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第176話 ジェラルド様の答え合わせ
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殿下がジェラルドさんに告白したことで、越えたくても越えられない壁が取り除かれ、お二人の関係はより強固なものになっていくのではないだろうかと思う。殿下に心強い味方が増えて、私もまた何だか嬉しい気分になった。
「殿下。これまでお医者様を呼びに向かったことがあるのですが、それは影が原因ではなかったのですか?」
ジェラルドさんが殿下に話を切り出して、私は意識をそちらに戻す。
影とは別に何か持病を抱えているのか、疑問に思ったのかもしれない。
「いや。影が原因だった。医者のアルバンは本当に医師でもあるが、呪術師家系のベルモンテ侯爵家とは親戚だ。彼を通してベルモンテ家に連絡してもらっていた」
なるほど。そうだったのか。
アルバン医師の存在は知らなかったけれど、私も一緒になって頷いてみる。
「普段は限界になる前に自分で彼の元へ訪れていたが、強い影だと一気に症状が来るのでそんな時は君に彼を呼びに行かせていたと思う。ロザンヌ嬢が来てからは倒れるほどのことはなくなったが、今回はいつでも対応できると油断しすぎていたらしい」
殿下は少し苦笑いをした。
「他にこの事をご存知の方はいらっしゃるのですか」
「現在は王位継承順位が高い男性、数名のみだ。女性は結婚で王室を離れることがほとんどなので、伝えられていない。男でも幼子は除くか」
情報漏洩を防ぐためだろうけれど、王女様もご存知ないとは。ただし、王室に入る王妃殿下には伝えられるわけね。子供に出る可能性が高いわけだし。
「あとは呪術師家系のベルモンテ侯爵家は代々周知の事実だ。そして君とロザンヌ嬢。――ああ、ロザンヌ嬢の侍女もだな」
「ユリアさんですか」
言葉足らずの殿下に、仕方がないから私が付け加えて進ぜよう。
「ええ。わたくしはいきなり親元から引き離され、恐れ多くも王宮入りさせられたあげく、さらに門外不出の王家の秘密を暴露され、親兄弟にさえも口外を禁止されました。しかし、十六歳になったばかりのわたくしのか細い肩にはあまりにも荷が重かろうと、せめてわたくしの侍女には事情を共有させようと多少なりとも殿下のご配慮からお伝えなさったのです」
「嫌味を交えつつの説明、ご苦労だった」
「お安い御用にございます」
「……だろうな」
再び苦笑いする殿下に、私はにっこりと笑みを返した
「そうだったのですか。ロザンヌ様も大変な責務を背負われていたのですね」
「ええ、ええ。分かっていただけますか。それはもう心苦しゅうございました」
私は全く涙の出ていない目元をハンカチでそっと押さえる。
誰かさんはきっと分かっていなかったでしょうけれども。
「そうか? そうは見えなかったが」
と殿下が何かおっしゃっているけれど、当然無視だ。
「あらためて確認いたしますが、殿下は影が憑いていない時に、ロザンヌ様に触れると体調を崩されるのですね」
「ああ」
「だからなのですね。馬車の中で距離を取られていたのは」
そうだった。ジェラルドさんには知らせていなかったので、殿下と同じ側の席に座り、思いっきり離れていたんだった。
「ええ。ですから馬車の乗降時、殿下の手をお借りする時も大変でした」
ジェラルドさんも不審に思っていたのだろう。苦笑しながら頷く。
「そういえばダンスの時もそうでしたね」
ああ。クロエさんだけではなく、ジェラルドさんにもチェックされていましたか。お恥ずかしい。
私はそんなこともありましたねと笑って誤魔化す。
私が殿下の侍女として採用されたことや厚すぎる待遇、殿下との距離間などの事が、ジェラルドさんの中で辻褄が合ったのではないだろうか。
色々疑問があったはずなのにジェラルドさんは護衛官としてのみの職務に徹して、私に尋問するようなことは決して無かった。私には真似できないことだ。すごい精神力だとあらためて思う。
「殿下とロザンヌ様は距離が近いようで遠い感覚もあり、とても不思議に思っておりました」
それはまさに私自身が実感していることだ。殿下もそう思ってくださっているだろうか。……思っているからどうだという話でもないけれど。
殿下も私も黙り込み、場が妙にしんみりした雰囲気になる。
「申し訳ございません。変な事を申しました」
「いや」
「いいえ」
殿下と私は同時に返事し、気まずさが増したなと思っていたら、殿下がこほんと一つ咳払いをした。
「ともかくだ。これからもロザンヌ嬢への対応を変える必要はないが、そういうことが根本にあるのだと意識下に置いてほしい」
「はい。承知いたしました」
「今はまだ彼女の存在は知られていないが、ここ最近、影祓いのためにベルモント侯爵家を呼んでいないことは不自然に思われているだろう」
それだけ殿下が影に憑かれることが多かったということになる。
