上 下
155 / 315

第155話 マリエル嬢と再会

しおりを挟む
 両親と別れてダンス会場に足を踏み入れた時には、もう既にダンスパーティーが始まっていた。

 私はマリエル嬢を探しながら歩き回っていると、ダンスホールにふと視線が行く。そこには殿下がご令嬢の手を取ってダンスをしている姿があった。

 どくりと胸が鳴る。

 もちろんこういう場では、殿下がご令嬢のお相手をするのは通例のことなのだろうと思う。それでも咄嗟に目を逸らしてしまう。
 ホールを見ないようにして、平静を装いながらしばらく歩いていると席に座っているマリエル嬢を見つけることができた。

「マリエル様」
「あ。ロザンヌ様!」

 マリエル嬢は笑顔で立ち上がって私を迎えてくれた。
 何だか日常が戻ってきた気がして、ほっとする。

「ロザンヌ様、ご両親はどうされました?」
「お誘いを受けてサロンに行きました」
「そうですか。うちもなのです。ここでお茶しましょうか」
「はい」

 ダンス会場には美味しそうなお菓子やお茶が用意されている。もちろんお菓子は別腹だ。
 ビュッフェスタイルになっているので、食べたいお菓子やお茶を自由に取ることができる。

 一口サイズのお菓子は二十種類以上、お茶も十種類以上はありそうだ。お菓子は全制覇したいところである。ひとまずお皿に上品そうに見える量だけ載せて、複数回通うことにしよう。

「学校でもお話をしますが、やはり王宮での談話は雰囲気が違いますね」
「そうですね。ドキドキしてしまいます」

 私たちは椅子に座るとお菓子とお茶をテーブルに並べる。
 本来ならここで男性とお近づきになれるよう、女性陣は頑張るのだろうけれども、私たちはお茶を楽しむことを一番にしてしまう。

 マリエル様はご婚約者様もいらっしゃることだし。私は……。うん。まあ、まずはお茶を楽しもう。

「皆さん、とても素敵なドレスですね」
「本当ですね」
「……あら。カトリーヌ様がいらっしゃるわ」

 マリエル嬢に言われて視線をやると、華やかに着飾ったカトリーヌ嬢が立って談話している姿が見えた。
 ドレスに負けていない顔立ちとは言え、赤色のドレスでスカートを大きく膨らませており、なかなかのド派手姿だ。他の上級貴族の方に目を付けられないといいけれどもと思う。まあ、そこまで心が狭い方はいらっしゃらないかもしれない。

 関わって来られてはかなわないし、視線を早々に逸らさねば。
 ああ、でも王宮では話しかけて来ないでねとおっしゃっていたぐらいだし、こちらに来ることはな――って、こっちに来ているし!

「あーら。ロザンヌ様。マリエル様。いらっしゃったの」

 ええ。いらっしゃいましたとも。それにしても、近寄るなと言っておいて自ら近付くとは何なのよ。
 私は苦笑いしながら立ち上がった。

「ごきげんよう、カトリーヌ様」
「ご、ごきげんよう」
「ええ。ごきげんよう」

 カトリーヌ嬢はまず遅れて返事をしたマリエル嬢のお姿をじろじろと無遠慮に眺めてみるも、マリエル嬢にはとても似合っていたし、品質も良いと判断したのだろう。特に文句を付けるところはなかったらしい。視線をすっと逸らした。
 次に私に視線を移すとじろじろ眺めるまでもなく、一瞥だけするとふっと唇に笑みを浮かべた。

「まあ。そのドレス姿、とてもお似合いね・・・・・・・・、ロザンヌ様」

 決して派手ではない控えめなドレスが私にぴったりだと皮肉を言いたいらしい。絡まれたらそう言われるだろうと予想していたし、自分もそう思っていたし、今さら腹も立たない。
 カトリーヌ嬢の取り巻きからくすくすと笑いが上がっているのは、ちょっとむかつきますが。言いたい事があるのならば、カトリーヌ嬢のようにはっきり物申せと。

「ありがとうございます。カトリーヌ様も鮮血のような・・・・・・真っ赤なドレスがとてもお似合いですわ」
「何ですって!?」

 噛みついてくるカトリーヌ嬢に周りから何だ何だと視線が集まった。
 私はにっこりと笑う。

「ですから、真っ赤なドレスがお綺麗なカトリーヌ様にはとてもよくお似合いだと申しました」

 すると周りの人間は褒められて何で怒っているんだとカトリーヌ嬢に不審な目が行った。
 それに気付いた彼女は強ばらせていた表情を何とか和らげる。

「あ、あなたと関わると碌な事がないわ。わたくしに話しかけないでちょうだい」

 私はカトリーヌ嬢に一歩たりとも近付いた覚えはありませんがね。

「まあ! わたくしからカトリーヌ様にお声をかけに行くことなど、とんでもないことですわ。だってカトリーヌ様がわたくしに、王宮では話しかけて来ないでとおっしゃったのですもの」

 ほほほと笑うと、カトリーヌ嬢は悔しそうにぐっと言葉を詰まらせて、取り巻きに行くわよ! と声をかけると身を翻して去って行った。

 本当に私のことが大好きよね、彼女……。
 私はまた苦笑しながら息をついた。
しおりを挟む
感想 262

あなたにおすすめの小説

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

《完結》《異世界アイオグリーンライト・ストーリー》でブスですって!女の子は変われますか?変われました!!

皇子(みこ)
恋愛
辺境の地でのんびり?過ごして居たのに、王都の舞踏会に参加なんて!あんな奴等のいる所なんて、ぜーたいに行きません!でブスなんて言われた幼少時の記憶は忘れないー!

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。

橘ハルシ
恋愛
 ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!  リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。  怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。  しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。 全21話(本編20話+番外編1話)です。

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

好みじゃないので悪しからず

浦 かすみ
恋愛
よくある、悪役令嬢の断罪…しかし興味ねーし?何かキャンキャン吠えてる女子がいるけど初対面だし? 辺境伯爵令嬢として生きてきて、デビュタントの当日自分が転生者だと思い出して、ぶっ倒れてから三日間…考えに考えた結果、この田舎(辺境)で骨を埋めよう!都会には行かない! なのに何だよ〜?王子殿下の美しさを認めるまで離れない!?いやいや好みじゃないし?私、マッチョと怖い顔は苦手なんだ! 【不定期更新です】

処理中です...