144 / 315
第144話 ユリアは器用か無器用か
しおりを挟む
本日も無事授業が終わり、マリエル嬢と別れて校舎を出るといつものように馬車の停留場所へと向かう。
「あ……あら」
私は二人が待つ馬車へと、筋肉痛が伴う小走りで向かう。
「ジェラルド様!? 今日は一日アレオン護衛官様の送迎ではなかったのですか?」
「お疲れ様です、ロザンヌ様。早めに終わったのでロザンヌ様のお迎えをと、殿下が申されたのです」
「そ、そうなのですか。お疲れのところ、ありがとうございます」
「いいえ。では参りましょうか」
ジェラルドさんが笑顔で手を差し出してくれたので、お借りしつつ私は馬車の中へ乗り込んだ。
今朝の様子を見ていると、ユリアはまたジェラルドさんの手を拒否するのだろう。二歩進んで三歩下がった形になるのかと、諦めていたところ。
「ユリアさん、どうぞ」
「ありがとうございます」
ジェラルドさんの手をお借りしてユリアは馬車に乗り込んできた。
思わずユリアの顔をまじまじと見つめてしまう。
「何でしょうか」
「何って、ジェラルド様の手をお借りするの?」
私が囁くような声で尋ねると、ユリアは難なく答える。
「どうぞと手を差し出してくださったので」
「今朝、アレオン様もそうされていたわよ」
「そうでしたか。ですが、ジェラルド様はこれまでと変わりなくとおっしゃったので」
つまりジェラルドさんには最初、自分から手をお借りしたいと言った以上、貫こうとしているということなのかな。あるいはジェラルドさんは特別で、それを言い訳にしているだけなのか。
うーん。
ユリアは器用なのか不器用なのか分からないな。
「出発いたしますね。では、お願いいたします」
中に乗り込んできたジェラルドさんのお言葉で馬車が緩やかに動き出す。
「ロザンヌ様、本日の学校はいかがでしたか?」
いつものようにジェラルドさんは話題を振ってくださる。
「特に代わり映えなく――ああ、いえ。晩餐会のことで持ちきりでした」
「なるほど。招待状がそろそろ届いている頃ですからね」
「ジェラルド様はご出席なさるのですか?」
「殿下の護衛という形でお側に付かせていただきます」
護衛官としてか。
伯爵家の三男とはいえ、不謹慎ではあるけれどご兄弟にもし何かあった時、もしくは世継ぎの男児に恵まれなかった時、爵位が譲り受けられる場合がある。
つまりジェラルドさんはただの庶民ですとはおっしゃったけれど、領地を統治する貴族の身分にいつ戻ってもおかしくないお立場の方だ。それなのに常日頃から謙虚でいらっしゃる。
同じ伯爵家の人間でも大違い。誰とは言わないけれど、カトリーヌ嬢! 君だよ君!
「ロザンヌ様? どうかされましたか?」
拳を作っている私にジェラルド様は首を傾げた。
「いえいえ」
私は拳を解き、おほほほと唇に手を当ててて笑う。
「そう言えばユリア」
「はい」
「聞いたことがなかったのだけれど、あなたはわたくしが学校に行っている間は何をしているの?」
「お部屋の掃除や洗濯です。他にもクロエさんに指示されたお仕事もしています」
あ、そっか。ユリアは私の侍女だけれども、行儀見習いとして王宮入りした私に侍女が付くのはおかしいから女性使用人としての仕事をこなしているのか。実家では大人数の人を抱えているわけではないから、侍女も女中の分類もなく、同じようなお仕事をしてもらっていたから気付かなかった。
