からはすぐに消えていった。
妻も手を打ったので問題ないと言っていたし。
それよりも今まで聞いた事のないような投資話や上手い話なども急に持ち込まれるようになり、忙しくなった。
妻も夜会やお茶会のお誘いに引っ張りだこで、贈り物やなんやと見た事のない宝石やドレスが見るたびに増えていく。
一応、領地にいる新しく雇った家令に屋敷の様子を報告させてはいた。
どうも、彼女とは上手くやっているらしく
『今日は仲睦まじく庭園を散歩されていました』
『今日は図書館にて2人で過ごされ、夕陽をご覧になっておりました』
『今日は領地にて買い物をされていました』
『近く湖の綺麗な別邸へと訪れる予定です』
等、確かに新婚の屋敷に滞在せずにいてよかったと思わせる仲の良い様子が記された報告が届いている。
ゆっくり過ごせるようにと夜会等も最低限の参加のみで仕事もまだ任せていない。
なんとも息子ながら羨ましいご身分だ。
こんなに仲良くしているのに子供が出来ないのは少し気になるが、迂闊な事を言って伯爵家に出てこられても厄介なのでしばらくは様子をみよう。
流石に2~3年もすれば新婚気分も落ち着くだろうか。
伯爵からは早くこちら(王都)へ呼びたいが、新婚の邪魔はするなという難しい要望を新たな鉱山開発の利権と共に頂いているので、まだしばらくはこのままだろう。
まぁ、王都での居心地も以前よりも良くなったし、妻も以前より楽しそうに社交をしているのだから良しとしよう。
資産と家格は上がったが、仕事は増えたな。
まぁ、伯爵家からの手紙は面倒ではあるが無理な事を言われる事もなく我が家への貢献のほうが大きいのは事実なので気を取り直し封を開ける。
「……」
「……」
「……は?」
…私には中から出てきたものを理解する事が出来なかった。
なぜならそこには、既に裁決済みの結婚白紙撤回状と、これまで受け取った全ての利権や財産等の返還請求書、そしてとんでもない金額の慰謝料の請求書が入っていたからだ。
上品なトレーに乗せて渡されたそれは封蝋とサインからして伯爵家からの手紙だ。
あそこからの手紙は面倒な事が多い。
いや、決して無理難題を言われるわけでは無いのだが、些細な内容でも無碍に出来ない事が厄介なのだ。
思えばわざわざ此処王都にて領地の仕事をしているのも伯爵家夫妻から『私達でも遠慮しているのに新婚の家に棲むのですか?』と言われた為だ。
そしてこれが結構大変だったのだ。
急な事もあり、元々あった王都の屋敷に人手が足りず、また私の補佐でもある家令なども仕事の都合上置いて行くわけにもいかなかった。
妻も妻で慣れた侍女でないと困るというので領地の侍女を引き連れての引っ越しとなった。
結果、上級使用人はほぼ王都へと移ることになり、今度は領地の屋敷が人手不足となった。
まぁ、息子も一度人を雇うという経験も必要だろうし、任せられる家令なども学園時代の伝があると言っていた。
大丈夫だと言っていたので、任せてみることにした。
まだ重要な仕事なども任せてはいないし、困れば連絡をしてくるだろう。
そういう経緯での引っ越しであり、私が望んで王都に引っ越してきたわけではない。もちろん華やかで活気もあるし、嫌いなわけでもないが。
しかし、此処は高位貴族も多く厄介な事が多い事も確かなのだ。
我が侯爵家はもちろん貴族の中でも高い地位にいる。
その為、まず気を使うべきは相手であり、こちらはその話を聞く価値があるのかないのか判断するのが普通である。
大抵の場合は傅かれる立場にあり、頭を悩ませるべきは相手のはずだ。
しかし、それが通じない相手も当然いる。
いくつかある侯爵家の中でも我が侯爵家はあまりパッとしない。
認めるのは癪だが、辺境伯や功績を上げている他の下位貴族の方が重要視されている事もまた事実だ。
