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第24話 安寧な学園生活に戻る
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学校に到着し、ジェラルドさんにお礼を告げて私は校舎へと歩いて行く。
王家の紋章が入った馬車から出てきた私は、昨日とは違う視線がちらちらと向けられる。
これまで注目されるような人間ではなかったので、慣れぬ多くの視線が痛くてかなわない。私は見世物じゃないぞと思うけれど、彼らの立場なら自分ももしかしたら同じ事をしてしまうかもしれないので、大人になってぐっと我慢することにした。
教室に入るとクラスメートが急ぎ、私の席に集まってきた。
「ねねね。さっき王家御用達の馬車で通学したわよね!?」
「昨日もそれで王宮に向かうのを見た人がいるって聞いた」
「どういうことです? ロザンヌ様は王家の近縁者の方だったのですか?」
「え。それだったまずくないか!? 俺たちが普通に口聞いていい立場じゃなくないだろ」
矢継ぎ早に次々と投げかけられる言葉に、私は逆にゆっくりと笑ってみせた。
「王家の近縁者だなんてとんでもないお話です。先日の社交場のことで迷惑をかけたと、殿下の多大なるご厚意のおかげで行儀見習いとして王宮入りさせていただくお話となったのです」
「行儀見習いですか!?」
「この学校でも、王宮で行儀見習いしている子がいると聞くけど、縁故とか上級貴族の人じゃなかった?」
「まさか俺たちのクラスメートから出るとはなー」
「凄いじゃん。王宮に立ち入ることなんて滅多と無いからさ」
華やぐ彼らを前に、私は額にこっそりと青筋を立てながら、さらににっこりと微笑んでみせた。
「ええ。これも全て殿下のご配慮の賜で」
と、言うしかほかないのが何とも癪に障る!
彼らとそんな話を交わしていると、目の端にカトリーヌ嬢ご一行様が登校してきた姿が目に入る。
私と目が合うと、彼女ははっと顔色を変え、慌てて視線を横に逃がした。
昨日、ジェラルドさんが先生の元に彼らを連行していった後、先生から事情聴取を受けた。彼らは否定しようものにも、王家から遣わされたジェラルドさんという目撃者がいたこともあり、素直に非を認めた。
目星をつけていたのだろうか。先生は朝の話に言及すると、カトリーヌ嬢もまた項垂れて自分のした全ての事を認めた。
先生は正義感の強い方なので厳しい処分を言い渡そうとした。しかし私としてはいつ殿下の後ろ盾が無くなるか分からない状態もあって、事を大袈裟にして逆恨みされたくはなかった。そこで、今後私に対する嫌がらせを止めてさえくれれば不問にしたいと口八丁に申し出たところ、先生は渋った様子だったがそれを受け入れてくれた。次はないぞと釘だけはしっかりと刺して。
殿下の庇護下にある間は私の学園生活は安寧だろうけれど、それが無くなった時に逆恨みをしてくれないことだけを祈る。私はあなたを一度は許してさしあげたのだから。
まあ、私はやられたって泣き寝入りなどしてやらない。――倍々返しだ!
「ねえねえ。また王宮の内部とか教えてよー」
私は視線を戻し、また彼らの会話に戻る。
「いや、それは普通に駄目だろ。無理を言ってやるなよ」
「何よ。あなただって興味あるでしょ」
たしなめる男子生徒に女子生徒はぶぅと頬を膨らませた。
「あるけどさ、王宮内部なんてぺらぺら話していいもんじゃないだろ」
「ええ。確かにそうですね。でも、どんなお花が飾ってあるとか、どんなお庭とかお話できる範囲ならお伝えしますね」
「やったあ!」
「女はホントお喋りだよなぁ」
私は否定も肯定もせず、ただ苦笑していると、また目の端に気になる生徒が映った。マリエル嬢だ。
「ごめんなさい。少し失礼いたしますね」
私は席から立ち上がると、彼女の方へと歩み寄る。
「マリエル様、おはようございます」
「おはようございます、ロザンヌ様。あの……」
相変わらずおずおずした様子の彼女に私はにっこりと笑みを向けた。
「ひとまず決着がつきましたわ。またこれからよろしくお願いいたしますね」
「わたくしはロザンヌ様が大変な時に逃げ出した臆病者です。友人の資格など」
「……そうですか。わたくしの身勝手で始めたことですものね。マリエル様に呆れ返られてしまっても仕方はございませんわよね」
半ば視線を落とすと、マリエル嬢は慌てて言葉を継ぐ。
「そ、そんな。そんな意味では! 問題はわたくしの方で」
「いいえ。マリエル様の信用を崩したわたくしが原因なのです。でも。でもわたくしの身勝手をお許しいただけるなら、どうかまたご友人となっていただけませんか」
マリエル嬢の手を取ってぎゅっと握りしめた。すると彼女は優しく握り返してくれる。
「ロザンヌ様……。ありがとうございます」
「では」
彼女は涙目で、でもしっかりと頷いてくれた。
「不束者ですが、どうぞよろしくお願いいたします」