「そう。いつもありがとう。空き時間は何をしているの?」
「休憩したり、お昼を食べます」
「そ、そうね。他には?」
普通すぎた答えに私は他に無いのかと探りを入れる。
「他……鍛錬場に顔を出したりすることもあります」
「え? 鍛錬しているの? 休みの日だけではなくて?」
「いえ。同僚に連れられて見学しているだけです」
「そう」
同僚の方とも仲良くなっているみたいで良かった。鍛錬場に参加したことが功を奏したのかな。試合の時も結構応援してもらっていたし。
「あとはお花を頂いたりしています」
「お花? ああ、お部屋に飾ってくれている一輪挿しのお花? 毎日、違うお花に変えてくれているわよね」
どこから手に入れてくれているのか、気になってはいたのよね。
「ええ。庭師のユアンさんに毎日一輪頂いています」
「へ――」
「え? ユアン・ロードさんですか?」
へぇ、と言おうとしたところで、それまで黙っていたジェラルドさんが口を開いた。
「あ……あら」
私は二人が待つ馬車へと、筋肉痛が伴う小走りで向かう。
「ジェラルド様!? 今日は一日アレオン護衛官様の送迎ではなかったのですか?」
「お疲れ様です、ロザンヌ様。早めに終わったのでロザンヌ様のお迎えをと、殿下が申されたのです」
「そ、そうなのですか。お疲れのところ、ありがとうございます」
「いいえ。では参りましょうか」
ジェラルドさんが笑顔で手を差し出してくれたので、お借りしつつ私は馬車の中へ乗り込んだ。
今朝の様子を見ていると、ユリアはまたジェラルドさんの手を拒否するのだろう。二歩進んで三歩下がった形になるのかと、諦めていたところ。
「ユリアさん、どうぞ」
「ありがとうございます」
ジェラルドさんの手をお借りしてユリアは馬車に乗り込んできた。
思わずユリアの顔をまじまじと見つめてしまう。
「何でしょうか」
「何って、ジェラルド様の手をお借りするの?」
私が囁くような声で尋ねると、ユリアは難なく答える。
「どうぞと手を差し出してくださったので」
「今朝、アレオン様もそうされていたわよ」
「そうでしたか。ですが、ジェラルド様はこれまでと変わりなくとおっしゃったので」
つまりジェラルドさんには最初、自分から手をお借りしたいと言った以上、貫こうとしているということなのかな。あるいはジェラルドさんは特別で、それを言い訳にしているだけなのか。
うーん。
ユリアは器用なのか不器用なのか分からないな。
「出発いたしますね。では、お願いいたします」
中に乗り込んできたジェラルドさんのお言葉で馬車が緩やかに動き出す。
「ロザンヌ様、本日の学校はいかがでしたか?」
いつものようにジェラルドさんは話題を振ってくださる。
「特に代わり映えなく――ああ、いえ。晩餐会のことで持ちきりでした」
「なるほど。招待状がそろそろ届いている頃ですからね」
「ジェラルド様はご出席なさるのですか?」
「殿下の護衛という形でお側に付かせていただきます」
護衛官としてか。
伯爵家の三男とはいえ、不謹慎ではあるけれどご兄弟にもし何かあった時、もしくは世継ぎの男児に恵まれなかった時、爵位が譲り受けられる場合がある。
つまりジェラルドさんはただの庶民ですとはおっしゃったけれど、領地を統治する貴族の身分にいつ戻ってもおかしくないお立場の方だ。それなのに常日頃から謙虚でいらっしゃる。
同じ伯爵家の人間でも大違い。誰とは言わないけれど、カトリーヌ嬢! 君だよ君!