そういった相手の場合はこちら側が気を使わなくてはならない。
辺境伯などは田舎から出てくる事も少なく相対する事はまずないからまだ良い。
しかし、他の侯爵家は我が家を軽く見ている部分もあり、いつも腹立たしさを感じさせられる。
そしてなにより気に入らないのは自分よりも低い爵位の者に気を使うことだ。
大した地位でもないくせに身の程を知るべきだ。
しかしそれを言えないのがまた腹立たしい。
つまり、侯爵家以下の貴族に気を使うのが気に入らないのだ。
まぁ、そんな中でも例外はある。
王女の降嫁した伯爵家だ。
あそこは別格である。
何処の高位貴族であろうと無碍には出来ない実績に更に王族の血縁という権威まで追加された。
あそこは伯爵家であって伯爵家ではない。
そんな事は高位貴族の中では常識であった。
もちろん私と妻も同じ意見だ。
それがなんと、そんな伯爵家の一人娘を私の息子が射止めたのだ。
確かに彼女を勧めはしたが、まさか本当に射止めてくるとは思ってもみなかった。
これほど息子を誇らしく思った事はなかった。
それは勿論、妻も同じ気持ちだった。
婚約を発表した時の他の貴族からの嫉妬の視線は心地よく、結婚後には私に対する皆の対応が変わってゆくのを肌で感じる事が出来た。
結婚直前に息子の少し血迷った発言はあったものの、妻と私の説得により正気を取り戻し、特に問題となる程の事もなかった。
念の為しばらく様子も見ていたが、特に令嬢との間にも問題はなさそうで、息子が悩む様子もそぶりもなく結婚の準備を進め始めたので、あれはきっと一時の気の迷いだったのだろうと思い記憶からはすぐに消えていった。
妻も手を打ったので問題ないと言っていたし。
それよりも今まで聞いた事のないような投資話や上手い話なども急に持ち込まれるようになり、忙しくなった。
妻も夜会やお茶会のお誘いに引っ張りだこで、贈り物やなんやと見た事のない宝石やドレスが見るたびに増えていく。
一応、領地にいる新しく雇った家令に屋敷の様子を報告させてはいた。
どうも、彼女とは上手くやっているらしく
『今日は仲睦まじく庭園を散歩されていました』
『今日は図書館にて2人で過ごされ、夕陽をご覧になっておりました』
『今日は領地にて買い物をされていました』
『近く湖の綺麗な別邸へと訪れる予定です』
等、確かに新婚の屋敷に滞在せずにいてよかったと思わせる仲の良い様子が記された報告が届いている。
ゆっくり過ごせるようにと夜会等も最低限の参加のみで仕事もまだ任せていない。
なんとも息子ながら羨ましいご身分だ。
こんなに仲良くしているのに子供が出来ないのは少し気になるが、迂闊な事を言って伯爵家に出てこられても厄介なのでしばらくは様子をみよう。
流石に2~3年もすれば新婚気分も落ち着くだろうか。
伯爵からは早くこちら(王都)へ呼びたいが、新婚の邪魔はするなという難しい要望を新たな鉱山開発の利権と共に頂いているので、まだしばらくはこのままだろう。
まぁ、王都での居心地も以前よりも良くなったし、妻も以前より楽しそうに社交をしているのだから良しとしよう。
資産と家格は上がったが、仕事は増えたな。
まぁ、伯爵家からの手紙は面倒ではあるが無理な事を言われる事もなく我が家への貢献のほうが大きいのは事実なので気を取り直し封を開ける。
「……」
「……」
「……は?」
…私には中から出てきたものを理解する事が出来なかった。
なぜならそこには、既に裁決済みの結婚白紙撤回状と、これまで受け取った全ての利権や財産等の返還請求書、そしてとんでもない金額の慰謝料の請求書が入っていたからだ。
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