「不束者だなんて。わたくしのお嫁さんに来てくださるみたい」
何気なくそう言うと彼女は目を見開いて直後吹き出し、私もおかしくなって二人くすくすと笑い合った。
王家の紋章が入った馬車から出てきた私は、昨日とは違う視線がちらちらと向けられる。
これまで注目されるような人間ではなかったので、慣れぬ多くの視線が痛くてかなわない。私は見世物じゃないぞと思うけれど、彼らの立場なら自分ももしかしたら同じ事をしてしまうかもしれないので、大人になってぐっと我慢することにした。
教室に入るとクラスメートが急ぎ、私の席に集まってきた。
「ねねね。さっき王家御用達の馬車で通学したわよね!?」
「昨日もそれで王宮に向かうのを見た人がいるって聞いた」
「どういうことです? ロザンヌ様は王家の近縁者の方だったのですか?」
「え。それだったまずくないか!? 俺たちが普通に口聞いていい立場じゃなくないだろ」
矢継ぎ早に次々と投げかけられる言葉に、私は逆にゆっくりと笑ってみせた。
「王家の近縁者だなんてとんでもないお話です。先日の社交場のことで迷惑をかけたと、殿下の多大なるご厚意のおかげで行儀見習いとして王宮入りさせていただくお話となったのです」
「行儀見習いですか!?」
「この学校でも、王宮で行儀見習いしている子がいると聞くけど、縁故とか上級貴族の人じゃなかった?」
「まさか俺たちのクラスメートから出るとはなー」
「凄いじゃん。王宮に立ち入ることなんて滅多と無いからさ」
華やぐ彼らを前に、私は額にこっそりと青筋を立てながら、さらににっこりと微笑んでみせた。
「ええ。これも全て殿下のご配慮の賜で」
と、言うしかほかないのが何とも癪に障る!
彼らとそんな話を交わしていると、目の端にカトリーヌ嬢ご一行様が登校してきた姿が目に入る。
私と目が合うと、彼女ははっと顔色を変え、慌てて視線を横に逃がした。
昨日、ジェラルドさんが先生の元に彼らを連行していった後、先生から事情聴取を受けた。彼らは否定しようものにも、王家から遣わされたジェラルドさんという目撃者がいたこともあり、素直に非を認めた。
目星をつけていたのだろうか。先生は朝の話に言及すると、カトリーヌ嬢もまた項垂れて自分のした全ての事を認めた。
先生は正義感の強い方なので厳しい処分を言い渡そうとした。しかし私としてはいつ殿下の後ろ盾が無くなるか分からない状態もあって、事を大袈裟にして逆恨みされたくはなかった。そこで、今後私に対する嫌がらせを止めてさえくれれば不問にしたいと口八丁に申し出たところ、先生は渋った様子だったがそれを受け入れてくれた。次はないぞと釘だけはしっかりと刺して。
殿下の庇護下にある間は私の学園生活は安寧だろうけれど、それが無くなった時に逆恨みをしてくれないことだけを祈る。私はあなたを一度は許してさしあげたのだから。
まあ、私はやられたって泣き寝入りなどしてやらない。――倍々返しだ!
「ねえねえ。また王宮の内部とか教えてよー」
私は視線を戻し、また彼らの会話に戻る。
「いや、それは普通に駄目だろ。無理を言ってやるなよ」
「何よ。あなただって興味あるでしょ」
たしなめる男子生徒に女子生徒はぶぅと頬を膨らませた。
「あるけどさ、王宮内部なんてぺらぺら話していいもんじゃないだろ」
「ええ。確かにそうですね。でも、どんなお花が飾ってあるとか、どんなお庭とかお話できる範囲ならお伝えしますね」
「やったあ!」
「女はホントお喋りだよなぁ」
私は否定も肯定もせず、ただ苦笑していると、また目の端に気になる生徒が映った。マリエル嬢だ。
「ごめんなさい。少し失礼いたしますね」
私は席から立ち上がると、彼女の方へと歩み寄る。
「マリエル様、おはようございます」
「おはようございます、ロザンヌ様。あの……」
相変わらずおずおずした様子の彼女に私はにっこりと笑みを向けた。
「ひとまず決着がつきましたわ。またこれからよろしくお願いいたしますね」
「わたくしはロザンヌ様が大変な時に逃げ出した臆病者です。友人の資格など」
「……そうですか。わたくしの身勝手で始めたことですものね。マリエル様に呆れ返られてしまっても仕方はございませんわよね」
半ば視線を落とすと、マリエル嬢は慌てて言葉を継ぐ。
「そ、そんな。そんな意味では! 問題はわたくしの方で」
「いいえ。マリエル様の信用を崩したわたくしが原因なのです。でも。でもわたくしの身勝手をお許しいただけるなら、どうかまたご友人となっていただけませんか」
マリエル嬢の手を取ってぎゅっと握りしめた。すると彼女は優しく握り返してくれる。
「ロザンヌ様……。ありがとうございます」
「では」
彼女は涙目で、でもしっかりと頷いてくれた。
「不束者ですが、どうぞよろしくお願いいたします」
「不束者だなんて。わたくしのお嫁さんに来てくださるみたい」
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