「ロザンヌ様? どうかされましたか?」
拳を作っている私にジェラルド様は首を傾げた。
「いえいえ」
私は拳を解き、おほほほと唇に手を当ててて笑う。
「そう言えばユリア」
「はい」
「聞いたことがなかったのだけれど、あなたはわたくしが学校に行っている間は何をしているの?」
「お部屋の掃除や洗濯です。他にもクロエさんに指示されたお仕事もしています」
あ、そっか。ユリアは私の侍女だけれども、行儀見習いとして王宮入りした私に侍女が付くのはおかしいから女性使用人としての仕事をこなしているのか。実家では大人数の人を抱えているわけではないから、侍女も女中の分類もなく、同じようなお仕事をしてもらっていたから気付かなかった。
「そう。いつもありがとう。空き時間は何をしているの?」
「休憩したり、お昼を食べます」
「そ、そうね。他には?」
普通すぎた答えに私は他に無いのかと探りを入れる。
「他……鍛錬場に顔を出したりすることもあります」
「え? 鍛錬しているの? 休みの日だけではなくて?」
「いえ。同僚に連れられて見学しているだけです」
「そう」
同僚の方とも仲良くなっているみたいで良かった。鍛錬場に参加したことが功を奏したのかな。試合の時も結構応援してもらっていたし。
「あとはお花を頂いたりしています」
「お花? ああ、お部屋に飾ってくれている一輪挿しのお花? 毎日、違うお花に変えてくれているわよね」
どこから手に入れてくれているのか、気になってはいたのよね。
「ええ。庭師のユアンさんに毎日一輪頂いています」
「へ――」
「え? ユアン・ロードさんですか?」
へぇ、と言おうとしたところで、それまで黙っていたジェラルドさんが口を開いた。
23
お気に入りに追加
3,725
あなたにおすすめの小説
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
暗闇に輝く星は自分で幸せをつかむ
Rj
恋愛
許婚のせいで見知らぬ女の子からいきなり頬をたたかれたステラ・デュボワは、誰にでもやさしい許婚と高等学校卒業後にこのまま結婚してよいのかと考えはじめる。特待生として通うスペンサー学園で最終学年となり最後の学園生活を送る中、許婚との関係がこじれたり、思わぬ申し出をうけたりとこれまで考えていた将来とはまったく違う方向へとすすんでいく。幸せは自分でつかみます!
ステラの恋と成長の物語です。
*女性蔑視の台詞や場面があります。
《完結》《異世界アイオグリーンライト・ストーリー》でブスですって!女の子は変われますか?変われました!!
皇子(みこ)
恋愛
辺境の地でのんびり?過ごして居たのに、王都の舞踏会に参加なんて!あんな奴等のいる所なんて、ぜーたいに行きません!でブスなんて言われた幼少時の記憶は忘れないー!
政略結婚の為の婚約破棄など貴方には言えなかった
青空一夏
恋愛
私は、第三王女なので、政略結婚はしなくて良いと父である王様に言われていた。だから私は大好きな騎士団長ワイアットとの愛を育んでいた。けれど、大国の王に望まれた私は戦争を避けるために嫁ぐことになった。その大国の王は老人でその王が亡くなると側妃や愛妾は全て一緒に埋葬されるという風習も知った。
二度とワイアットに会えないことを悟った私は、ワイアットに憎まれることを選んだ。私のことなど忘れてワイアットには幸せになってほしかった。
「あなたみたいな貧乏貴族より、大国の王に嫁ぐわ」そんな心にもないことを言って、私は大好きな男性に恨まれ蔑まれ嫌われた。
泣く泣く嫁入りをした私だが、その3年後に嫁ぎ先の王が亡くなる前に私を祖国に帰してくれた。帰ってきた私に大金持ちになったワイアットが結婚を申し込むが、これは彼の復讐だった。
私は、この結婚で愛が掴めるのでしょうか?
よくありがちなお話の流れです。
王太子様お願いです。今はただの毒草オタク、過去の私は忘れて下さい
シンさん
恋愛
ミリオン侯爵の娘エリザベスには秘密がある。それは本当の侯爵令嬢ではないという事。
お花や薬草を売って生活していた、貧困階級の私を子供のいない侯爵が養子に迎えてくれた。
ずっと毒草と共に目立たず生きていくはずが、王太子の婚約者候補に…。
雑草メンタルの毒草オタク侯爵令嬢と
王太子の恋愛ストーリー
☆ストーリーに必要な部分で、残酷に感じる方もいるかと思います。ご注意下さい。
☆毒草名は作者が勝手につけたものです。
表紙 Bee様に描いていただきました
あなただけが私を信じてくれたから
樹里
恋愛
王太子殿下の婚約者であるアリシア・トラヴィス侯爵令嬢は、茶会において王女殺害を企てたとして冤罪で投獄される。それは王太子殿下と恋仲であるアリシアの妹が彼女を排除するために計画した犯行だと思われた。
一方、自分を信じてくれるシメオン・バーナード卿の調査の甲斐もなく、アリシアは結局そのまま断罪されてしまう。
しかし彼女が次に目を覚ますと、茶会の日に戻っていた。その日を境に、冤罪をかけられ、断罪されるたびに茶会前に回帰するようになってしまった。
処刑を免れようとそのたびに違った行動を起こしてきたアリシアが、最後に下した決断は。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる