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第59話 平身低頭あるのみ
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あまりにの驚愕に声が出なかったのは、この部屋には国王陛下と王妃殿下がお越しになっていたからだ。
「君がロザンヌ・ダングルベール子爵令嬢だね」
「初めまして。エルベルトの母です。よろしくね」
陛下と殿下は私の姿を認めると、すぐに立ち上がってくださった。
「は、はいぃぃっ! ロ、ロザンヌ・ダダンッグルベールと、もっ申します!?」
直立不動で答えてしまった。
な、何!? いきなり何!? 聞いていないよ!? どういうこと!?
私は咄嗟にエルベルト殿下の顔を見る。
「君が希望していた通り、陛下と王妃殿下に謁見を取り付けたんだ」
き、希望していましたけど。希望していましたけど! 何の予告もなくどうしていきなり!?
「どうした? さあ、ご挨拶してくれ」
酸素不足でぱくぱくと言葉にならない私の一方、当の殿下は意地悪そうににっと唇を横に薄く引いた。するとそれを目敏く見つけて反応なさったのは王妃殿下だ。
「エルベルト。もしかしてわたくしたちが今日、こちらにお邪魔することをお伝えしていなかったの?」
「ああ。そう言えば場所と日にちは伝え忘れたかな」
視線を逸らして空とぼけしちゃってー! わざとらしいぞ! このぉぉぉっ!
「はぁ。お前というやつは……」
「まあ、この子ったら! 意地悪な子ね!」
陛下は頭が痛そうに手を額に当てられ、王妃殿下はエルベルト殿下に非難の目を向けられた。
「息子が悪かったね。ロザンヌ・ダングルベール子爵令嬢」
「本当よ。ごめんなさいね。後できつく叱っておきますからね! では、あらためまして。エルベルトの母です。よろしくね」
「こ、こちらこそ失礼いたしました。あらためましてご挨拶させていただきます。ロザンヌ・ダングルベールと申します」
私は今度こそ深々と貴族礼義を取った。
「ほ、本来でしたらこちらからお伺いしなければなりませんところを、大変失礼いたしました」
「いやいや。こちらこそエルベルトが先の社交場で無礼を働いたと聞いている。悪かったね」
「そうそう。しかもあなたはあの日が社交デビューの日だったのでしょう。とんだ酷い日にしてしまったわね。わたくしたちも心を痛めていたの。本当にごめんなさいね」
陛下と王妃殿下に謝罪のお言葉をかけていただいて、とんでもないことでございますとひたすら身を小さくして視線を下げて恐縮するばかりだ。
「とにかく一度椅子に掛けて話そうか」
陛下のお言葉で、着座してお話しすることになった。私の横にはエルベルト殿下が、向かい側に陛下と王妃殿下がお座りになる。
「エルベルト付きの侍女の件についてだが、それも聞いているよ」
「ええ。あなたにはご迷惑をおかけした上にお世話になっているわね。ありがとう」
「い、いえ。そんな」
気さくに話しかけてくださるけれど、まとわれている王族としての貫禄にやはり気圧されてしまう。
「こればかりは私たちにはどうにもできないらしい。どうかエルベルトの力になってやっておくれ」
「よろしくお願いいたしますね」
陛下と王妃殿下のお言葉に、私は再びスカートに顔を埋めるくらいの勢いで伏せた。
「は、はい。懸命に仕えさせていただきます」
「ありがとう。どうぞよろしく頼む。――それで君への報酬だが。表立っての優遇もできないし、望んでいないというお話だが、せめて君の父君の領地にある福祉施設について支援させてもらおうと考えている」
「え……」
陛下のお言葉に驚いて頭を上げ、反射的に横のエルベルト殿下を見ると、殿下は少し笑って首を傾げた。
「君の父君はかなり以前から福祉に尽力されているようだね。ただ、資金難でなかなか上手く行かないとも聞いている」
「……はい」
施設維持費に人件費、生活支援など、施設に人が集まれば集まるほどかかる費用は膨れ上がる。
「本来なら国民の生活を守るのは我々、国がすべきことなんだがね。広い領土に各地域の貴族の統治に任せきりの部分があった。……いや。お恥ずかしい話だが、この国の暗闇の部分を見て見ぬ振りをしてきた。しかし、これを機に他の地域にも支援の手を積極的に伸ばそうと思っている」
国が動いてくれれば、ユリアの様な子たちは一人でも減るかもしれない。
「へ、陛下のご厚情、深く感謝いたします。ありがとうございます。あ、ありがとう存じます。ありがとうございました」
何度も感謝を述べると、王妃殿下はここに来てから初めての笑顔ねと微笑まれた。
「君がロザンヌ・ダングルベール子爵令嬢だね」
「初めまして。エルベルトの母です。よろしくね」
陛下と殿下は私の姿を認めると、すぐに立ち上がってくださった。
「は、はいぃぃっ! ロ、ロザンヌ・ダダンッグルベールと、もっ申します!?」
直立不動で答えてしまった。
な、何!? いきなり何!? 聞いていないよ!? どういうこと!?
私は咄嗟にエルベルト殿下の顔を見る。
「君が希望していた通り、陛下と王妃殿下に謁見を取り付けたんだ」
き、希望していましたけど。希望していましたけど! 何の予告もなくどうしていきなり!?
「どうした? さあ、ご挨拶してくれ」
酸素不足でぱくぱくと言葉にならない私の一方、当の殿下は意地悪そうににっと唇を横に薄く引いた。するとそれを目敏く見つけて反応なさったのは王妃殿下だ。
「エルベルト。もしかしてわたくしたちが今日、こちらにお邪魔することをお伝えしていなかったの?」
「ああ。そう言えば場所と日にちは伝え忘れたかな」
視線を逸らして空とぼけしちゃってー! わざとらしいぞ! このぉぉぉっ!
「はぁ。お前というやつは……」
「まあ、この子ったら! 意地悪な子ね!」
陛下は頭が痛そうに手を額に当てられ、王妃殿下はエルベルト殿下に非難の目を向けられた。
「息子が悪かったね。ロザンヌ・ダングルベール子爵令嬢」
「本当よ。ごめんなさいね。後できつく叱っておきますからね! では、あらためまして。エルベルトの母です。よろしくね」
「こ、こちらこそ失礼いたしました。あらためましてご挨拶させていただきます。ロザンヌ・ダングルベールと申します」
私は今度こそ深々と貴族礼義を取った。
「ほ、本来でしたらこちらからお伺いしなければなりませんところを、大変失礼いたしました」
「いやいや。こちらこそエルベルトが先の社交場で無礼を働いたと聞いている。悪かったね」
「そうそう。しかもあなたはあの日が社交デビューの日だったのでしょう。とんだ酷い日にしてしまったわね。わたくしたちも心を痛めていたの。本当にごめんなさいね」
陛下と王妃殿下に謝罪のお言葉をかけていただいて、とんでもないことでございますとひたすら身を小さくして視線を下げて恐縮するばかりだ。
「とにかく一度椅子に掛けて話そうか」
陛下のお言葉で、着座してお話しすることになった。私の横にはエルベルト殿下が、向かい側に陛下と王妃殿下がお座りになる。
「エルベルト付きの侍女の件についてだが、それも聞いているよ」
「ええ。あなたにはご迷惑をおかけした上にお世話になっているわね。ありがとう」
「い、いえ。そんな」
気さくに話しかけてくださるけれど、まとわれている王族としての貫禄にやはり気圧されてしまう。
「こればかりは私たちにはどうにもできないらしい。どうかエルベルトの力になってやっておくれ」
「よろしくお願いいたしますね」
陛下と王妃殿下のお言葉に、私は再びスカートに顔を埋めるくらいの勢いで伏せた。
「は、はい。懸命に仕えさせていただきます」
「ありがとう。どうぞよろしく頼む。――それで君への報酬だが。表立っての優遇もできないし、望んでいないというお話だが、せめて君の父君の領地にある福祉施設について支援させてもらおうと考えている」
「え……」
陛下のお言葉に驚いて頭を上げ、反射的に横のエルベルト殿下を見ると、殿下は少し笑って首を傾げた。
「君の父君はかなり以前から福祉に尽力されているようだね。ただ、資金難でなかなか上手く行かないとも聞いている」
「……はい」
施設維持費に人件費、生活支援など、施設に人が集まれば集まるほどかかる費用は膨れ上がる。
「本来なら国民の生活を守るのは我々、国がすべきことなんだがね。広い領土に各地域の貴族の統治に任せきりの部分があった。……いや。お恥ずかしい話だが、この国の暗闇の部分を見て見ぬ振りをしてきた。しかし、これを機に他の地域にも支援の手を積極的に伸ばそうと思っている」
国が動いてくれれば、ユリアの様な子たちは一人でも減るかもしれない。
「へ、陛下のご厚情、深く感謝いたします。ありがとうございます。あ、ありがとう存じます。ありがとうございました」
何度も感謝を述べると、王妃殿下はここに来てから初めての笑顔ねと微笑まれた。
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