「何か手出しするとも思わないが、一応ベルモント侯爵家、特にクラウディア嬢には気をつけてほしい」
「承知いたしました」
色々話が繋がったであろうジェラルドさんは真剣な表情で頷いた。
「殿下。これまでお医者様を呼びに向かったことがあるのですが、それは影が原因ではなかったのですか?」
ジェラルドさんが殿下に話を切り出して、私は意識をそちらに戻す。
影とは別に何か持病を抱えているのか、疑問に思ったのかもしれない。
「いや。影が原因だった。医者のアルバンは本当に医師でもあるが、呪術師家系のベルモンテ侯爵家とは親戚だ。彼を通してベルモンテ家に連絡してもらっていた」
なるほど。そうだったのか。
アルバン医師の存在は知らなかったけれど、私も一緒になって頷いてみる。
「普段は限界になる前に自分で彼の元へ訪れていたが、強い影だと一気に症状が来るのでそんな時は君に彼を呼びに行かせていたと思う。ロザンヌ嬢が来てからは倒れるほどのことはなくなったが、今回はいつでも対応できると油断しすぎていたらしい」
殿下は少し苦笑いをした。
「他にこの事をご存知の方はいらっしゃるのですか」
「現在は王位継承順位が高い男性、数名のみだ。女性は結婚で王室を離れることがほとんどなので、伝えられていない。男でも幼子は除くか」
情報漏洩を防ぐためだろうけれど、王女様もご存知ないとは。ただし、王室に入る王妃殿下には伝えられるわけね。子供に出る可能性が高いわけだし。
「あとは呪術師家系のベルモンテ侯爵家は代々周知の事実だ。そして君とロザンヌ嬢。――ああ、ロザンヌ嬢の侍女もだな」
「ユリアさんですか」
言葉足らずの殿下に、仕方がないから私が付け加えて進ぜよう。
「ええ。わたくしはいきなり親元から引き離され、恐れ多くも王宮入りさせられたあげく、さらに門外不出の王家の秘密を暴露され、親兄弟にさえも口外を禁止されました。しかし、十六歳になったばかりのわたくしのか細い肩にはあまりにも荷が重かろうと、せめてわたくしの侍女には事情を共有させようと多少なりとも殿下のご配慮からお伝えなさったのです」
「嫌味を交えつつの説明、ご苦労だった」
「お安い御用にございます」
「……だろうな」
再び苦笑いする殿下に、私はにっこりと笑みを返した
「そうだったのですか。ロザンヌ様も大変な責務を背負われていたのですね」
「ええ、ええ。分かっていただけますか。それはもう心苦しゅうございました」
私は全く涙の出ていない目元をハンカチでそっと押さえる。
誰かさんはきっと分かっていなかったでしょうけれども。
「そうか? そうは見えなかったが」
と殿下が何かおっしゃっているけれど、当然無視だ。
「あらためて確認いたしますが、殿下は影が憑いていない時に、ロザンヌ様に触れると体調を崩されるのですね」
「ああ」
「だからなのですね。馬車の中で距離を取られていたのは」
そうだった。ジェラルドさんには知らせていなかったので、殿下と同じ側の席に座り、思いっきり離れていたんだった。
「ええ。ですから馬車の乗降時、殿下の手をお借りする時も大変でした」
ジェラルドさんも不審に思っていたのだろう。苦笑しながら頷く。
「そういえばダンスの時もそうでしたね」
ああ。クロエさんだけではなく、ジェラルドさんにもチェックされていましたか。お恥ずかしい。
私はそんなこともありましたねと笑って誤魔化す。
私が殿下の侍女として採用されたことや厚すぎる待遇、殿下との距離間などの事が、ジェラルドさんの中で辻褄が合ったのではないだろうか。
色々疑問があったはずなのにジェラルドさんは護衛官としてのみの職務に徹して、私に尋問するようなことは決して無かった。私には真似できないことだ。すごい精神力だとあらためて思う。
「殿下とロザンヌ様は距離が近いようで遠い感覚もあり、とても不思議に思っておりました」
それはまさに私自身が実感していることだ。殿下もそう思ってくださっているだろうか。……思っているからどうだという話でもないけれど。
殿下も私も黙り込み、場が妙にしんみりした雰囲気になる。
「申し訳ございません。変な事を申しました」
「いや」
「いいえ」
殿下と私は同時に返事し、気まずさが増したなと思っていたら、殿下がこほんと一つ咳払いをした。
「ともかくだ。これからもロザンヌ嬢への対応を変える必要はないが、そういうことが根本にあるのだと意識下に置いてほしい」
「はい。承知いたしました」
「今はまだ彼女の存在は知られていないが、ここ最近、影祓いのためにベルモント侯爵家を呼んでいないことは不自然に思われているだろう」
それだけ殿下が影に憑かれることが多かったということになる。
「何か手出しするとも思わないが、一応ベルモント侯爵家、特にクラウディア嬢には気をつけてほしい」
「承知いたしました」
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