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第102話 ユリアの試合

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 鍛練場に着くと、男女混じった声でざわざわとしている。既に仮試合が行われているのだろうか。

「あら? 女性の歓声がしませんか?」

 今の時代は、女性騎士はいないと聞いていたけれど……。

「見学する場所があるから、そこに集まっているのだろう」
「え? 見学する場所があったのですか?」
「ああ。本来は上官が監視したり、貴族が見学するための場所だったが、今は開放されている。この出入り口に女性たちがあまりにも密集して占有してしまうからな」

 前回はユリアの様子に気を取られてそこまで思い当たらなかったけれど、憧れの騎士様の勇姿を見ようと、鍛練場に女性たちが集まっていてもおかしくなかったはずだ。
 そう考えてみれば、もしかしたら女性の歓声も含まれていたかもしれない。

「それに女性の目があると、騎士たちの士気が上がるらしい」

 女性の存在で士気が上がるだんて、男性は単純でお可愛らしいこと。……いえ、自分の格好いい所を見せたいと思うのは当然のことかしら。

「私が皆の前に姿を現すと場が乱れるだろうからここでいいか?」
「はい。大丈夫です」

 と言うことで、私たちは出入り口からこっそりと覗き見する。

 鍛練場はかなり広く、中央を空けて周りに騎士たちが囲むように座っている。そこで仮試合が行われるのだろう。中央の場所を三つに分けて試合をするようだ。三グループそれぞれに勝敗を決める者、審判がついている。

「今日はまだ試合が行われていなかったようですね」
「そうだな」

 すると丁度、試合が始まるところだったようだ。名前が次々と呼ばれ、その人物が中央へと向かう。

「アラン・オーギュスト、ユリア・ラドロ。両者、前に」

 よく知る名前を呼び上げられて、私は胸がどきりと高鳴った。

「で、殿下。ユリアですユリア!」
「ああ。しかも相手はこの前、最後に絡んできた騎士のようだな」
「え!?」

 私は殿下からまたそちらの方に視線を戻す。
 確かに屈強な体つきとそれに似合った顔に見覚えがある。

 あんな男とか弱い・・・女性が対するのよ? 誰も止めてくれないの!?
 ジェラルドさんの姿を慌てて探すと、やはり彼もユリアを止めようとしてくれているけれど、ユリアは大丈夫ですと振り切ったようだ。

 ああぁぁぁっ! なぜこんな時まで振り切るのよ!
 私は青ざめた頬を両手で押さえる。

「落ち着け。君の侍女は最強侍女なんだろう?」
「そ、そうは申しましたが。相手はあんな強そうな方なのですよ? いくらユリアが強いと申しましても」

 それに本気であの方が試合を申し込んでくるとは思わなかった。

「君の侍女を信じろ。実際、彼女も到底敵わない相手だと思えば、のこのこ出て行かないだろう。それにいざとなれば、ジェラルドが中に入るはずだ」
「そ、それはそうでございますが」

 私はまた鍛練場に目を移す。
 二人は中央で顔合わせすると、アラン騎士がふんと笑っているところだった。

「よく逃げ出さずに出て来たな」

 アラン騎士は挑発しているけれど、ユリアは淡々とよろしくお願いいたしますと返すのみ。
 その飄々としたユリアの態度が余計、相手の騎士の闘争心を煽っている。

 ハラハラとしていると。

「アラン! 女なんかに負けんなよー!」
「ユリアさーん! 頑張れぇー!」
「そんな大男、やっつけちゃえー!」

 意外にもユリアを応援してくれる声も含まれる。

 頑張れ、ユリア!
 私は胸の前でぎゅっと手を組む。

「始め!」

 三つのグループがかけ声と共に動きだす。もちろん私の視線の先はユリアだ。
 アラン騎士が先制攻撃とばかりにユリアに向かって木剣を振り下ろした。

 とても女性を相手にしているとは思えないほどの勢いだ。
 ユリアは自らの剣ですばやく受け止めるも体格差があり、体重差があり、ぎりぎりと自分の身の方へと押される。

「ユリア……ユリア!」

 耐えきれずに口を押さえて小さく呟いてしまう。

 すると、まるで私が祈る声が聞こえたかのように、ユリアが前へと足を踏み込んでアラン騎士の脇にすっと入り込んだ。そして手を下に落としてアラン騎士の剣を流し回し、自分の剣を上に持ってきたかと思うと、彼の手元ぎりぎりに一撃を入れて剣を叩き落とす。ユリアはすかさず動揺するアラン騎士の首元に自分の剣をびしりと向けた。

「――そ、そこまで! ユリア・ラドロの勝利!」

 流れるような一連の動きに審判は息を呑んだけれどすぐに我に返り、ユリアの勝利を告げると、わっと歓声が沸き起こった。
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