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第181話 勘違いなさらないで
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「は。何? その体で支払ってくれるわけ」
セリアン様は私のセリフで、焦りの表情から小馬鹿にした余裕の表情に変わる。
むかつく。
「ええ。この身で払いましょう。わたくしはあなた様の――お友達になって差し上げます」
私がきっぱりとそう言うと、セリアン様は目を見開き、一拍、二拍と間を置き。
「……は?」
と呟いた。
私は壁から自分の手を引き上げると、腕を組む。
「わたくし、気付いたのです。あなた様が何故わたくしをここに連れて来られたのか」
セリアン様はいまだ衝撃から立ち直れないのか、あるいは呆れ果てているだけか、黙って様子見している。
「セリアン様にはわたくしがあなた様の元に訪れる理由が分かっていたはずです。わたくしの要求を却下するだけなら、話を早く切りあげて立ち去れば良かったのです。ですがあなた様はそうされなかった。こんなにも不毛な会話を繰り返し、時間を無駄に費やしてまでも立ち去らなかった。そこから導き出される答えはただ一つ」
私はセリアン様に人差し指をびしりと突きつけた。
「ずばり、あなた様はわたくしとお友達になりたかったのでしょう!」
「……じゃあ、お疲れー」
そう言って手をひらひらさせて立ち去ろうとするセリアン様の袖を掴む。
「まあまあ。図星を指されたからって、そう照れなくてもよろしいのですよ、セリアン様」
すると彼は足を止めて振り返ると皮肉っぽく笑う。
「図星じゃなくて呆れているだけ。あのさ。生憎だけど、俺の周りには男も女も掃いて捨てるほどたくさんいるよ」
掃いて捨てるとはまた驕慢な物言いだ。……彼の立場からすれば仕方がないことかもしれないけれど。
「ええ。いるでしょう。下心を隠してあなた様に媚びへつらうご友人たちなら山ほど」
「――っ!」
ええ。私も大概性格が悪いです。けれどそれでセリアン様の顔色が変わった。笑顔で隠していた彼の素顔かもしれない。
「へえ。言ってくれるね」
「ええ。言いますとも。ですが、ご自分でも心当たりがおありだから、そのような怖いお顔をなさっているのでしょう?」
「怖い顔?」
私に言われて初めて気付いたように、眉をひそめ自分の頬を触る。
「ええ。笑顔の仮面が落ちておりますよ。ほら、セリアン様の足元に」
さすがにセリアン様は足元に視線を落とさなかったけれど、面倒臭そうにため息をついた。
「本当に君って、いい度胸しているね」
「ありがとう存じます」
「褒めて……いや、褒めているのかな、これは」
ご自分でも分からなくなったのか、セリアン様は腕を組んで首を傾げる。
「まあ、いいや。君の言い分を聞いてみようかな。俺が君を友人とするメリットをさ」
「あら、いやだ。勘違いなさらないでくださいませ」
私は口元に手を当てて、ころころと笑った。
「わたくしが、セリアン様のお友達になって差し上げるのです」
「ほほう。ソーデスカ。それはそれはドーモ」
目を細めて白けた視線を向けてくるセリアン様に私は腰に両手をやり、胸を張る。
「ええ。どうぞ存分に感謝してくださいませ」
「一体どこからその自信が出てくるんだろう」
「ほーら、今。わたくしに興味をお持ちであることを認めましたね?」
「……ああ、うん。ちょっと釣られてしまった」
素直に頷くセリアン様に私はふふんと鼻を鳴らした。
「セリアン様にもわたくしを友人にする価値はございましてよ。下心を一切隠さず、本音で語る友人を獲得できるわけですから」
「下心を一切隠さずって、本気で欲望ダダ漏れだね……。だけど、俺が君を信頼できる根拠を示してもらわないとね」
「根拠ですか」
うーん。
自分が信頼に値する人間だと証明することは難しい。
私は顎に拳を当てて首を傾げる。
「根拠を示すことはできません。ただ一つ申し上げられることは、わたくしにとって、公爵令息のセリアン様としては何の興味もございませんし、魅力も感じないというところでしょうか」
「言い方言い方」
セリアン様は苦笑いする。
「だけどさ。俺が王族のエルベルトと近く、取り次ぎできるから君は俺を利用しようとしているんだろ?」
「利用だなんて言葉が悪いですわ。それに何か誤解されているようですが、わたくしはただ、マリアンジェラ様のお見舞いに伺いたいだけです」
「マリアンジェラ嬢の……」
私の言葉から真意を読み取ってくれたのか、セリアン様は神妙な表情を浮かべた。
「ええ。ですからセリアン様のお力を少しお借りしたいのです。わたくしをマリアンジェラ様の元に連れて行ってくださいませんか」
「エルベルトを通さず?」
「わたくしの目的はマリアンジェラ様のお見舞いです。手段は問いません」
「なるほど」
セリアン様はふっと笑みを零す。
どうやら説得できたようだ。ほっとしたところ。
「だけど嫌だね」
……手強い。
セリアン様は私のセリフで、焦りの表情から小馬鹿にした余裕の表情に変わる。
むかつく。
「ええ。この身で払いましょう。わたくしはあなた様の――お友達になって差し上げます」
私がきっぱりとそう言うと、セリアン様は目を見開き、一拍、二拍と間を置き。
「……は?」
と呟いた。
私は壁から自分の手を引き上げると、腕を組む。
「わたくし、気付いたのです。あなた様が何故わたくしをここに連れて来られたのか」
セリアン様はいまだ衝撃から立ち直れないのか、あるいは呆れ果てているだけか、黙って様子見している。
「セリアン様にはわたくしがあなた様の元に訪れる理由が分かっていたはずです。わたくしの要求を却下するだけなら、話を早く切りあげて立ち去れば良かったのです。ですがあなた様はそうされなかった。こんなにも不毛な会話を繰り返し、時間を無駄に費やしてまでも立ち去らなかった。そこから導き出される答えはただ一つ」
私はセリアン様に人差し指をびしりと突きつけた。
「ずばり、あなた様はわたくしとお友達になりたかったのでしょう!」
「……じゃあ、お疲れー」
そう言って手をひらひらさせて立ち去ろうとするセリアン様の袖を掴む。
「まあまあ。図星を指されたからって、そう照れなくてもよろしいのですよ、セリアン様」
すると彼は足を止めて振り返ると皮肉っぽく笑う。
「図星じゃなくて呆れているだけ。あのさ。生憎だけど、俺の周りには男も女も掃いて捨てるほどたくさんいるよ」
掃いて捨てるとはまた驕慢な物言いだ。……彼の立場からすれば仕方がないことかもしれないけれど。
「ええ。いるでしょう。下心を隠してあなた様に媚びへつらうご友人たちなら山ほど」
「――っ!」
ええ。私も大概性格が悪いです。けれどそれでセリアン様の顔色が変わった。笑顔で隠していた彼の素顔かもしれない。
「へえ。言ってくれるね」
「ええ。言いますとも。ですが、ご自分でも心当たりがおありだから、そのような怖いお顔をなさっているのでしょう?」
「怖い顔?」
私に言われて初めて気付いたように、眉をひそめ自分の頬を触る。
「ええ。笑顔の仮面が落ちておりますよ。ほら、セリアン様の足元に」
さすがにセリアン様は足元に視線を落とさなかったけれど、面倒臭そうにため息をついた。
「本当に君って、いい度胸しているね」
「ありがとう存じます」
「褒めて……いや、褒めているのかな、これは」
ご自分でも分からなくなったのか、セリアン様は腕を組んで首を傾げる。
「まあ、いいや。君の言い分を聞いてみようかな。俺が君を友人とするメリットをさ」
「あら、いやだ。勘違いなさらないでくださいませ」
私は口元に手を当てて、ころころと笑った。
「わたくしが、セリアン様のお友達になって差し上げるのです」
「ほほう。ソーデスカ。それはそれはドーモ」
目を細めて白けた視線を向けてくるセリアン様に私は腰に両手をやり、胸を張る。
「ええ。どうぞ存分に感謝してくださいませ」
「一体どこからその自信が出てくるんだろう」
「ほーら、今。わたくしに興味をお持ちであることを認めましたね?」
「……ああ、うん。ちょっと釣られてしまった」
素直に頷くセリアン様に私はふふんと鼻を鳴らした。
「セリアン様にもわたくしを友人にする価値はございましてよ。下心を一切隠さず、本音で語る友人を獲得できるわけですから」
「下心を一切隠さずって、本気で欲望ダダ漏れだね……。だけど、俺が君を信頼できる根拠を示してもらわないとね」
「根拠ですか」
うーん。
自分が信頼に値する人間だと証明することは難しい。
私は顎に拳を当てて首を傾げる。
「根拠を示すことはできません。ただ一つ申し上げられることは、わたくしにとって、公爵令息のセリアン様としては何の興味もございませんし、魅力も感じないというところでしょうか」
「言い方言い方」
セリアン様は苦笑いする。
「だけどさ。俺が王族のエルベルトと近く、取り次ぎできるから君は俺を利用しようとしているんだろ?」
「利用だなんて言葉が悪いですわ。それに何か誤解されているようですが、わたくしはただ、マリアンジェラ様のお見舞いに伺いたいだけです」
「マリアンジェラ嬢の……」
私の言葉から真意を読み取ってくれたのか、セリアン様は神妙な表情を浮かべた。
「ええ。ですからセリアン様のお力を少しお借りしたいのです。わたくしをマリアンジェラ様の元に連れて行ってくださいませんか」
「エルベルトを通さず?」
「わたくしの目的はマリアンジェラ様のお見舞いです。手段は問いません」
「なるほど」
セリアン様はふっと笑みを零す。
どうやら説得できたようだ。ほっとしたところ。
「だけど嫌だね」
……手強い。
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