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前編

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前世を思い出しました。

唐突だけど、思い出しました。


私、現在とても豪華な図書室にて少し上にある本を取ろうとした所、落ちてきました。本が。

しかも3センチ位の厚みのある微妙に重い本。横には10センチ位の厚みの本もあるので、運が良いのか悪いのか?

咄嗟に手で庇ったのでそんなに痛くは無かったけど、バランスが崩れました。

ふらっといって床に倒れた瞬間です。
別に頭は打っていません。

急にストンと思い出しました。


今の私はなんと侯爵家嫡男の嫁。
そして18歳。

前世の私は主婦?パート?普通のおばさん。
52歳。

これまで生きてきた18年も過去の52年も両方私です。

なんだか若返って得した気持ちになりました。


いえ、状況的には前世より今現在の状況の方が全く幸せではない状況なんですが、先程までの憂鬱な気持ちが無くなりました。

気持ち的に図太くなった気がします。

読むつもりだった落ちた本を手に持って机に向かいます。
端の目立たないいつもの場所に座って本を開きます。

パッと見はいつも通りです。でも、頭の中では色々と今の状況を整理しつつ前世と今を照らし合わせてみました。


前世の私は日本にて普通に就職して、結婚して子供を産んで、育てて働いて、上の子が嫁に行き、下の子の就職が決まりました。

仲の良い旦那と2人お互い趣味を楽しみつつまだ先ではあるけど、今後の楽しい老後を夢見ていました。

多くはありませんが、貯金もして、こんな歳だし、と言いつつお友達とシミ取りやシワ取りの情報交換をしつつランチなども楽しんでいました。
人生あと50年弱もあるし、若くいるためにもメンテナンスは大切だと旦那も理解してくれていました。

それなりに苦労もあったけど、良い旦那に恵まれ、苦い経験が今では良い経験になったと歳を感じつつも、子供も一応巣立ったので満足していたところで52歳の記憶は終わりです。

これから、まだまだ残り半分の人生を謳歌する予定だったのですが…。



一方、今の私は侯爵夫人です。

元々は伯爵の1人娘でしたが、16歳で恋をしました。
相手は侯爵家嫡男。両家の跡取り問題があるかと思いきや、私が子供を2人産めば良いとの事でトントン拍子で話が進み、その年のうちに結婚。
最悪産めなくても親族や補佐は優秀な者がいるから大丈夫と言われました。
なんと、好きな人と結ばれしかも爵位まで上がって侯爵夫人になりました。めちゃハッピーと思っていたら、今世の私の幸せはここまででした。

まさかの結婚式初夜、今の旦那に愛人発覚。と、いうか本人から報告された。(しかもそっちが本命とのご丁寧な説明付き)
そして、お屋敷中がそちらを応援。
私は邪魔者。いや、なぜ?

お相手、平民の花屋さん(この時点であざとい)。
変なヤカラに絡まれていた所を町へ降りた旦那に助けられる。(どこの恋愛小説?)

それからもちょくちょく町で会う。(この時点でアウト)

で、なんやかんあり娘さんの両親が亡くなりお店が困窮、お屋敷のメイドへと転職。(なぜメイド?)

屋敷の中ではロマンス繰り広げまくり。(げぇ)

身分差に悩みつつも愛を育む。

ところが、旦那は泣く泣く政略結婚、でも愛する人は捨てられない(結婚やめるか別れるかどっちか選べよ)

嫁いで来た花嫁は爵位が下のくせに我儘で傲慢で金遣いが荒い、ご主人様可哀想(侍女談)


我儘で傲慢で金遣いが荒い花嫁が私。


はぁ?なんか色々ツッコミ所が多すぎる。

とりあえず、今世の私はそれはそれは愛されて育ちまして、両親には可愛がって貰いました(感謝)

おかげで、多少甘ったれのワガママさはあったと思います。
でも、これだけは断言できる。

暴力や暴言はもちろん他人を傷つけることはしていない。
そして、使っている金は私の個人資産だ。(甘い両親達が持たせてくれた)

なのにこのお屋敷の侍女達は完全に私を我儘で傲慢で資産を食い潰す問題児扱いをしてくる。

前世を思い出すまでは、わたしは自分のことを 我儘で傲慢な女で、そんな女だから当然旦那にも望まれず、爵位も低く(旦那と比べて)何も出来ず、迷惑をかけるだけの邪魔者であり、せいぜい表だけでは、取り繕う事をしなければならないと思い込んでいました。

こんな私も結婚当初は戸惑いつつも女主人として恥ずかしくないように過ごそうとしていました。
しかし、旦那には冷たくあしらわれ、侍女達には嫌味を言われ、事あるごとに文句を言われる日が続きました。

それまで伯爵家や親族としか交流の無かった私は他のお家の事など知らず、素直に侍女の言う事を事実として受け止め、少しでも侯爵家に馴染めるよう努力していました。

そして侍女達の行動はどんどんエスカレートしていき、表面上では丁寧なのですが今ではもはや最低限のお世話と最低限の食事となっております。

こんな風に扱われたのは初めてで、戸惑っている間に、どんどんと精神的にも追い詰められていきました。

そして頼りの旦那は屋敷の色々な場所でちょこちょことラブロマンスを見せつけてきます。(侍女がわざわざ誘導する事も多い)

侍女たちは表面上は丁寧に、さも当たり前のように何回も何回も言うので、いつの間にか自分が悪いと思い込んでいました。

私は旦那様達の結婚を邪魔した我儘で傲慢な令嬢であり、少しでも反省の気持ちがあるのならお屋敷でくらいは静かに過ごすべきである。と、いうのが侍女達の言い分でした。

立場の弱い平民の娘を悪く言うなんて優しさが無い。
爵位が上の侯爵様に意見があるなどとんでもない。
屋敷のものは皆仕事があり、お嬢様の我儘には付き合えない。
自分の事くらい自分でするのは当然。
身分をひけらかすなんて最低。
ここは格式高い侯爵家であり、すべては侯爵家に合わせて生活して当然である。
侯爵様のために働くのは当たり前。
侯爵様の気持ちに沿った行動をとれ。
侯爵様が望むならそれを叶える努力をしろ。
爵位は低いし愛されもしない何も出来ない邪魔者。
優しさがない。思いやりがない。朗らかさがない。愛想がない。傲慢。嫌味っぽい。
暗い。
侍女に何か声を掛ければ毎日同じような事を聞かされ、いつの間にか声を掛けなくなりました。
今まで侍女にやって貰っていた事を失敗しつつも自分でなんとか出来るようにしました。

顔を見ると嫌そうな顔をされるので人目を避けるようになりました。

繰り返し言われることば。

政略結婚で押し付けられた我儘で傲慢な女。






いや、身分制度を意識したほうが良いのかダメなのかハッキリしろと今ならツッコミたい。


今ならわかる。あれは洗脳されていた。


いつの間にか今の待遇は当然のものだと思い込んでいたのです。

意識はしていなかったけれど、自分が悪いと思い込み、少しでも役に立てるように勉強し、旦那どころか侍女達の邪魔をしないようにどんどんとひっそりと行動をするようになっていました。

そして、健気な私は一生懸命領地や貴族の関係を勉強しつつこの境遇に耐え、他の貴族や家族にはこの状況を気付かれないようにお茶会や夜会では幸せそうに振る舞っていました。



結婚して2年、よく耐えたな。


けれど、今、気付いてしまった。


私、我慢する必要ある?







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